第48話:恐怖
通路の奥を探すか少し迷ったものの、先ほどの部屋にあったもう一つの扉が気になり、引き返した。私は、螺旋階段を横目に右手へ進み、扉を開ける。
引き続き赤い絨毯の敷かれた部屋の中には、中央付近に背の低い机が配置され、それをはさむようにソファが配置されていた。その左手には、王女たちの部屋で見たものと似た、重厚な木製の執務机がある。そして、入り口の正面には再びの扉。
病院のようなスペースからつぶしていくのか、正面に進むのか。理想はマルガリータの逃げる先をつぶしつつ、確実に追い詰めていくことだけれど、どこにどれくらい出口があるのか分からない状況では、決め手に欠ける。
早く行動した方がいいと心が
オーバーフローによって、強制停止寸前の脳。
そこに、向かって正面からわずかな音声が入力された。
脳の活動が一つの処理に集中し、秩序が形成される。
耳鳴りがするくらい静かな室内には、かすかな物音が断続的に響いていた。音源は、おそらく向かいの扉の奥。私はこれ以上ないほど慎重に部屋を横切り、正面の扉に手をかけた。
少しずつ扉を開けていくと、音がクリアに耳へ届くようになる。押し殺したような鳴き声と、陶器が何かに触れる音がした。
扉の左から少しずつ現れる部屋の光景。そこに、ベッドが姿を現した。先ほどマルガリータが体を横たえていたものとほとんど同じ作りだ、とそんなことを思っているうちに、上半身を起こした彼女の姿を認める。開いた扉を見つけられることを
もう少しだけ扉を開けよう、と思った次の瞬間、彼女の背中に手が添えられた。飛び上がりそうなほど驚いたものの、何とか音を立てずに処理。ただ、部屋の中に聞こえてしまうのでは、と思えるほどに心拍音がバクバクとうるさかった。
私は、マルガリータの背中に添えられた手をさかのぼるように、彼女の全身を確認する。初めて見る顔だ。年は、老婆といって差し支えないくらい。ただ、背筋はきれいに伸びており、濃紺の細いパンツも似合っていた。
彼女は片方の手をマルガリータの背に添えたまま、もう片方の手でティーカップを差し出した。王女はけだるそうに首を振ったものの、彼女が耳元に口を寄せると、カップを口につけた。続けて、女性は王女に横になるよう促し、マルガリータがそれに従う。
横たえた王女の髪を優しくなでた彼女は――
初めから決めていたかのように、まっすぐこちらに振り向く。
あまりに自然な動作だったせいか、見つかることを全く予期できなかった。
口の前で人差し指を立てた彼女に射すくめられ、私は動くことができない。
彼女が
「少し横へ移動してもらえると嬉しいのだけれど」
耳元でささやかれたところでようやく、体の硬直がとかれる。
盆を携えたまま、彼女は部屋の奥の執務机に向かい、腰を下ろした。
「さて、どうしましょうか?」
落ち着き払った声で話す彼女の目を、私は見ることができない。
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