第19.4話 不調 -Sae Side-

(我ながらちょっと立ち回りがへたくそだったかな……。しずくちゃんのことも随分としゃべり過ぎちゃった気がするし。やっぱり、アルコールが染み渡った脳で繊細な話をするべきじゃないわね)

目前で酒を煽る北山を眺めつつ、ぼんやりと自省する。

北山の口を軽くするためにアルコールをそれなりに摂取させる必要があったが、そのために自分もしこたま飲まざるを得なかったことが裏目に出てしまった気がする。

(まぁ何だかんだいって、ゆいっちもトモが苦しむことはしないと思うんだけどね。ただ、ゆいっちもトモのことを憎からず思っているのは明らかに見て取れるし、トモのプラスがゆいっちのプラスになるかと言えば、それがイコールでないっていうのが曲者よね。はてさて、ゆいっちのアドバイスが本当に意味するところは何?)

さまざまな憶測が頭の中を堂々巡りするが、明確な結論を導き出すことはできない。

「とりあえず、トモがしずくちゃんに見放されて、その上でゆいっちがいつか結婚相手を欲するなんてことがあれば、その時は貰ってやってね……なんてね」

答えの出ない思索を引きずる訳にもいかず、その場しのぎの言葉遊びでお茶を濁す。

「まぁ、そうなったらお義姉さんって呼ぶことになるけどよろしくね」

お互いの悪趣味極まりない言葉選びに苦笑しつつ、結論を導き出すことを先延ばしにする。

程なくして、アルコール飲料の在庫が底をつき、北山が帰り支度を始める。

「紗枝ちゃんはいいな、こうして飲んだ後にそのままお泊りできて」

「たしかに、こんだけ飲むと帰るのしんどいよねぇ。とりあえず、看病は任せておいて」

北山の"いいな"が何に掛かっているのか追求する気にもなれず、適当に聞き流す。

(ゆいっちもベロベロで、話す内容にずいぶんと隙が出ちゃってるなぁ)

ややおぼつかない手つきで手荷物をまとめる北山をボーっと見つめる。

「どうする?タクシー呼ぶ?」

「うん、さすがにそうしようかな。ちょっと今日は羽目を外して飲み過ぎちゃったね。一応お見舞いに来たはずなんだけどね」

北山がもっともらしく反省の弁を述べるが、その赤らんだ顔からは説得力が全く感じられない。

「じゃあね、また飲もうね」

呼び出したタクシーへ北山を放り込み、頑張って用意した客用の布団へ潜ると、途端に眠気が襲い掛かる。

(しずくちゃんの気持ち、ゆいっちの本音、トモのこれからの行動……。さてさて、いったいどう決着をつけるのかしらね。ふふっ、私がこんなに振り回されるなんてね……。あぁ、そういえば私もフェスでしずくちゃんと話すことになるのよね。果たして何が最適解なんだろうね)

ため息をつきつつ、紗枝は眠りの世界へと落ちていった。

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