秘密結社ラクダイン主催サバゲー大会

第18話 秘密の作戦会議①

 駅から離れるとかりはっていく。住宅地とは反対の方向。そんなところにも店はあり、夜になってもひそかに明かりをともしている。


 

「いらっしゃい」



 俺は、ぽつねんとやっている飲み屋の暖簾のれんをくぐった。中にはカウンターと小さな座敷ざしき。もう夜も遅いが、客は二人もいる。熱燗あつかんかたむけ、静かにそれぞれで酒を飲んでいた。


 俺は席にはつかず、店主にたずねた。



っていう飲み屋はここ?」


「そいつは裏だよ」


「そうなのか。どうやっていけばいい? あっちにサハラの泉っていう占いの露店があったけど、あの道でいいの?」



 俺が尋ね直すと、店主はじろりと俺に視線を向けてから、ふんと鼻を鳴らした。



「そんな露店は知らないね。ふたこぶなら裏口を出たらすぐだから通りな」


「わるいね」


「いいから行きな。邪魔だよ」



 店主に言われて、俺は裏口へと向かう。だが、裏口からは出ない。俺は、裏口の横のただの壁にスマホをかざする。するとロックの外れる音が鳴り、横に壁がスライドした。


 先にはクローゼット程度のスペース。俺が乗ると壁は閉まり、モーター音と共に下へと向かった。


 簡易的なエレベーター。その中で、俺は、服を着替え、かばんに詰めて、十字の描かれたフルフェイスのマスクをつけた。



「あ、クロスジさん。お疲れ様です」



 エレベーターを降りると、広い空間があった。怪しいといえば怪しいが、見ようによっては単なるダーツバーのようでもある。カウンターとその奥に並ぶ酒瓶さかびん。壁にはダーツのまと。ソファには先客が座っており、談笑していた。


 声をかけてきたのはバーテンダーの格好をした女子であった。



さんにあそこまで言われたら来るよ」


「え? 私、そんなにきつく言いましたか?」



 とぼけるバーテンは、ポニーテールをひょこりと揺らして、口元をにこっと横に広げた。マスクで目元を隠しているためわからないが、きっと目は笑っていないのだろう。



「今さらなんだけど、上の店主とのやりとりっているの?」


「ほんとに今さらですね」


「いや、ふと思い直して」


「あれは店主さんの趣味です。秘密組織って、あぁいうやりとりをしてアジトに入るものなんですって」


「もっと合理的な方法がありそうだけど」


「理屈じゃないんです。美学ですよ」



 さいですか。


 俺がバーテンとたわいもない話をしていると、奥に置かれていたブラウン管ディスプレイが、ぶわんと色付いた。



『全員揃ったかな?』



 画面に現れたのは黒い影。合成音声は俺達に話しかける。同時に全員がディスプレイに注意を向ける。一歩、バーテンが前に出て返答した。



「はい、ボス。全員集合しています」



 ボス。


 それ以外のことを俺は知らない。秘密結社ラクダイン。その創業者らしいのだが、大学のOBなのだろうか。とにかく作戦のたびにこうやって顔を出してくる。いや、顔は出ていないんだけど。


 ボスが作戦に口を出すことはない。ただ、こうやって大きな作戦の前には、俺達の顔を確認するのだという。向こうから見えているのかは知らないが。



『今回の作戦は今までにない大規模なものだ。この日のために長い間準備をしてきた。失敗は許されない。みな、心して取り組むように』



 それから、こほんと咳払いをして、ボスは告げた。



『では、諸君。明日の作戦の健闘を祈る』


「「「オール、ラクダイン!」」」



 かけ声が返ってきたのを契機に、ブラウン管の画面はぶつんと音を立てて消えた。


 同時にバーテンが皆の方を向き直る。



「それでは作戦会議を始めます」



 ……。うん。いいんだけどさ。ボスのやりとりいるかな? いつも思うんだけど、ラクダインって無駄なやりとり多くない?



「その前に一ついいっすか?」



 俺が、ラクダインの働き方改革について思案していると、ソファに行儀わるく座っていたアフロにトカゲ面という、奇妙なかっこうの男が手をあげた。



「今日は幹部会って聞いたんすけど、何でヒラがいるんすか?」



 視線が俺の方に向く。いったい何が気に入らないのか、この最近幹部になったアフロトカゲは俺につっかかってくるから面倒くさい。おそらく絵画オークションを成功させて調子に乗っているのだろう。どうしたものかと俺が考えていると、バーテンが先に応じた。



「彼は、Ms.パンプキンの代理ですよ」


「代理? 何だよ。かぼちゃ女はさぼりかよ」


「いえ、Ms.パンプキンにはがありますので、基本、深夜の会議には参加できないんです。ボスの許可も得ています」


「……門限あんのかよ。大した幹部っすね。尊敬しますわ」



 あからさまに皮肉ったアフロトカゲに幹部一同は苦笑する。新参幹部よりもMs.パンプキンは遥かに信頼されているのだ。その辺りの空気を理解できないようでは、この先社会に出たとき苦労するだろう。


 ただ、そのおかげで一つ思い出したので、俺も手をあげた。



「じゃ、俺も一ついい?」


「はぁ、早く会議を始めたいんですけどね。何ですか、クロスジさん」



 バーテンの許可を得た直後、俺はソファに座っているアフロトカゲに横から蹴りを入れて、ぶっとばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る