第二十二話 城砦

 帰りの道中も行きと同じく平和なものだった。

 帰りは荷物もないしハヤテの足も軽い。おかげでまだ日がある内に俺たちは村に着くことができた。


「さてそろそろ懐かしの我が家は見え……ん?」


 御者台で呑気に鼻歌を歌っていたロバートは突然鼻歌を止める。

 一体何かあったのだろうか。


「どうしたロバー……」

「な、なんすかあれええええっっ!!」


 突然の大声に耳がキーンとなる。

 なんだなんだ!? いったいなにがあったんだ?


「おいいったいどうした?」

「むー、うるさいよー」


「ま、前を見てくださいっす! 見たらわかるっす!」



 一体なんだってんだよ。

 もうここは村の近く。驚く様なものは何も……。


「……って、えええぇっっ!!」


 俺とそらは同時に先ほどのロバートばりの絶叫を上げてしまう。

 な、なんじゃこりゃあっ!!


「いったいなんでここに城壁・・があるんだ!?」


 そう、俺たちの眼の前に現れたのはそれはそれは立派な石でできた城壁だった。

 その城壁は村があった場所をぐるりと囲んでおり、今いる場所からは村が全く見えない。

 一体何があったんだ!? 村は無事なのか!?


「どどどどうするっすかキクチさん!?」


「おおおおちつけロバート、こういう時は冷静になるるるるんだ」


「わー、おっきいかべー!」


 落ち着くんだ俺、焦っても何も解決しない。

 それに村のみんななら大丈夫、なんたってカラーズが勢揃いで村を守ってるからな。あいつらならちゃんとやってくれてるはずだ。


「ひ、ひとまず近づいてみよう。念の為俺は戦闘準備をしておく」


「りょ、了解っす」


 警戒しながらも城壁に近づいていくと街道上に大きな門があるのを発見する。

 よく見ると城壁に作られたその門には門兵らしき人物が二人立っている。もう何が何やら分からんぞ。


「……ん? あれもしかしてエルフの人じゃないっすか?」


 確かに近づいてみると門番の二人は長い耳に綺麗なブロンドと整った顔、間違いなくエルフだ。

 名前はアイリーンとイリーナ。双子の姉妹のエルフだ。

 まだ10歳半ばと若い彼女たちだがエルフたちの中でも身体能力が高い。

 反面まだ性格は幼いのだが二人とも身体はたいそう立派に育っていて目の付け所に困る。無邪気にひっついてきた日にゃもうそら色々ヤバイ。


「「あーっ! キクチ様だーぁ!」」


 二人も俺に気づいた様で手を振ってくる。

 二人が元気なところを見るに村は無事そうだがまだ状況は理解できない。


「「おかえりーっ! 元気してたーっ?」」


 馬車から降りて二人に近づくと、尻尾が生えてたらぴょこぴょこ振ってそうな勢いで二人は引っ付いてくる。やめろやめろ、色々柔らかいのが当たってんだよ!


「えーと、色々聞きたいことはあるんだが……まずはこの馬鹿でかい城壁はなんだ?」


「へへー、それは見てのお楽しみ!」

「じゃあ門、開っけまーすっ!」


 イリーナが手を上げ合図すると、ゴゴゴゴゴゴ! と門が開き始める。一体どんな仕組みなのだろうか。


 俺はおっかなびっくりしながら門の中に目を向けると、中には……。



「「「「「「「おかえりなさいませー!!」」」」」」


 そこにいたのはたくさんスライム達。

 見ればスライムだけでなくシスターのエイルやスライム研究家のクリスなど村人達もいる。

 彼らはクラッカーの様なものを鳴らし祝福ムードだ。

 状況が理解出来なさすぎて頭が痛いぜ……

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