第Ⅱ章 第6話 ~私達、何の為に戦ったのかな……~
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
ヨハネス……リステラ王国の大神官であり、メイ術士学院の校長。術士。男性。
冷たい壁に背を預けて座りながら、ノイシュははるか上部の格子から差し込んでいる
「……
不意に落ち着いた少女の声が耳に届き、ノイシュが顔を向けるとノヴァもまた小窓から
「……分からない、だが、戦後処理はなるべく早く済ませようとする筈だ……時間はかからないだろう」
僅かな沈黙の後にマクミルの
「私のせいで……本当に、ゴメンなさい……」
不意に、すぐ
「別にミネアのせいじゃないさ、気にするな……トドリム達は単に、俺達を処罰したかったんだ。総大将として、責任を負いたくなかったから……っ」
ウォレンの声音に静かな怒気が含まれており、ノイシュは思わず彼を見据えた。次の瞬間、眼前にいる
「……私達、何の為に戦ったのかな……」
消え入りそうな声にノイシュが顔を向けると、そこには
「みんな、あれだけ必死に戦ったのに……結局はこんな……っ」
ビューレが発した台詞に、ノイシュは思わず胸から込み上げるものを感じて俯いた。胸の奥が凍えた様に
ふと、ノイシュは手に温かいものが触れるのを感じた。振り向くといつの間にか、翠色の瞳を持つ少女が僅かに顔を上げ、真っ直ぐにまなざしを向けてきている
。
――ミネア……君は、いつも僕の心を……っ
ノイシュは
「……たとえ、たとえさ……」
ノイシュは胸の感情が収まるのを感じ、そっと眼を開いた。
「……たとえ僕達のしたことが、誰にも理解されなかったとしても……それで良いんじゃないかなって……」
そこまで口にした途端、不意にノイシュは自意識が薄れるのを感じた。自分の言葉が誰に発したものか分からなくなる。義妹へと向けたものだろうか、もしくは仲間に対してか……それとも自分自身に――
「――僕達はこの国で暮らす人々の為に、確かに戦った……それを自分自身が、そして仲間のみんなが分かっているのなら……それで充分なんじゃないかな」
言い終わるとノイシュは静かにうつむいた。
「そうだね、きっと……」
耳許に義妹の声と、誰かの微かな
思わずノイシュは眼を見開いた。それが幸福という感情だと気づく。罪を着せられ、こんな
そっとノイシュは眼を細め、かぶりを振った。
――いや、間違いなんかじゃない。今、僕は幸せなんだ。この仲間と思いを一つにできた事……それこそが掛け替えのないもので……大切な人、信じられる仲間達がいる事こそ、きっと幸福なんだ――
「――何か、聞こえませんでしたか」
不意にノヴァの声が
ノイシュは慌てて格子に駆け寄り、息を殺して通路を見据える。やがて薄闇から揺らめく
――僕達の刑量が、決まったのだろうか……。
「気をつけろ、ノイシュ……ッ」
ウォレンの声が届き、ノイシュは思わず
松明に照らされる中、最初に現れたのは
――まさかっ、ヨハネス様……ッ
ノイシュは叫び声を上げそうになった。しかし学院時代の校長であり、大神官ともあろう人物がどうしてこんな場所に――
ヨハネス率いる神官一行は牢の前まで来ると足を止め、一斉にこちらへと振り向いた。
とっさにマクミルが礼式をとるのが視界に入り、ノイシュは慌てて仲間達とともに続く。ヨハネスが微笑みながら返礼してきた。
「……お久し振りです、皆さん。いきなりの来訪にさぞ驚いた事でしょう。しかし刻一刻を争う事態ですので、どうかご容赦を」
ヨハネスの変わらない温和な口調に、ノイシュは少しずつ肩の力が抜けていくのが分かった。
「皆さんの戦い振りは聞いています。我が軍の別働部隊を救出するべく激戦地に飛びこんだ事、あの大神官エスガルと死闘を繰り広げた事、そして今は敗戦の責任により、この留置所にいる事……」
ヨハネスの言葉を聞き、ノイシュはそっと義妹の方を見やった。彼女はただひたすらヨハネスの方を見据えており、その内面を窺うことは出来なかった――
「ヨハネス
緊張した面持ちででマクミルが一歩前に出ると、ヨハネス校長は静かに頷いた。
「まずはここを出ましょう。皆さんの身柄は私が預かる事になりましたので、今夜は我が邸へおいで下さい。それでは後刻に」
そう告げるやヨハネスは踵を返し、他の神官達とともに去っていく。一人残された衛兵が鍵を取り出し、格子にかかった錠前に差し込むのが見えた。
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