第24話 小虎が白虎の元にきた意味

「白虎様、神に認められた巫女はその立場を拒否してはならない、ということは知っているでしょう?」

 小虎の言葉に白虎は目を逸らす。

「その立場を否定した場合、どのようなことが起きるかご存じですよね?」

 白虎は一息吐くと、

「それは理解している。先ほども述べたように、我はこれ以上、あこを村人の視線にさらしたくないだけだ。だから、願わくば、このまま巫女としての素質が開花することなく成長してくれればいいと思っている」

 白虎様の心情としては、親心に近いものだろうか?狛は2人の会話を聞きながら疑問に思ったことがあったので、2人に向けて声を掛ける。

「話しの途中で悪いが、巫女は神に認められた人間がなる、けど、巫女になるのを拒否した場合はどんなことが起きるのだ?」

 白虎と小虎は顔を見合わせた後、小虎は頷き口を開く。

「神に背いたことになり……巫女になることを拒否した人間が死にます」

 狛は唖然としてしまう。

「いや、そんなに簡単に人を殺すのか?神が?」

「はい。巫女として素質があると判断され神に選ばれた時、神とは侍従関係になります。言うなれば神を裏切ったことになりますので、死で報いることになるのです」

 その言葉を聞いて、狛は白虎を見ると苦渋に満ちた声で、

「小虎がここにこなければ、あこは普通に育ったのかもしれない」

 白虎の言葉に小虎は俯き、

「……白虎様の気持ちも理解できます。けど、この久知国(くちこく)でひさしぶりに巫女が誕生するかもしれない。それは麒麟様にとっては喜ばしいことのはずです」

 その言葉に白虎は小虎を見ると、

「小虎、貴様が我の元にきたのは麒麟になんと言われたからだ?」

 小虎は顔を上げて白虎を見ると、

「麒麟様から言われたのは白虎様の元に保護されている少女がいるから見守ってこい、とだけです」

「なるほど。巫女が誕生するかもしれない、とは聞いていないと?」

 白虎の言葉に小虎は俯いて黙る。

「だろうな。我ら神は人間の行く先も見える。あこについて、麒麟が見通していないはずはないのだ」

「待ってくれ。麒麟様が見通しているということは白虎様もあこの行く先を見ているのか?」

 白虎は顔を伏せると、

「……ある程度はな。狛の行く先も見えている。だが、どのように行動するかで先はいくらでも変わってくる」

 晴天の霹靂だった。ああ、だから、白虎様は神なんだな、と狛は改めて思った。

 呆然とした様子の狛を横目に見ながら、小虎を見ると、

「貴様の使命とは、あこを巫女として成長させることなのだな?」

 小虎は俯いたまま沈黙している。この沈黙は白虎の言葉が正解なのだと言っているのだろう。

「わかった。ただ、貴様があこのそばで数日過ごし見てきたかもしれないが、村人を怖がっている。それはわかるな?」

 小虎は俯いたまま頷く。

「あこはずっと村人から暴力を受けていて、食事もちゃんととれなかったため体は小さく、心もまだ未熟だ。その状態で巫女として成長させることは容認できない。これは志呂(しろ)からあこを託された親代わりの我の思いだ」

 小虎は静かに白虎の言葉に耳を傾ける。

「しばらくは、心身が育つのを見守ってほしい」

 白虎は小虎に頭を下げる。小虎は俯き、しばし考え込んでいたが、顔を上げると、

「わかりました。白虎様の言う通り、いまの吾子に必要なのは、年相応の体と心を作ることでしょう。そのためには私も少なからず協力していきます」

 白虎はほっとしたような表情を見せる。

「感謝する。しばらくはあこに巫女の素質があるとは言わずに普段通りに接してほしい」

 小虎は頷いたが、狛は2人の会話で気になっていたことを聞いてみる。

「質問なのだが、麒麟様はなぜ巫女の誕生を待っているのだ?」

「それは我から話そう。この国で巫女がいたのはもう100年近く前になるだろうか?以降、巫女がいなくてもやっていけたのだが、麒麟は国に1人は巫女を置いておけ、という方針でな」

「なぜ?」

「簡単なことだ。国の守り神はある程度は先を見通している。年の天候によっては作物の収穫に影響が出るから、神の言葉として警告しておけば村人も対策ができるだろう。それによって食料が不足した時に人が亡くなることや村人同士で争そうことが回避できる。そうなれば国は安定して発展していける」

「麒麟様は、国の安定のために巫女を置け、と言っているのか?」

「そうだ。神なのだから、そこに住んでいる人間の幸せを願うことは当然だろう」

 白虎はここで言葉を区切ると、ため息を1つつき、

「今まで巫女がいなかったばかりに、志呂とあこのことに気付くのが遅くなったのは否定できないな」

 ぼとっと呟いた白虎の顔を見ると、悔しそうな表情をしている。

「巫女と一緒に村を訪ね、村人の様子を見るのも守り神としての大事な役割だ。それを放棄してしまった」

 狛は白虎の反省を聞きながら、新たな疑問が浮かんできた。

「そういえば、なぜ、昨日は村人が白虎様の姿が見えたのだ?」

「ああ、それは、私のしたことです」

 答えたのは小虎だった。

「私が幻術を使える、というのは狛様知っていますよね?」

「そういえば、前に聞いたな」

「村人への警告、というところです。白虎様はちゃんと実在し、みんなをみているぞ、というね」

 小虎はいたずらな笑みを浮かべて、狛の疑問に答えた。


 場が落ち着いてきた頃合いで、白虎は口を開く。

「明日からもあことは普通に接してほしい。狛、会話しながら、畑作業と食事の準備、反物を作る作業、それと掃除を教えてくれ。小虎は……人間の言葉を話すか?」

「先入観のない今のうちに話したほうが驚くことはないかな?」

「そうだな。今のうちだな。それなら、あこの遊び相手をしながら会話をしてほしい」

「それなら、庭を走ってもいいですか?」

「かまわないが、狛が管理している畑以外で頼む」

「わかりました」

「我はたまにはあこと小虎と一緒に遊ぶか」

 その言葉に狛は慌てて、

「えっ、俺も混ぜてください」

「そうだな、みなで遊ぶのもいいな。雪で遊んだり、花を見に行ったり。志呂ができなかったことをやり、思い出をたくさん増やしていこう」

 白虎は楽しそうに話している。

 狛と小虎も、これからのことを想像して口元が緩んでいた。


 三者会談は一刻(2時間)程続き、これからの役割を話して終わった。

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