~Inspire~交錯点

1938年、戦前の市街地-。


「・・・・・!お前、"あの時"の・・・。(雅也の父、西湖)」


後のカラス男である石上雅也の父、その男石上西湖の着衣に瞬時ひろがった赤黒く滲む血。


「これで万事整ったってことさ、石上西湖・・・!(謎の少年)」


突如現れた暴漢(謎の少年=のちの九尾の狐)に刺された西湖(マサヤの父)は、路上に崩れ落ち


ついに彼は、息絶えた。

(※雅也には、父西湖はひったくりに刺され死んだと伝えられている)


憎しみは時を超え連鎖、そして伝染(Inspire)する。


西湖がその少年(九尾の狐)に刺されたそのわけ、西湖と九尾の接点をつなぐその記憶は、6年前の出来事までさかのぼる。


―6年前、場所はとある森の中で。


その時少年雅也(8歳)は世にも言い表せぬ光に包まれたその存在(かのじょ)を目撃した。


橘の社。日奉神社、奥の院といわれた自然崇拝の跡がのこる巨大な谷、

人が歩いて容易に入れないような巨大な絶壁に流れる滝。


その奥で。


「だ・・・・だれかいる?・・・!(美しい!)(少年ふたり)」


激しい透明な水にうたれ、空から差す輝く木漏れ日に包まれた姿。


長襦袢と思われる白い着物を纏った人ならざる気配の彼女(当時のユタカ)がいた。


「・・・お、おいマー坊あの人知ってるか?!(雅也の友人)」


「わかんねえ。(少年雅也)」


茂みの中から遊びはぐれてしまった二人の悪ガキ、雅也少年と友人のミツルは


その神秘的な美しさともいえる、神々しい光景に目を奪われてしまっていた。


「あ、あのぉおー!(少年雅也)」


「?!(ユタカ)」


視線を感じた少年は、おそるおそる滝つぼの中佇んでいた彼女に大きな声で呼びかけた。


「ご、ごめんなさい!俺たち・・・うわ~!(少年たち)」


動揺のあまり茂みの中から落っこちてしまった雅也は、滝つぼの中へ落ち、

どうにか打撲を数か所受けたのみで助かった。


数分後、祠の下にある整地された広場に、少年らは連れられていた。


「すげー、こんな場所が山奥にあるんだなぁ。(友人ミツル)」


「大丈夫?あなたたち・・・よくこんなところまで来れたわね。(ユタカ)」


「俺たち、迷っちゃって。

お姉さんこの近くの人?・・・どうやってここにきたの?」


「・・・あの、山に住んでるわけじゃないよね?(雅也)」


少年たちの心は安堵のつかの間、得体の知れぬ恐怖に脅かされだしていた。


さすがにこんな誰も、人っ子一人寄り付くはずがないであろう・・・人里から遠い山奥。


移動手段も生命維持ツールも現代ほど発達していない当時、


昔の山は、今より遥かに命の危険と常に隣り合わせであった。


絵に描いた昔ばなし。どこかから恐ろしい容貌のカラス天狗が出てきそうな、


肉体的、精神的に自らをいじめ抜く修行者たちにしか好まれぬであろう絶壁。


ざわざわと不気味に動く木々と葉っぱ。自分らは、ほぼ遭難しているというのに。


こんなところに、こんな街中に絶対いないような上品な女性(ひと)が生活してるとは考え難い。


子供でもわかった。


ありえねえよな、ふつう。


それにこの異様な雰囲気はなんだ。


無垢な心を持つ少年たちの瞳をしても、彼女からは単に、容貌や雰囲気が美人というだけではない


言い得ぬ何か(表現不可能な力)が放たれている気がした。


(この人は、自分らの知る普通の人間と違う)雅也


(ケガれてない?・・・白、水晶?)ミツル


語彙力で表現するのに難しい、そんな・・・虹彩を刺すような目力。


表現できない漂白(センタク)された清涼感を、ユタカから少年たちは感じ、


茫然と圧倒されあっけにとられた。


驚きをよそに、ごく普通の返答をするものだからギモンは募った。


綺麗な人だけど・・・。


二人の心に同時にある、思いが浮かんだ。


人間じゃ、ないんじゃないか。


この人、もしかしたら雪女とか山姥とか、そういうのなんじゃねえか…。


もしかしたら俺たちさらわれちゃうんじゃねえか・・・あわわ。


いやそんなことない。こんなきれいな人がさ、悪そうには見えないし。


「住んでるわよ。ここに。(ユタカ)」


「え、ぇえーーー?!そうなの。(少年たち)」


「・・・食ってぇやるぅうぞー!(ユタカ)」


「うゎああああああああーーー!!!!!(少年たち)」


「!!!!!(笑い転げるユタカ)」


「はあ?(雅也)」


「・・・オモシローい。(ユタカ)」


笑みを見せたユタカは、穏やかな表情に戻り雅也たちに言った。


「だいじょうぶ、オバケじゃないから。・・・場所が場所だけど、迷わないよう抜け道がいっぱいあるよ。(ユタカ)」


「ほらそこにも・・・お行きなさい。わたしと会えてよかったわね。(ユタカ)」


ユタカが指さした先には、確かに修行者たちが交通のため整備したのであろうと思われる


茂みの踏みならされた通路が見えていた。


その奥には、無数の不動明王や救世観音らしき石仏たちが多数並んでいた。


ここは古来からの修行地で、魔物は寄り付けはしないのだ。


少年たちは、彼女たちの守りで命拾いしていたのだ。


「お姉ちゃん、ありがとう!ほほらおまえも礼言えよ!(雅也)」


「あ、ありがとうございます。(ミツル)」


ほほ笑むユタカを背に少年たちは石仏の並ぶ通路を潜り抜け家路に続く山道を帰っていくのだった。


「・・・ユタカ、あの子たちを狙っていた奴らは・・・。(テルヒコ)」


茂みの中から出てきたのは、修験者(やまぶし)の装束を羽織ったテルヒコであった。


(※日光で照らされ傷んだ黒髪は色素が抜け、この時代も髪の毛はくせ毛でウェーブがかっていた。)


「助かるわ、テルヒコ。あてにしてるわよ。(ユタカ)」


現れた山伏姿のテルヒコと、ユタカを待ち構えていたかのように黒い烏天狗(からすてんぐ)の面を


装着した忍者らしき密偵部隊たちが茂みの中から無数に顔を出す。

※当時のカラス会の構成員。同じ修験者、工作員部隊の亜流と思われる。


「・・・縄張り争いに子供まで巻きこむとはとんだ非常識ね。(ユタカ)」


ズガガガガ(機関銃で一斉にハチの巣にされるテルヒコ)


「・・・ッ!ハアーっ!(飛んできた2本のクナイを蹴り飛ばすテルヒコ)」


ガッガッガ!


遠くから凄まじいスピードで投げられた無数の鎖鎌がひんやりと冷たく輝き、


蜘蛛の巣を張り巡らすように鎖のバリアが周辺の木々へと展開される。


ぎりりと鎖鎌を引くカラス面の男が、テルヒコの眼を憎らしげに見つめ言い放つ。


「殺虫剤をいくら炊いても死なぬ。ゴキブリの如き生命力・・・羨ましいよ・・・」


「・・・しっかし所詮貴様らも生身の男と女。我々も日々進化をしているんだ・・・。(烏天狗の面をつけた男たち)」


煙幕が山中焚かれ、数名のカラス面をつけた男たちが衣を脱ぎ去った。


「その首を頂くとしよう・・・やれるか・・・。かくなる上は!(烏天狗の面をつけた男たち)」


脱ぎ捨てられる無数の黒い衣。瞬時に秒速で多角関節に変形した魔性の土蜘蛛が奇妙な音を立て現れる。


体液にまみれ迸る唾液、一斉にとびかかる異形のクリーチャー(土蜘蛛)たち。


一触即発の事態は瞬時にしてバトルフェーズへと移行する。


「いくぞ!創聖!(テルヒコ・ユタカ)」


「その姿・・・・・・・・化け物が、かかれェエーーーっ!(カラス面をかぶった男)」


ユタカが即座に姿を変えた女戦士、麗神タチバナの輝く薙刀(マガツヒ)が土蜘蛛たちの胴をカオを粉砕してゆく。


テルヒコの振るう十束の剣(とつかのつるぎ=アポロンソード)の斬撃が血と共に勢い化け物の手足をむしり取り、叩き切る。

※十束の剣は神話内にて天孫の神々、(海幸山幸・スサノヲ・イザナギ)が共通の携帯武器として使用した。


「・・・・・ギッギャ嗚呼アア!!!!(光の矢で刺された土蜘蛛たち)」


「・・・・・いたのか、八幡神(ハチマンシン)!おそいぜ!(テルヒコ)」


「おいおい静かにしといてくれよ。手もとが狂うだろお。(ごにょごにょ)殺虫剤とは不届き者が・・・。

あっ姫様危ない!(八幡神が矢をうち放つ)」


木の上にまたがり巨大な弓矢を冷静に撃ち続けていた坊主頭の(オリーブの袈裟に数珠を着用した)僧侶らしき男


八幡神が、オージ(テルヒコ)とタチバナ(ユタカ)をみてマイペース極まりない穏やかなる口調で話し続ける。


「こんな世になっても土蜘蛛退治に精を出さねばならぬとは・・・・。(八幡神)」


土蜘蛛たちを一網打尽に薙ぎ払うかつての戦士たちの群像、風土記などにて、変わり伝えられる"伝承の実相"がそこにあった。


戦いの後で―。


テルヒコは祝詞を静かに唱え、塚のような小山を数個周囲に盛る。

自らが葬った土蜘蛛、それはかつて生身の人間たちであった同胞の墓であった。


ただ、祈るしかない。心に同情の余地を開ければ、付け入られる。


だから、強くなるしかない。強くなって、その全てのマガを光へつなぐ仏の慈悲の領域まで。


金剛(ダイヤモンド)に変える鎧武者のようなその心は、その装甲(戦士の輝くボディ)となり


日神となったかつての亡国の王子(テルヒコ)の雄姿を天の下憚らせていた。


泣きながら鬼神に成り果てても、戦う。仲間(タチバナ、ハチマン)と共に剣を握る。


そこに自らを包む光が、やさしさがある限り。戦い続けていくしかない。これからも・・・。


自分にできることはそれだけ。


「優しいのね。(ユタカ)」


「優しいもんかよ。・・・この俺が(テルヒコ)」


「いや、ユタカにいわれたら、案外正しいかもな。(両指を鬼のように己の額に立てるテルヒコ)」


「どーいうことよ~怒るわよ!(ユタカ)」


「冗談だよジョーダン!むきになるなよ!(テルヒコ)」


「まるであの頃のようだな、姫様は・・・。(八幡神)」


ほほ笑む八幡神の姿は瞬時に老紳士の姿へ変化し、二人を見守りながら茂みをくぐりどこかへと消えていった。


「マイフレンド(テルヒコ・ユタカ)、山での修行も結構だが、里の行も忘れるなヨ。(八幡神)」


「そうだ・・・!俺はいかなくちゃいけないところがあった。

また通信を送る!八幡神ありがとう!(テルヒコ)」


「俗に戻るなら、滝に浸かってきなさい。(ユタカ)」


その日の午後、テルヒコは当時大邸宅であった石上家の門の前にいた。


「ここか、西湖(かれ)の道場っていうのは。(テルヒコ)」


天照皇太神-。


掛け軸が掛けられた石上家隣の武道場(試合中)。


「てぃやあああああああああああああっ!(テルヒコ)」


「はあああああッ!小手ッエーーーー!(西湖)」


剣道の試合を終えたテルヒコと石上西湖(雅也の父)は、手拭いで爽やかな汗を拭き


温かい日差しの中、武道場の庭で談笑していた。


「いやあ!先生の剣の腕は一流だ。さっき、あえて手加減しましたね?

私の眼は騙せませんよ。(テルヒコ)」


「滅相もない!私はそんなだまくらかしはしない。なかなか気合の入れ方が違うな、

合気柔術の盛芝先生に会わせたいほどだよ。あはは!(西湖)」


「盛芝先生はたしか生身で銃弾をお避けになったんですよね?

そんな人ともトモダチなんて、こりゃ敵いっこないや。(テルヒコ)」


西湖は、生前武道と学問(とりわけ当時の神道学)の両方を極めた文字どうりの超・文武両道人間だった。


「先生、私みたいな無名の人間をどうして先生のお屋敷に呼んでくださったんですか?(テルヒコ)」


「それが・・・深刻な話でな。キミと行場で出会った時、何か違う気配がした。

私も行者であるからそれくらい分かる、騙せんぞ。(西湖)」


「私も狐やタヌキの類じゃありませんよ。先生(あなた)がそういうことだから、よほどのことらしいですね・・・。(テルヒコ)」


「うむ、だからキミだけには伝えておこうと思ったんだ。(西湖)」


驚きの声は、洋館内に大きく響きわたった。


「果し合いだってえ?(テルヒコ)」


西湖は長く蓄えた髭に手を当てながら、深刻な顔でテルヒコに打ち明けた。


「私の命も・・・・・どうなるかわからない。

わたしにそれを挑んできた少年も視点の奥より一切何も読み取ることができなかった・・・。(西湖)」


「1か月ほど前だ。私の元に一通の封書が届いた。なかにはうちの道場の門下生たちが・・・(西湖)」


西湖を自らのもとへと勧誘すべく封書を差し出したのは、他でもなく陰陽連特務機関カラス会であった。


当時の神道文化の末裔、ある種その生き証人である石上氏。


大化の改新以降滅びたとされる石上家は古代におけるカラス会の中枢を担っていた。


平安以降の仏教国となった日本において、カラス会及び石上一族は時代とともにその影、力を衰退させていった。


わずかに残るその子孫が石上西湖であり、


彼の息子石上雅也(8歳)は、明治維新以降に復活を果たさんと再び活動を開始した


カラス会の新たな指導者候補として組織に身柄を狙われていたのだ。


「陰陽連め・・・おっしゃる通り、カラス会のものたちならそれはやりかねません。

戦国の世ならばいざ知らず、弟子の首を師のもとに送るとは・・・。(テルヒコ)」


「許せん、奴らは人間じゃありません。(テルヒコ)」


「それに、果し合いをするため息子も人質にとられている。人質を殺してどうするのだ・・・。

死人をまさか生まれ変わらせるとでもいうか。

ほんとうに彼奴ら(きゃつら)の考えていることが私にはわからない。(西湖)」


鋭いまなざしでテルヒコは西湖に言った。


「死返玉(まかるかえしのたま)ならばできる。(テルヒコ)」


西湖の眼の色が、変わった-。


「先生は知っているのでしょう。そこから先の奥義を・・・。(テルヒコ)」

※死返玉=十種神宝(とくさのかんだから)の一つ。死んだ人間を蘇生させるパワーを持つとされる。


「十種(とくさ)・・・君も心得があるのだな、そういうことならばもはや隠し事はできんな。(西湖)」


「教えていただけませんか、その事情を私に。(テルヒコ)」


「ハァ・・・・・奴らは多くの邪法を駆使し、式神と呼ばれる小間使いを使役して・・・今でこそ本部を京都に張っているが

やってきたその数々の儀式は、とても人の道にかなうものではない。本当に今の奴らはバケモノだ。(西湖)」


物部一族は石上家そして、奈良にある石上神宮が代々伝えてきた十種神宝(とくさのかんだから)、


神宝の正体は、本来海家(邪馬台国)の祖先が超古代、飛行船イワフネで地球に降臨した際積んできた


超能力(サイキック)を発動させる、未知数の霊力を秘めたオーバーテクノロジーである。


「先生の前ではナマイキかもしれませんが、これでも私も腕に覚えはあります。

・・・先生の考える通り、奴らは魔界から妖魔をおろすべくこれまで何度も行動していました。

私も奴らには手を焼きました・・・。(テルヒコ)」


当然ながらそれを本流たる海家の子孫であるテルヒコも体得していた。


そして絶大なその力。


完全なる十種の活動力、神霊のパワーを解放するということは、この国日本の命運を左右することに等しく、


転覆そして隆盛を決める事に匹敵することであった。


「私は伝承の末裔として、奴らをどうにか討たねばならぬと考え行動してきたつもりだ。(西湖)」


「果し合いの日は1週間後。霊術に通ずる一人者として、勝負は一対一の一騎打ちで望む。

キミはそれを見届けてほしい。(西湖)」


「どちらかが生きどちらかが死ぬ-。息子を守るためには、勝負を引き受けるしかないと思っている。(西湖)」

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