第一章 エピローグ


「お?」


 ヴェルガーを殺して間もなくのことだった。自分の腹の奥から何かがフッと抜けたような感覚があり、その代わりに何やら熱いものが流れ込んできた。それは全身の隅々すみずみまで行き渡り……


「むむ! 力が……力がみなぎってくるぞ!」


 分かる。理屈ではなく感覚で理解した。僕は今、強くなった。


「……ふむ。魔力を消費すると体からなにかが抜けるような感覚があると聞いたことがあるから、これはスキルが発動した証拠だろう。きっと、スキル≪吸収≫だな。ヴェルガーを殺したことで、こいつの全能力値の5%が僕に加算されたんだろう」


 正直、5%ならたいしたことはない。微々たる差だろう。だが、これが積み重なっていけば別だ。なんせ、殺せば殺すほど際限なく能力値が上がっていくんだものな。


「ふっ……しかし、これ以上に強くなる意味あるのか? 究極の力とやらを得たヴェルガーでさえ、僕に軽いダメージを負わせるのが精一杯だったんだ。他の三人だってタカが知れてるだろうしな」


 おっと、危ない。こんな風に油断しているとダメだよな。万が一、足をすくわれることもあるかもしれない。獅子ししうさぎを殺すのにも全力を尽くすというし、僕も気を引きしめるか。


「さて、心を改めたところで、とっととこいつを片付けるか」


 僕は周囲を見渡してみる。地上にはネズミ一匹いない。空には月しか浮かんでない。僕の罪を見たものはいないようだ。一応、人が寄りつかないところを選んではいたのだが、絶対に大丈夫という保証はないからな。


 けれど、今のところは問題ないようだ。なら、早く処分してしまおう。


「……ふぅ、これでよし、っと」


 僕はヴェルガーを土深く埋めた。作業が終わると、その亡骸がある場所へ視線を落とし、ニヤリと口端をつり上げた。


「まってろよ。すぐに仲間の三人も、お前と同じところへ送ってやるからな」


 そうつぶやくと、僕はきびすを返した。それからすぐに、ほこらのそばに寝かせていた本物の御者へ服と馬車を戻しに行った。やるべきことを全て終えると、僕はリリムを訪ねるためにリトリオンへと向かった。


「……あっ!」


 だが、その道中。僕は重大な過ちに気づいてしまった。


「ヴェルガーから、他の三人の居場所を聞き出すのを忘れてた!」


 なんてことだ。復讐できる嬉しさで舞い上がっていて、肝心なことがすっぱり頭から抜け落ちてしまっていた。取り返しのつかない失敗ではないけれど、面倒な手間が増えたことは確かだ。


「うわぁ、ショックだなぁ。僕としたことが……はぁ~」


 僕はがっくりと肩を落とす。深い溜息ためいきがこぼれ出る。


「……まあでも、もともと商人ギルドで情報収集するつもりだったんだ。少し早まるはずだった予定が元通りになっただけさ。そんなに落ち込むことはない。焦らず行こうじゃないか。どうせヤツらの死ぬ運命は変わらないんだから」

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