第15話

 けっきょく、ゲーセンで1時間くらい遊んでから解散した。


 プリクラやろうよ〜、とリンネは甘えてきたけれども、ユウトを揶揄からかっているのが見え見えだし、写真は好きじゃない方なので、丁重に断っておいた。


 この日の自己採点は90点くらい。


 世の中には初デートの会話が盛り上がらず、気まずい経験をする男女もいる。

 ユウトもリンネも楽しんでいたから、第一関門はクリアといった感じ。


 にしても、制服は偉大だ。

 ファッションのことで気を遣わないから、ユウトも自然体でいられた気がする。


 リンネの私服とか、ヤバそうだし。

 胸元がざっくり開いた服装でこられたら、理性のネジが飛んちゃって、ラッキーを期待しちゃうかも。


 そして翌朝。

 いつもの交差点でマミに追いついたユウトは、気さくに声をかけた。


「おはよう、マミ」

「おはよう。喉の調子は回復したの?」

「まあね。おかげさまで」


 信号が青になるまで時間があると思ったユウトは、手を拳銃ピストルの形にして、マミに向かって『ばんっ!』と発砲してみた。


 リンネには好評だったパフォーマンス。

 果たしてマミにも通用するだろうか。


「もしかして、水谷ショウマの真似?」

「お、分かる? ショウマがやると格好いいよな。いや、あいつなら何でも格好いいけれども」

「そうね。ユウトには、ちょっと似合わない」

「なっ……⁉︎」


 マミがストレートな性格だと知っているのに、この日は若干じゃっかんイラッとしてしまった。


 嘘でも前向きな感想が欲しかった。

 小学生じみたワガママだとしても、だ。


「昨日と一昨日、女子たちにからまれて大変なんだよ。話のネタになると思って練習してきたのだが……」

「水谷ショウマの兄だからって調子に乗らないでよね。ユウトは周りの期待に応えすぎなの。自然体のユウトでいいと、私は思うな」


 信号が変わり、マミがさっさと歩き出す。


「何それ? 俺は成長しなくてもいいってこと?」

「そうはいってない。無理する必要はないってこと」

「無理って、勝手に決めつけるなよ。いや、無理はしているか。舞原さんのこととか。たしかに無理だ」


 リンネの名を出した途端、マミがさっと距離を開けた。

 拳2つ分くらい、長さにして30cmほど。


 いつもより遠いと話しにくいな、と思ったユウトは距離を詰める。


 でも、すぐに離される。

 磁石の斥力みたいに。


「もしかして、わざと避けている?」

「バカ、当たり前じゃない」

「バカって……」


 いくら鈍感なユウトでも、マミの念頭にあるのがリンネの存在というのは理解できる。


 たとえば、逆のパターン。

 マミに彼氏ができたら、ユウトだって少しは遠慮する。

 そのシーンを想像したら胸が痛くなるけれども……。


「どんな噂が流れているか知らないけれども、俺と舞原さん、お試しの付き合いなんだよ」

「だからって、舞原さんが他の男と歩いていたら嫌でしょう」

「どうかな。時と場合によるだろう」

「嫌なの!」

「分かったよ」


 ユウトはやれやれと首を振って、マミの半歩後ろを歩いた。

 気分だけは飼い主と忠犬みたい。


「駅前のゲーセンにさ、レースゲームがあったの覚えている? あれってシリーズが5作目になっていて、操作できるキャラクター数とか、アイテム数とか、昔の2倍に増えていたよ。マミはあのゲーム、得意だったよな」

「それ、何年前の話なのよ」


 マミがこめかみの部分に手を添えた。

 イライラしている時の仕草しぐさ、それも割と大きめのイライラなので、ユウトもすぐに反省する。


「悪い……もうゲームとか興味ないよな」

「はぁ……」


 会話がかみ合わない。

 努力すれば努力するほど場の空気を冷やしてしまう。


 マミとの間でこの現象が起こるの、下手したら1年ぶりなので、ショックの大きさも1年ぶり。


 やっぱり、ショウマと出会って舞い上がっていたのかな。

 背伸びしているのも事実だし、マミには見抜かれちゃっている。


「それじゃ、また」

「放課後の部活でね」


 周りの生徒が増えてきたので、2人の会話はそこまでだった。

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