【3】

 昨日冷たい雨に打たれたのが悪かったらしい。翌日、シバは珍しく風邪をひいた。

 忙しい両親は滅多に家にいない。家政婦が主に家事を担ってくれていたが、生憎今日は家政婦が来ない日だった。ベッドから出るのも億劫で、シバは自室の天井をただぼんやりと見つめる。

 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。シバの家は訪問客など乏しいに等しい。それでも出ないわけにはいかず、シバは部屋着のまま、おぼつかない足取りで玄関に向かった。

 玄関を開けてみれば、そこにいたのはシュリだった。学校終わりなのだろう。制服姿で、学校の指定カバンの他に買い物袋を手に持っている。

「シバ先輩、体調は大丈夫ですか?」

「シュリ、何しに来た?」

「先輩が学校を休んでいたので、なにかあったんだと思って」

「シュリこそ、体調は大丈夫なのか?」

「わたしですか? 昨日、薬を飲んでぐっすり寝たら落ち着きましたよ」

 そう言いながらシュリは慣れた様子で、シバの家のキッチンへの向かった。

「先輩、お粥食べますか?」

 シュリの問いかけにシバはいつものような言葉は返せない。シュリがなんでシバの家のキッチンの勝手を知っているのか、そのことが不思議でならなかったからだ。

「どうして、シュリがうちのキッチンをしっているんだ?」

 悪戯が成功した子供のようにシュリは笑った。

「家政婦さんに、たまに料理を習っているから」

 シバの留守の時を見計らって、シュリはシバの両親の許可を得て、家政婦に料理をならっていたらしい。

「ということは、もしかして……」

 もしかして?、とシュリが小首をかしげる。

「俺は知らぬうちにお前の作る料理をたべていたのか?」

 ふふふ、とシュリは可愛らしく声を上げた。

「今までおいしかったですか、先輩」

「なんで、そこまでして俺を? 俺がアルファだからか?」

「わたし、アルファだから先輩を好きになったんじゃないですよ。シバ先輩がシバ先輩だから好きなんです。だから、本当ならズルはしないで、真っ向勝負で先輩に食べてほしかった。だからずっと隠していたんです」

「オメガだから、アルファだから、とこだわっていたのはむしろ俺のほうだったんだな」

 シバは急に自分のしてきたこたが、恥ずかしくなった。そして、今までシュリの笑顔をみて愛おしく感じていた自分に気がついた。

「シュリ!」

 シバがシュリの名を呼ぶと、シュリは笑顔を返す。

「ありがとう」

 それはいつもシバ自身を見てくれていたシュリへの感謝の言葉だった。

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潔癖王子と婚約者 メグ @color_aqua

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