第12話 怒りの剣閃 (前編)


 近づいていくと、何人かが僕の存在に気づいて視線を投げてきた。


「誰だ!? 警邏けいらの兵士か!?」

「落ち着けよ。今日は巡回の日じゃねぇだろ。それに一人だしよ」

「身なりからすると旅人って感じじゃねぇな。隣村のヤツか?」

「まあなんにせよ、俺らのいるときに来るたぁ運のねぇ野郎だぜ。わざわざ身ぐるみ剝がされに来たようなもんだものな」

「ちげーねぇ」

「見ろよ、あいつが持ってる剣。刀身から柄頭まで真っ黒だぜ」

「ほぉ、そいつは珍しい。高く売れそうだ」


 などというささやきが耳に入ってくる。それらの言葉から判断すると、こいつらが村を襲ったことは間違いなさそうだ。もはや聞くまでもないことだが一応、尋ねることにした。


「おい、この村の人々にむごいことをしたのはお前らか?」


 僕が誰にともなく問いかけると、そいつらは顔を見合わせニヤつきだした。やがて、そのうちの一人がとぼけた口調で仲間に話しかけた。


「あぁん? むごいことだぁ? 俺ら、なんかしたかぁ?」

「さあなぁ。俺らはただ、この村の連中を皆殺しにして食いもんとか金目のもんを奪っただけだぜ? むごいことなんてなんにもしてねぇよな。なぁ、みんな!」


 ぎゃははははは、と、僕の神経を逆なでするような笑いが起きる。頭に血流が集中しすぎて脳の血管が悲鳴を上げる。


「……なぜだ? なぜこんなことができる?」


 僕は声にドスを利かせる。すると、ひときわ体の大きなハゲ頭の男が集団の輪から抜け出してこちらへ歩み寄ってきた。身につけている軽鎧や服が他の男たちよりも上等だ。おそらく、こいつがリーダーだろう。そいつはさも愉快そうに語り始めた。


「なぜだぁ? 俺たちゃ【シーフ】だぞ? シーフとして生まれたからにゃあ、シーフらしく盗賊行為すんのが筋ってもんだろ? シーフってのは他人から色んなもんを奪うことに特化した職業ジョブだ。だから俺らは奪うのさ。食いもんも、酒も、金も……人の命もなぁ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 その下卑げびた笑い声に、僕の怒りはとうとう限界を超えた。


「ふざけるなぁぁぁ!!!」


「……あぁん?」


「僕は冒険者として活動しているシーフたちを見てきた! 彼らは自身のスキルを使ってダンジョンに仕掛けられた罠を解除したり、索敵したり、隠し通路や宝箱を発見したりしてパーティに貢献していた! シーフだってそんな風に、世のため人のために役立つことをしている人が大勢いるんだ! 職業ジョブは自分で決められなくても、手に入れた能力をどう使うかは自分で決められるんだ! 悪事を働く理由を職業ジョブのせいにするな! お前らが平気で罪を犯せるのは、その性根が腐りきっているからだろうが! この、救いようのないクズどもめっ!!!」


 最後の一言に、僕はありったけの感情を込めた。村の広場に大音量の怒声が響き渡る。それを聞いた彼らは最初キョトンとしていたが、まもなく目つきが鋭くなり眼光に殺意が滲んだ。


「なんだとテメェ、もういっぺん言ってみろ? おぉん?」

「ガキがっ、えらそうに説教たれてんじゃねぇよ」

「けっ、しらけさせやがって。せっかくいい気分で酒を飲んでたのによぉ。すっかり酔いがさめちまったぜ」

「あ~、キレた。完全にキレた」

「おいクソガキ、楽に死ねると思うなよ? 目玉くり抜いて全身の皮を剥いで木に吊るして火あぶりにしてやるからな」


 おびただしい殺気をその身にまとわせた男たちがぞろぞろと群がってくる。ほどなくして僕の周りに円陣が出来上がった。


「はっ、わざわざ雁首がんくびそろえてくれるなんてな! 斬りやすくて助かる!」


「なんだと!?」

「口の減らねぇガキだ!」

「おい、さっさとやっちまおうぜ!」


 連中が一斉に剣を抜いた。それにならって僕も剣を構える。こいつらを皆殺しにしてやるために。


 アイン王国では、盗賊行為を働く者を殺しても罪には問われない。盗賊行為はそれほど罪が重いんだ。自分たちの利益のためという身勝手な理由で不特定多数の他者を害しているからだ。


 生かしておけば被害者がどんどん増えることも目に見えている。こんな連中は一秒でも早く排除するに限る。人々の平和のために。


 というか、こいつらを殺さないと、この体中から湧き上がり、猛り狂っている怒りが収まりそうもないんだ。


 ……さあ、こいよ。僕の剣の間合いに自ら飛びこんでこい。篝火かがりびに引き寄せられて己の身を焦がすみたいになぁ。


「まて、お前ら!」

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