第18話「危険な妄想が暴走する西亜口さん」

★ ★ ★


 わたしは祥平が書いた小説を読み直す。

 そして――。


「にゃああああああああああああああああ!」


 ゴロゴロと横になって、のたうち回った。


「わ、わたし……か、かかか、かわいくないし!」


 もう本当に祥平の頭の中どうなってるの?

 どれだけわたしは祥平の中で美化されてるの?


「……ハッ!? やはり、これは罠……? わたしをかわいいっておだててその気にさせておいて悪代官に引き渡すつもりなのね!?」


 さすがジャパニーズ・ニンジャ。やり口が汚いわ。


「……って、さすがにわたし忍者作品の読みすぎね……」


 どうも祥平を前にすると冷静でいられなくなってしまう。

 だって、仕方ないじゃない!

 幼稚園の頃に「結婚」を約束した仲だもの!


「でも、忘れているって酷い話ね。まったく……。わたしが町奉行だったら島流しに処しているところだわ」


 でも、そうなるとまたわたしがひとりボッチになってしまう。


「やはりロシアの屋敷に牢屋を作って監禁が妥当かしら? それなら二度とわたしから離れられないしね……」


 そんな楽しい空想をしながら、祥平の投稿した小説をネットで読む。


「ふ、ふふ……ふふふ。興奮するわね。わたしがモデルになっている小説だなんて……! というか、わたし……こんなに……かかか、かわいくないし!」


 羞恥のあまり再びゴロゴロと転がる。


「ふぅ……。祥平に訊かれたときに、ちゃんと答えればよかったのかしら……?」


 幼稚園の頃に出会っていたこと――。

 あのときは髪を黒く染めていたこと――。

 それらを伝えれば――……伝えたら、どうなるんだろう?


「か、関係が急接近しちゃうのかしら?」


 たった一日で思った以上に関係が深まっちゃったし、これじゃ一週間もすれば…………ききき、キスしちゃったりするのかしら?


「ちょっ、チョロインじゃないし!」


 しっかりしなさい西亜口ナーニャ! わたしはそんな安い女じゃないのよ!

 カップラーメンで満足できるリーズナブルな女でもあるけれどね! 割引大好き!


「……明日のカップラーメンはなににしようかしら? 今日はしょうゆととんこつだったから、塩とみそで攻めるのもいいわね」


 ボッチラーメンもいいけど、こうしてラーメンを布教できるというのはいいものね。


 ……か、かかか、間接キスはしなかったけど……スープは共有しちゃったのよね。

 考えてみれば、けっこう、すごいことしちゃってたわよね。

 同じカップラーメンを共有! シェア!


「にゃあああああああああああああああああーーーー!」


 わたしはまたしても床をゴロゴロ転がる。


「もうっ! 本当に羞恥プレイだらけだわ!」


 わたしが仕掛けたことだけど!

 しかも、これからネットでアップされていくわけだけど!


「まったく、とんだ露出狂ね、祥平は……」


 露出狂なのは、わたしのほうかもしれないけど……。

 

「まあ、いいわ。死ぬときは一緒よ、祥平……」


 わたしはニヒルな笑みを浮かべながら、祥平の小説を再び読み直す。

 もちろん、何度読んでも破壊力抜群。


 こうしてわたしは夜更けまで、何度も奇声を上げては悶え続けるのだった――。

 ……防音仕様の部屋でよかったわ。

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