052 見せてあげようじゃない!

 みんながいっせいに喋りだした。

「ええええ。ちょ、どうすんねんな」

「や、やばいっすよ、これ」

「あ、あの、みなさん、意見をですね――」

「ど、どうすりゃいいんやろか」

「美穂ねえ、ちょっと、おはじきしまって」

「や、山田さあーん」

「お、落ち着け、まひる」

「だ、だって、このままだと――」

「だー! もー! うるさーい!」明日香が叫び、みんな、ぴたっと口を閉ざした。「みんな落ち着いて」

「BB、第三波までは?」と、相変わらず安定のくろちゃん。

「そうね」と、BB。「あと四分ってところかしら」

「整理しよう」明日香が言った。「くろちゃん、どう思う?」

「三つある」くろちゃんが右前足を出した。たぶん指を三本立てたつもりなんだろうけど、いかんせん犬なのでよく分からない。うん。俺は分かってるよ、くろちゃん。「一つ目は盾の強化。二つ目は赤い球の無力化。三つ目はクシーの説得」

「ありがと」明日香はイミを見た。「イミ、盾は強化できないの?」

「あれは――モモアマリヤソヌイノシロタテは、もともと、奴らから奪ったものじゃ」

「奴ら?」

「おぬしたちがクルーナーと呼んでいる奴らじゃよ。ワレの時代では、ほぼ、どのような攻撃も無力化できたのじゃが。知ってるかどうかわからぬが、ワレらは、ワレらにとっての正の波動を受けて力を発揮しておる。クルーナーは負の波動を得て力を発揮する。先ほど見た通り、この世はどうやら負の力が増しているようじゃの」

「つまり、これ以上の強化は無理ね」

「残念ながら」

「二つ目なんだけど」明日香。「山田さん、前にクルーナーに取り込まれたとき、赤いコアを無力化したわよね」

「ああ」確かに。

「それ、どうやったの」

 明日香の問いに、どう答えたらいいのか、俺は迷った。

「どうって。それは……」

 俺は口ごもり、まひるを見た。まひるは、きょとん、とした顔で首をかしげている。

「ちょ、おっさん」あかねが突っ込む。「もったいつけてる場合ちゃうで」

「分かった。あのとき、ギャン泣きしてるまひるの声を聞いて、思ったんだよ。俺、まだこいつの犬でいなきゃって。こいつのそばにいなきゃダメなんだって」

「え」まひるが両手で頬を押さえた。

 明日香が腕を組んで、うんうん、とうなずいている。

「ごっそうさん」と、あかねが合掌する。

「よし」明日香が顔を上げた。「これで行こう」

「これ?」と、誠くん。

「どれ?」と、しんちゃん。

「イミ」と、明日香。「あの球、あの盾で保持することはできる?」

「できるじゃろうな。それほど長くはもたないが」

「みんな、私たちの力で、あれを無力化しよう」明日香がイミを見た。「イミを通じて、あの球に私たちの魔力を送ることはできる?」

「なるほどの」イミはうなずいた。「やるしかあるまい」

「あと二分」と、くろちゃん。

「あ、あの」と、まひる。「クシーの説得は」

「それは、そのあとで考えよう」と、明日香。「時間がない。みんな、イミの体に手を置いて」

 みんながイミの周りに集まり、イミの体をつかんだ。俺は、自分の両手両足がトゲトゲなので、とりあえず、近くに浮いている状態だ。

「山田さんはどうしましょう」と、まひる。

「あんたが首根っこでもつかんどき」と、あかね。なんか、扱いひどいな。

「わかりました」と、まひるは俺の首をつかむ。「私を通じて、イミに送ります」

「よし」明日香がみんなを見渡す。「球が落下して、盾が保持したら、みんな念じて。あの盾の下にいる、大事な人のこと。その人のことを想って」

 みんながうなずく。

「一分切った」と、くろちゃん。

「魔法少女とその犬の力、見せてあげようじゃない!」明日香が言った。

 そして、赤い球が落下していった。

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