第10話 サマンサ、聖女候補になる

 ゴブリンの来襲というハプニングはあったが、無事に学園に帰ってこれた。


「サマンサ、貴殿の活躍をここに表彰します」


 朝礼でサマンサが表彰されている。

 続いて、ゲイリック王子とスェインが表彰された。


 サマンサが一番先に表彰されたのは王子が手を回したのだろう。

 サマンサは大丈夫だろうか。

 出る杭は打たれると言うからな。


「サマンサ殿、少しお時間を頂けないでしょうか」


 サマンサにそう話し掛けて来たのは神官服を着た男だった。


「はい、時間ならあります」


 サマンサはこの男の話を聞くようだ。

 俺とハデスももちろん一緒について行く。

 ハデスは面白そうだと愉快気な顔をしている。

 この後の展開が読めるんだろうな。

 情報があるなら、あらかじめ話しておけよと言いたい。


 学園の応接室を借りて話し合いをするらしい。

 サマンサと神官はテーブルに向かい合って座った。

 俺とハデスはサマンサの後ろに立つ。


「そんなにピリピリしなくても大丈夫ですよ」

「私はピリピリなどしてませんけど」

「後ろに立っている従者君の事ですよ」

「そうですか。それでどういうお話でしょうか」


「あなたは聖女候補になりました。それをお伝えしたかったのです」


 サマンサが聖女だって、似合わない事、はなはだしい。


「お断りします」


 サマンサのやつ、断ったぞ。

 断ったら、いかんやつだと思うけどな。


「理由はなんですか? 返答しだいによってはややこしい事になりますよ」

「結婚したいからです」

「乙女らしい答えですね。分かりました。今回の返答は不問にします。しかし、候補認定は取り消しません」

「言っても無理なようですね。話がそれだけなら、失礼します」


 サマンサも俺の力で事がなったと言えばいいものを。

 応接室から出て来てサマンサが意味ありげに俺を見た。


「俺の力の事を言っても良かったんだぞ」

「そんな事を気にしてたの。私の理想はね。優秀な女性を演じて、下級貴族の跡取りじゃない子息と結婚する事よ。あなたの力を公表してもそんなに違いはないわ」


「えっ、自分の力だと思わせた方が、都合がいいんじゃないか」

「従者の能力は主人の物よ。だから公表しても、私の価値はさほど変わらないわ。ただ、あなたが嫌がっていると思ったから」

「そうだな。できる事なら公表はしてほしくない」

「でしょ。そう言うと思ったわ」


「それよりも。ハデス、お前、知っていただろ」

「知ってましたが、それがどうかなさったんで」


「警告してくれたら、教会対策を立てられたんだよ」

「どんなです?」


 うーん、承服するのも不味いし、断るのも理由がな。

 あー、難しい。


「そもそも、聖女の称号とは何だ?」

「勇者と対になる称号でさぁ。勇者は男から選ばれるのに対して、聖女は未婚の女が選ばれます」

「聞かなくても大体分かる。聖女のバックアップには教会が付くという事なんだろう」

「その通りで。それよりも耳寄りな情報がありますぜ。今回のモンスターの異常行動はドラゴンによるものと国は認定するそうです」

「うん、異常行動はどういう仕組みなんだ」

「弱いものほど群れるって知ってますかい」

「そうだな」

「ドラゴンという強敵が現れたんで、モンスターが泡食って集団行動をとるようになったんでさぁ」

「なるほどね」


「事態を重く見た国と教会が聖戦を発動するってもっぱらの噂と聞きましたぜ」

「それで勇者と聖女か。迷惑な事だな。サマンサはとうぶんの間、大人しくするのか?」


「私、今後も大人しくしないわよ」

「大人しくしておいた方が良いと思うけどな」


「もう、目を付けられてしまったのだから、好きなようにやるわ。ただ、モンスターに攻撃しないという枷は外そうと思う」

「そうか。お転婆のアピールをして、聖女に相応しくないって思わせるのか」

「そうね」


「そしたら、男が遠のくぞ」

「聖女候補っていう肩書だけで、引く手あまたよ」

「悪い面もあれば、良い面もあるって事か」

「そうね」


「大変だ!」


 魔法学園の学生が大声を上げながら、駆け抜けて行った。


「ハデス、何が大変か話せ」

「たぶん、聖戦の従軍の話だと思いますぜ」

「学生が従軍するのか?」

「前線ではなく後方支援でさぁ」


 どうやらとうぶんの間、平穏な毎日は訪れないようだ

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