第16話 サマンサ、聖女と呼ばれる

「サマンサ様、万歳。聖女様、万歳」

「万歳」


 なぜかサマンサが聖女となっている。

 たしかに候補にはなったがどういう訳だ。


「大変な事になったわね」

「落ち着いてるな」

「こんな事になるような気がしたわ。精霊から愛されているなんて噂を流したら、こうなるわよ」

「いいのか。聖女になっても」

「決められた道を歩かされているようで、気にくわないけど、仕方ないわ」

「済まんな」

「謝らないで」

「何か出来る事があれば、喜んでやるよ」

「じゃあ、責任を取ってよ」

「どういう?」

「その時になれば分かるわ」


 なんだろ、サマンサに借りが一つ出来たと思っておけばいいのか。

 それなら仕方ないな。


「ああ、責任を取るよ」

「ありがとう」


 笑顔のサマンサの顔が赤い。

 疲れがぶり返したか。


「ゆっくり休めよ」


 サマンサの頭をポンポンと叩いた。


「もう、子供扱いして」


 笑ったり怒ったり忙しい奴だな。

 奪い返した前線基地の再建が始まった。


 俺は兵士達の間をうろつき、手あたり次第、魔力を回復させてやった。

 魔法を使うと再建も早い。

 尽きない魔力があればなおさらだ。


 鐘が鳴らされた。

 再建中に襲撃かよ。

 俺は襲撃地点に行き、高密度の魔力でオークを殺しまくった。

 防衛はお金にならないから美味しくないな。

 また俺達だけで遠征したい。


「見ろ、何もしなくてオーク共が死んで行く」

「おう、聖女の加護ここにありだな」


 そう兵士達が言っていた。

 ここで俺は嫌な現実を知ってしまった。

 兵士が死んだオークを解体して食っているのだ。

 オークは人食いだぞ。

 おまけに人型だ。

 それを人間が食うのか。

 吐き気を堪える。


 俺はオーク肉は絶対に食わない。


「あっ、聖女様の従者どのオークの串焼きはどうですか?」

「精霊は肉食を嫌うんです。遠慮します」

「そうですか。付け合わせに野菜もあります」

「そちらなら」


 オーク肉の焼ける匂いを嗅いで美味そうだなと思ってしまった。

 だが、食わん。

 絶対に食わんぞー。


「聖女様に乾杯」

「乾杯」


 酒盛りも始まっている。

 やはりつまみはオーク肉。


 サマンサがやって来るのが見えた。

 サマンサは俺の所に来ると。


「あんたねぇ、勝手に設定を作らないでよ。精霊は肉食が嫌いなんて広まったら、お肉が食べられないじゃない」

「ごめん。訂正してくる」


 俺はさっき肉を勧めてくれた兵士の所に行き。


「聖女様に聞いたら、怒られました。モンスターの肉が嫌いなだけで、家畜の肉は大丈夫なようです」

「そうか。こんなに美味いモンスターの肉が食べられないなんて、聖女様も大変だな」

「ええ」


 サマンサのもとに戻ると、サマンサがぷりぷりと怒っていた。


「聞いてたわよ。モンスターの肉が嫌いなんだって。好き嫌いはいけません。オーク肉を食べるまで食事抜きよ」

「何だ。おかしいと思ったぜ。従者様の好き嫌いを精霊様のせいにしたのか」


 兵士が寄って来て言った。


「食わせてあげて」

「辞めろ。○○カー。ぶっとばすぞ」


 しくしく、オーク肉を食ってしまった。

 悔しい事に美味い。

 味は上質な豚肉だ。

 田舎で食った家畜の肉より美味い。


「どう、美味しいでしょ」

「サマンサだって嫌いな食べ物があるだろ。こんど復讐してやる」

「残念、そんなものはないわ」

「いや、絶対あるはずだ」


「仲の良いこって。こうして見るとまるで、……」

「まるで何ですって!?」


 サマンサの剣幕が凄い。

 あの飄々としたハデスがタジタジだ。


「なんでもありやせん」


 サマンサが笑っている。


「聖女様が笑っているところをみるとこの戦いに勝てそうな気がします」

「そうだな。聖女様の笑顔に乾杯」


 俺は兵士から酒を受け取って掲げた。


「聖女様の笑顔に乾杯」


 俺に続いて唱和が起きる。


「精霊様とやらは讃えなくてもいいのか?」


 ジェムスがそう言った。


「精霊様のモンスター嫌いに乾杯」


 俺はそう言って二杯目を飲んだ。


「精霊様に乾杯」

「オーク肉、どうですか」

「オーク肉なら、食いしんぼな聖女様に、たらふくご馳走してやってくれ」

「太らせてどうするつもり」

「太らせて食べちゃうぞ」


 酒を飲んでないのにサマンサが真っ赤になった。

 そして、思いっきり背中を叩かれた。


 サマンサは笑っている。

 ハデスも笑っている。

 ジェムスまでもが笑っている。


 こういう平和な光景が続くと良いなと思う。

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