第44話Uの謎 (5)不運の翡翠

湯の山孝名が生前に残した宝を巡る冒険を続けている侑、次の宝は『不運の翡翠』と呼ばれる指輪である。

この宝は持ち主の特定が難しく、侑の家の屋敷の文献やインターネットでの情報しかない。

それらをまとめて要約すると、その指輪は真ん中に純度の高い翡翠の玉がついていて、一見なんの変哲もなく見えるが、その指輪を持っているものは必ず不運な目にあってしまうのだという。

例えば過去の例を上げると・・・、その指輪を知人づてに手に入れたある夫婦は、たちまち仲が悪くなり指輪を手に入れてからたった一ヶ月で離婚。指輪は妻が持っていたが、その妻も離婚してほどなくして体が弱り、当時は不治の病だった結核にかかり、亡くなってしまったという・・・。

また商店にてこの指輪を購入したある男は、事業を立ち上げていたのだが、指輪を手に入れた日から失敗に失敗が相次いで赤字となり、さらに有力な社員が他社に引き抜かれるなど不利な状況が続いた。そしてついに事業は失敗、多額の借金を背負うことになった。

しかしそれでも指輪を手放さなかった男は、とうとう交通事故にあってしまい亡くなってしまった・・・。

「こんな恐ろしい指輪があるなんて・・・」

侑もこの事実にとても驚き、息を飲んだ。

侑は僅かな望みを託し、Twitterで不運の翡翠のことを投稿して、拡散希望で持っている人はいないかと呼びかけた。

すると投稿してから数時間後、侑のTwitterにダイレクトメッセージが届いた。

送り主は『高子』というアカウントで、こんな文章が添えられていた。

「これが不運の翡翠です。私は手に入れた当時は、まさかこれが不運の翡翠だとは思ってもいませんでした。これを手にしてから、夫が亡くなる、仕事を失うと不運が相次ぎました。もしあなたが引き取りたいというのなら、私のアカウントにご連絡下さい。」

そして文章と一緒に、不運の翡翠の写真が添えられていた。

「これが不運の翡翠・・・。」

深い色の奥に恐ろしい闇のような感じがする指輪・・・、侑は興味を惹かれていった。

そして侑は高子のアカウントにダイレクトメッセージで連絡を入れ、会う約束を取り付けた。






一週間後の土曜日、侑は約束の駅前にある喫茶店で高子が来るのを待った。

そして侑が来てから十分後、喫茶店に淡い緑色のスーツを着こなした女性がやってきた。

女性は侑の姿を見ると、すごく驚いた。

「あら、あなたが侑さん?」

「はい、道明寺侑です。高子さんですか?」

「ええ、そうです。失礼だけど、年はいくつかしら?」

「十六歳です。」

「高校生じゃない、まさかあなたがこの指輪に感心があるなんてね・・・」

高子は驚きを隠せない様子のまま席に座った。

「それで、指輪はありますか?」

「ええ、こちらに。」

高子はカバンから古びたリングケースを取り出すと、蓋を開けて見せた。

「これが・・・、不運の翡翠。」

写真よりもいっそうに色の中の暗い部分が浮き出て見える、つけたら不幸になるかもしれないが、侑はつけてみたくなった。

「あなたはこれが欲しくて、私にメールを送ったのよね?」

「はい、でもいいんですか?こんなにあっさりと・・・?」

「いいわ。ていうか正直、どう処分したらいいか困っていたのよ。あなたが来てくれてよかったわ。」

「こちらこそ、ありがとうございます。」

侑がお礼を言うと、高子は足早に喫茶店から出ていった。

「さて、例の紙はあるかな?」

侑はリングケースをくまなく見ると、ケースの底の部分に一枚の折り畳まれた紙が入っていることに気づいた。

侑はそれを服の胸ポケットにしまうと、指輪をケースに戻して、注文したクリームソーダーに口をつけた。






そして侑は自宅に帰ると、胸ポケットから紙を取り出して開いてみた。

そこにはこんな文章が書かれていた。

「この指輪は呪いつきの特別製、さて作ったのは誰?1・川部かわべさん2・野呂のろさん3・佐向さこうさん。」

やはり謎が出てきた。

そして答えは野呂さんだ、理由は「呪いつき」で"のろ"がつくからである。

「でも、問題の答えが解ってもこの不運の翡翠と野呂に、どんな接点があるんだろう?」

侑は不運の翡翠についてさらにインターネットで調べた、するとこんな記述が見つかった。

『この指輪は元々、宝石加工職人の野呂直木のろなおきが自身の恋人のために制作をしていた指輪だったが、恋人が野呂の旧友と浮気していたことを知り、野呂は彼女と破局。それから旧友から「結婚のための指輪」を作ってほしいと依頼され、彼は彼女と旧友への恨みを込めた指輪を作ったという。そしてこの作品を最後に、野呂は職人を辞職したという。』

なるほど・・・、つまりこの指輪は野呂さんの恨みがこもり、それが所有者に不幸をもたらす不運の翡翠となったわけか・・・。

「でも、この指輪を作った野呂さんもまさかこうなるとは思っていなかっただろうな・・」

侑は不運の翡翠を見つめながらつぶやいた、人のふとした気持ちから呪いの宝が生まれてしまうのだと実感した。






一方、こちらは地下迷路のU。

「侑の奴、とうとう半分まで来たか・・・。苦戦すると思っていたが、ここまでやるとは思わなかった。こうなったら、最後まで楽しませてもらおう。」

Uはほくそ笑むのだった。










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