第28話 建国宣言。そして鍋パーティー
本来、この森から星なんて見えないのだろうけど、私たちが開拓したおかげで、アイントラハトの頭上には美しい星空が広がっていた。
そして広場には、空の月や星よりも眩い光があった。
私とセシリーが王都で買ってきた大鍋を煮込む炎だ。
アイテム欄に入っていた雑貨を道具屋で売り飛ばし、そのお金で色々な食器や布、野菜の種などを買ってきた。
これで生活がますます豊かになる。
さっそくの鍋パーティー。
中身はシカやクマなどのジビエ肉と、たっぷりのキノコ。やっぱり人間は、タンパク質だけじゃなく食物繊維も取らないとね。まだ煮えてないのにヨダレが出てきちゃったぜ……。
「それにしてもメグミ様。兵士を全て生け捕りにして交渉すると言い出したときは本当に上手くいくのかと疑問でしたが……まさか国王に独立国家であると認めさせるとは。さすがです」
ファレンは心底感心した様子だ。
しかし、別に私の交渉が上手だったわけではない。そもそも、あの千人の兵士に人質としての価値なんてなかった。
私とセシリーが本当に人質にしたのは、国王の命だ。
私たちにはこれほどの力があると見せつけてから、矛先を相手の首筋に押しつける。
交渉より恫喝の類いだろう。
もちろん、そこまで暴力的な手段に出たのは、相手が先に暴力的になったからだ。
アイントラハトは敵対されない限り、平和主義の国である。
「ワシはむしろ、メグミ様が千人を収納してしまったのに驚きましたじゃ。アイテムを出したり消したりできるのは知っていましたが、まさか人間まで」
パクラ老はヒゲを撫でながら言う。
「あれね。実は一度、セシリーで実験してたの。それで生き物が相手でも、完全に止まっている相手なら収納できるって」
だから、みんなに協力してもらって、兵士たちを傷つけずに気絶させた。
まず魔法で雨を降らせて敵の松明を消し、夜目が利く猫耳族が襲い掛かる。もともと圧倒的な実力差がある上で奇襲が成功したのだ。数の差なんて簡単に覆った。
ちなみに、セシリーの幻惑魔法を使うのは難しいかった。なにせ敵は、城の面積より広範囲に展開していた。
それと、寝ている間に収納されるよりは、闇夜に襲われ気絶させられたほうが怖いだろう。私たちは国王だけでなく兵士たちにも力を示す必要があった。
二度とアイントラハトに攻め込もうなんて考えが思い浮かばないように。
「セシリー様。メグミ様に収納されると、どんな場所に送られるのですかな?」
「さあ? なにせアイテム欄の中は時間が停止していますから。私の体感時間はゼロなんです」
「なるほど。食品が腐らず便利ですなぁ。収納できる体積や重量の上限は?」
「ゲームだと無制限だったけど……ゲームで持ち運ぶのって普通のアイテムだけだったからなぁ。上限はもっと検証しないと分からないや」
と、私が答える。
「そうですか。いずれにせよ、人間千人分はいけるということは、戦術の幅が広がりますな」
「戦術……ああ、そっか!」
千人がいきなり背後に出現して攻撃してきたら、どんなに訓練を積んだ軍隊でもパニックを起こすだろう。私さえ侵入できれば、どこにでも千人の兵力を展開できる。恐ろしい。
あれ? でもアイテム欄に入れたまま私が死んだら、その人たちはずっとアイテム欄の中? 死ぬまでいかなくても、もし私が病気かなにかで長いこと意識不明になったら、出てこられない。うーむ、別の意味でも恐ろしい。
「ぷにぷにー」
鍋の匂いに釣られて、スライムたちも集まってきた。
私の背もたれになっていたアオヴェスタが「ぷににん」と挨拶する。
「そろそろ食べ頃のようです」
鍋の番をしてくれていたエリシアがこちらを見てそう言った。
「おお、ようやく。お腹ペコペコだよぉ。よーし、みんな! ドンブリに鍋を盛れ!」
「メグミ様。率先して混乱を呼ばないでください……順番に並んでください」
エリシアに怒られた。さては鍋奉行だな。
もっとも、ちゃんと並ばないと混乱するのは確かである。
私は反省の印に、鍋を盛り付ける係を買って出た。そしたらセシリーも手伝ってくれた。あと猫耳族のオバチャンや子供たちの手を借りて、並ぶみんなのドンブリにジビエ肉とキノコとスープを盛る。
うーん、美味しそう!
「ぷににー」
スライムたちも頭の上に小さなお椀を載せて並んでいる。かわいい。
「王様自ら盛り付け係をするなんて、本当にメグミ様はお優しいねぇ」
オバチャンが笑いながら言う。
「そうかな? いつもみんなにお世話になってるから、このくらい当然だよ」
「ふふ。メグミ様、そういうとこですよ」とセシリーが微笑む。
「そういうとこだよー」と子供たちが真似っこする。
そして、あちこちから「メグミ様ばんざーい」という声が上がる。
照れくさい。そんな特別なことしてないってば。
「みなさん、行き渡りましたね? では食べる前にメグミ様から、なにか一言」
「急に!? それじゃあ……この前の建国宣言はなんか半端になったから改めまして。私たちはここに、アイントラハトの建国を宣言する! そして! 毎日美味しいものを食べられ、笑って暮らせる国家として繁栄することを誓う! では、いただきまーす!」
いただきます! と、みんなの声が重なった。
私たちらしい、呑気な建国宣言だ。
これからもずっと、呑気に健康的に生きていけますように。
有料DLC種族『魔王』に転生したので最強の拠点を作ります 年中麦茶太郎 @mugityatarou
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