第2話 久知国の守り神、白虎
白虎は
背中に乗せている
食事が満足にとれていないことを感じさせる。
着ている物も雪が積もるほど寒いのに、薄手で膝丈の着物1枚という恰好、足元の草履も底が擦り切れていて役に立っていない。
白虎は
考えながら歩いていると
だが白虎は言われた通りにその道に分け入りゆっくりと歩く。
「あこ、毎日食事しているのか?」
背中で首をふる動きを感じる。
「なぜ食事できないのだ?」
「しょくりょうがない」
「今までどうしていたのだ?」
「たまにくる、むらのひとがおいていく」
その声が怯えを含んでいたので、さらに質問する。
「なぜ、たまに村人がくるのだ?」
「……おんなのひとに、ぼうりょくをする」
白虎は、ふむぅ、と唸ると、
「暴力はあこだけじゃないのか?」
背中で頷くような動きを感じる。
(白蛇を殺したと言って、女性に暴力をふるうなんて、ひどいな。何か禁忌を犯したのか?)
白虎が考え込んでいると、目の前にあばら家が見えてきた。
「ここ」
「ここがあこの家ということか?」
茅葺の屋根は修繕をしていないようで、所どころ茅が腐り落ちていて、入口の障子もまた穴が開いている箇所があった。
白虎は建物に近づくと、体をべたっと伏せる。
白虎はそのまま、障子が閉まるのを確認すると、立ち上がり、自分の屋敷に帰るために
(この周辺で白蛇を祀っているところはないはずなんだが)
雪道を歩きながら、自分が守っている
この国は白虎を崇めているため、白蛇信仰はないはずだ。
そのことは
(それなのに、なぜ、白蛇を殺したというのだろうか?)
白虎はがぜん興味を覚えた。
(ひさしぶりに我の姿を見た人間、助けてやりたいな)
白虎はしっぽを左右に揺らしながら、屋敷に向かう雪道を進んでいった。
家に戻った
昨日、食料が手に入ったので、かまどの火を起こすと、桶を足もとに置き、その上に乗る。
かまどの上には鍋があり、米と干し肉を少しだけ入れて多めの水で煮込み始める。
出来上がるまでに時間がかかるので、その間に女性に声を掛けようと近くに寄るとすでに起きていた。
「
女性の声に
「こめあるから、つくっている」
「ありがとう」
それだけ言うと女性はまたすぐに目を閉じた。
少し米の形が崩れ、水も半分になっていたので、木の枝で中身を少しかき回した後、木で作った匙で皿に取り分け、女性の元に持っていく。
女性は起き上がるのもやっとだが、匙と皿を渡すと吾子の作った料理を食べ始める。
一口、二口と食べたところで女性はお皿を吾子に渡すが、皿の上には半分以上残っている。
「あとは
女性はそれだけ言うと薄い布団に体を横たえる。
白虎は
屋敷の最奥、白虎が寝起きする場所にゆっくりと伏せると、1人の男性を呼び出す。
しばらくすると、障子を開ける音が聞こえ、男性が顔をのぞかせる。
「白虎様、おかえりなさいませ。私になんの用がありますか?」
「戻った。中に入れ」
板間の廊下で正座をしている男性を部屋の中に招き入れる。
男性は言われた通り、後ろ手で障子を閉めると白虎の元に近づく。
「
「ないです」
「だよな……」
白虎がため息と共に答える。
「なにかありましたか?」
「いや、ひさしぶりに我が見える子供がいてな」
白虎は楽し気に話しているが、
「白虎様、その子供を保護しようとしていますよね? そして、教育係として私を使おうとしていますよね?」
「さすがだ
「呆れすぎてなにも言えません」
「……その子の母親は間もなく死を迎えるのは明白でな。小さな女の子が1人残されそうなんだ」
白虎はわざと悲し気に話す。こうすると
案の定、
「保護してどうするのですか?」
と白虎に確認してきた。
「まず、ちゃんと食事を与え、感情を教えようと思う」
白虎の言葉に理解できない部分があるのか、
「感情を教えるというのはどういうことですか?」
「うむ。その子は村人から暴力を受けていてな」
「何か禁忌を破ったのですか?」
「それがはっきりとしない。白い髪と肌、赤い瞳で白蛇を連想させるからか、白蛇を殺した女の娘、だから迫害するらしい」
「白い髪と肌、赤い目……確かに白蛇を連想させますね」
「
「だから、白蛇を祀っている、と聞いたのですね……」
「いつ保護するのですか? 何を用意すればいいですか?」
納得した
「保護はもう少し先になると思うが、早めに女児の着物と上掛けを3着ほど仕立ててくれ」
「着物ですか?」
「ああ。今着ているのは丈が合っていなくてな。ずいぶんと寒そうな恰好をしているのだ」
「ううっ。母親を亡くして、薄い着物しか身にまとっていないなんて悲しくなります」
「いや、まだ母親は生きているからな」
「それと履物も準備してくれ」
「それと部屋なのだが……」
「あっ、それは大丈夫です。こんなに無駄に広い屋敷なので、白虎様と私が使う部屋以外、10部屋以上あいていますから!」
白虎は苦笑いを浮かべた後に
「では、隣の部屋にしてくれ。ついでに
「わかりました。他にありますか?」
「今思いつくのはそれだけだ」
「はい、わかりました。では準備をすすめていきます」
「よろしく頼む」
白虎は伏せたまま
(ああ、そうだ、名前も決めないとな)
吾子の女性が呼んでいたのは私の子供、という意味で吾子と呼んでいるのだろう。
(よい名前を贈ってあげたいな)
白虎はにやにやと笑いながら、ひとり名前を考える作業に没頭しはじめた。
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