【第三章「日露ハーフ超絶美少女VS剣道部員兼風紀委員長幼なじみ」】

第19話「突撃! 新選組……じゃなくて、風紀委員長!」

「というわけで、今日のラーメンは味噌味と塩味よ!」


 俺は今日の昼休みも合宿所で西亜口さんとのランチタイムをすごしていた。

 今回も西亜口さんの持ってきたラーメンはパッケージから見て美味しそうだ。

 これは楽しみである。


「それでは、お湯を入れてくるわ」


 西亜口さんが立ち上がり給湯室に向かおうとしたところで――。


 ――ダダダダダダダダッ!


 階段を駆け上がる音!?

 そして、意外な人物が広間に入ってきた。


「ちょっと待ったぁ!」

「里桜っ!?」


 剣道の稽古着姿で、手には竹刀。

 そして、左腕には――『風紀委員長』と記された水色の腕章。


「なっ!? あなた、まさか――新選組!?」


「新選組じゃなくて風紀委員! 昨日、たまたま祥平が合宿所から出てきたところを目撃してさ。で、今日も合宿所に入ってったから調査しにきたんだ!」

「くっ……! やはりサムライは忍者の永遠のライバルなのね!」

「西亜口さん、一応校則違反はダメだからさー。あたし、これでも風紀委員長だし」

「いいえ、校長の許可はとってあるわ! これを見なさい!」


 西亜口さんはカップラーメンを机に置くと、懐から紙を取り出した。


「えっ、なにそれ? えーっと、なになに……『ナーニャちゃんの言うことはなんでも聞きます。校内を自由に使ってかまいません。命だけは助けてさい。校長』……えぇえっ!? 校長先生のハンコつきだ!」


 なんか適当感溢れる文書だし、校長最後は命乞いしてるんだが……。


「わたしのお父様は校長とは古い仲なのよ。あとわたしのスパイ技術を駆使して校長の弱みもちゃんと握っているの。ふふん、わたしは学園を陰で操る日露ハーフスパイなのよ!」


 なぜか西亜口さんは誇らしげに胸を張って、里桜と対峙する。


「西亜口さんがスパイ? 祥平、本当?」

「ノーコメント」


 というか俺としても西亜口さんが本当にスパイなのかわからない。

 単に妄想が暴走しているだけの可能性もある。


「うーん、校長がいいって言うんじゃいいのかなー……あたしも祥平がコソコソなにやってるのか気になっただけだし……」


 話のわかる風紀委員長だ。


「……でも、祥平と西亜口さん、こんなところでなにやってるのさ?」

「知れたことよ。わたしたちはカップラーメンを食べていたのよ」

「密室でふたりっきりで?」

「広間だから密室ではないわ!」


 なんだかんだで気になるのか軽く尋問してくる里桜。


「くっ……やはりあなた新選組なのね? 諸士調役兼監察かしら? 先日、足を治療してもらったことは感謝するけれど、これ以上の質問には答えられないわ!」

「だから、あたし新選組じゃないって! 新選組好きだけど!」

「やはりあなたは佐幕派なのね! 幕府の犬!」


 西亜口さんはなんだかよくわからないヒートアップの仕方をしていた。

 そして――。


「かくなる上は……勝負よ!」


 西亜口さんは懐からドスを取り出し抜き放つ。


「ひゃっ、西亜口さん!?」


 里桜は驚いて飛び下がりながらも、素早く竹刀を正眼に構えた。


「ふふふ……ここであなたを亡き者にすれば、学園支配は揺るがないわ」


 西亜口さんは、いったいどこへ向かおうとしているんだ?


「ちょ、ちょっとー! 学校に刃物持ってきちゃダメだってば!」

「護身用に武器を持ち歩くのはロシアでは常識よ」

「ここ日本だから!」


 そもそも、本当にロシアでは武器を持ち歩くのは常識なのかどうか……。

 ともかく、今の状況を収拾せねば。刃傷沙汰になってしまう。


「西亜口さん、落ち着いてくれ。里桜は敵じゃないから」

「でも佐幕派は倒しておかないと明治維新は起こせないわ」

「里桜は剣道の有段者というかインターハイ出場者だから勝つの不可能だよ」

「くっ……わたしの我流忍法では厳しそうね……」


 ドスを使う我流忍法に興味はあるが、今はそれはスルーしておこう。


「ともかく、この合宿所の広間はボッチ安息の地。カップラーメンを心ゆくまで堪能できる楽園(ヴァルハラ)なのよ。邪魔しないでちょうだい」


 西亜口さんはドスをしまったものの、里桜への敵愾心を隠そうともしない。


「えー、でも、西亜口さんと祥平がふたりっきりって……」

「悪い?」

「幼なじみとしては気になるというか……」


 里桜は俺のほうをチラチラ見てくる。

 えっ、これはどういう意味だ。


「祥平さー、西亜口さんに変なことしてないよね?」

「しない! するわけない!」


 そんなことできるわけないし、する気もない。

 一歩間違えば死ぬことになる。西亜口さんはドスを持っているのだ。


「安心しなさい。祥平はすでに忠実なわたしの下僕と化したわ。もはやペットと言ってもいいくらいにね」

「えぇえー!? 祥平、ほんとー!?」


 里桜は驚愕の表情で俺を見てくる。


「……い、いや、下僕でもないしペットにもなってないぞ!」


 西亜口さんに色々と支配されつつある気はするけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る