第11話 俺、メッセンジャーボーイになる

 従軍となった。

 後方支援だから血を見る事もないだろう。

 そう思っていたのだが、配属されたのは野戦病院だった。

 立ち並ぶ大型テント。

 中に入ると薬品の匂いと並ぶ寝台。

 怪我人のうめき声。


 とんでもない所に来てしまったようだ。

 理由なら分かる。

 サマンサが回復魔法で目立ったから、こうなったのだろう。


「新人ね。ついてきなさい」

「はい」

「はい」

「へい」


 治療師らしき人に言われて、俺達は大人しく後をついて行く。


「部下に男手があると色々と捗りそう。来てくれて良かったわ」


 案内されたテントに入ると患者が寝台の上で暴れていた。


「精神魔法で落ち着かせなさい。落ち着いたら治療よ。ほら、ぼやぼやしない。男は患者を抑える」


 言われた通りに患者を抑える。

 この患者は骨折したらしい。

 曲がった手足を伸ばし、添え木で固定する。


 回復魔法を掛けたら、終わりだ。

 こんな患者が列をなしてやってくる。


 サマンサは最初、見ているだけだったが。

 血を見ても動じない態度を見て、任せられると思ったのだろう。

 回復魔法を行使する役にさせられた。

 もちろん、俺が魔力回復をしながらだ。


「きりがないわね」

「そうだな。全体的に治療師の数が足らない」


 サマンサが回復魔法を掛けるだけでは焼け石に水だ。

 なぜなら、サマンサが百回以上魔法を行使すると人間である事を疑われる。

 手加減をしないといけないからだ。


「うー」


 目の前に死にそうな患者がいる。

 ついサマンサに回復魔法を掛けろと言いたくなる。

 だが、際限なく魔法を行使すれば、俺達の身が危ない。


 こんなにもやるせないとは。

 目の前で人が死んで行くのは嫌だ。

 エゴかも知れないが嫌なものは嫌だ。


「お願い。私に魔力を補充して。我慢できないわ」

「俺も我慢できない。がそれをやったら、どうなる。たぶん研究所で解剖されるか。兵器として使い潰されるだけだ」

「あっしは思ったんですがね。嬢ちゃんが出来ないなら、他の人にやらせたらどうです。魔力を補充しても、誰がやったかなんて分かりっこないですぜ」


 ハデスの案を採用するしかないか。

 俺はこそっと治療師達の魔力を回復して回った。


「おかしいわね。さっき魔力は枯渇したはずだけど。こんなに早く魔力が戻るなんて」


 治療師達は不思議がっているが、使える魔力は使う事にしたようだ。

 サマンサは楽になったが、俺は大忙しだ。

 なにせ全員の治療師の魔力を回復しないといけない。

 事情を話して、補充して下さいと俺の所に来るようにすべきなのかな。

 いいや、誤魔化せるうちはこのままで行こう。


 仕方ないので、俺はメッセンジャーボーイに志願した。

 メッセンジャーボーイとは品物や手紙を届ける役割の人だ。

 いわゆる使い走りだな。

 これなら歩き回っても不思議ではない。


「手紙です。こちらはポーションです」

「ご苦労様」

「俺の頼んだポーションと違う。どうなっているんだ」


「俺に言われても。配達の品物と人物は間違ってません」

「すまない。頭に血が上ってたようだ。物資が足りないのだな。いよいよ危ないのか」


 俺はハデスに会いに行った。


「戦況はどうなっている?」

「オーク5万の大軍が現れて苦戦しているようでさぁ。遊撃じゃねぇですが、軍の背後にオーガの集団も出没してます」


 怪我人が減らないから不思議に思っていたが、苦戦しているようだ。

 もっと早く軍を出動すれば、大軍になる前に各個撃破できたのに。


「俺が出れば簡単に片が付くという顔をしているわ」


 サマンサが話に入ってきた。


「仮面でも被って出撃できればなぁ」

「駄目よ。あなた、身体強化魔法も飛行魔法も使えないでしょ。軍に捕まって終わりよ」

「構うこたぁねぇですぜ。暴れるだけ暴れてきたらどうです」

「少し考えたい」


 メッセンジャーボーイの仕事をしながら、会う人全員に魔力を補充する事を繰り返した。

 そのうちにこの野戦病院は神に祝福されていると噂になった。

 不味い。

 不味いが、他にどうやりようがあるって言うんだ。

 一人でオークの大軍に突っ込んで事態を解決したい。

 そんな気持ちがむくむくと浮かび上がる。

 俺はどうしたら良いんだ。

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