第17話 夜のお家デート②
「ベッド、行こ」
言ったのはどっちだっただろうか。どちらでもいい。そんなのはどちらだったとしても同じことだ。俺と良子はもつれながら、ベッドの上に
「電気、消して」
良子が俺を見上げている。こんなにかわいかっただろうか。彼女は、恥ずかしそうに顔の前に手を
「この前も俺のベッドで寝てたよな」
「あれは忘れてよ」
「あのときはこんなふうになっても平気そうだった」
「酔ってたから覚えてない」
「今は恥ずかしいの?」
「恥ずかしいに決まってんじゃん」
だよな。
何を聞いているのだ。心臓がばくばく鳴っているせいか、思考がまったく
俺は、良子のシャツの
「えっち」
……その言い方はエロ過ぎませんか?
俺は指を良子の身体に
「ん」
ときおり聞こえてくる良子の
「ねぇ、その、するの?」
「えっと、その、我慢できないかも」
「で、でも、いきなり、過ぎっていうか、心の準備が」
「俺も、そう思うけど、良子がエロ過ぎるから」
「何それ?」
キスをすると、良子は黙った。もしかして嫌なんだろうかと、手を
俺は、良子のシャツを
恥ずかしそうにしながらも、良子は黙って、腰を浮かした。俺は、待てずに、良子のへそから指をすーっと下へと
「だめ」
そのまま、おろしていくと、良子の手がさっと俺の手の上に乗る。声とは裏腹に力は弱く手は止まらない。俺の手は、止まらず下りていって――
じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり!!
あまりにぴたりなタイミングで鳴ったスマホに、俺は全身をびくり! と震わせた。本当に口から心臓が飛び出るかと思った。おそらく良子もそうだろう。同じように身体を跳ねあがらせていた。
俺は、ベッドの上から降りてスマホを確認した。
「ごめん、俺のだ」
「あ、いや、うん」
「切っとくから」
「うーうん、大丈夫。出たら?」
「でも」
「出ていいよ。電話でしょ。大事なやつかもしれないし」
画面を見るとバイト先からだった。こんな時間にかけてくるのはいつものこととして、このくそわるいタイミングでかけてくるなんて空気を読めと言いたい。俺は、
「いいの?」
「あぁ。今はこっちが大事だから。じゃ、続きを」
「ごめん、今日はもうだめ」
「え?」
「いったん落ち着こ。
「……」
これは強引にいっていいやつ? それともガチなやつ? 初めてだからわかんないんだけど! 気持ち的には完全にスイッチオンなわけで、全力で前に進みたいんだけど。卒業したいんだけど。何をとは言わないけどさ!
俺は胸の内の天使と悪魔の最終戦争の果てに、
「そうだな。今日はやめとこか」
「うん。その、また、ね」
「……あぁ」
また、があるということは、嫌だってことではないと思いたい。社交辞令の可能性も? いやいや。
良子はごそごそと服を着直した。俺も服の
良子は、その後、帰ると言って
「ごめん、俺、ちょっと強引だったかな」
「うーうん。そんなことないよ。ただ、ちょっと落ち着きたいだけ」
「そっか」
良子は靴を
「またね」
くすりと笑う良子は、ちょっと恥ずかしそうで、今まででいちばんかわいく肩をすくめて見せた。
あまりのかわいさに、扉が閉まった後、俺はその場にしゃがみ込んで、あーっと長い息を吐かざるを得なかった。
「俺の彼女、超絶かわいい!」
彼女。彼女彼女彼女!
初
そのことがうれしくて、今でもまだ興奮が冷めやらない。今日は寝れない気がする。この心臓の高鳴りをどうやったら止められるのか教えてほしい。
人生でいちばんドキドキしているかも。
おそらく、今このとき、世界中でいちばん幸せな男だろうと思いつつ、部屋に戻って、あることを思い出す。そういえば、バイト先から電話があったんだった。
舌打ちをしつつ、俺はスマホに電源を入れた。ちょうど、すぐさま電話が鳴る。あれから、電話をかけ続けていたのだろうか。まぁ、うちのバイト先ならやりそうだ。
画面を叩いて電話に出る。すると、電話先で、きゃんきゃんと怒った声が聞こえてきた。
俺は夢から覚めるような気持ちで、げんなりして、そのまま切ってしまいたかったがそうもいかず、なんとか気持ちを切り替える。
『聞いてますか? クロスジさん』
「あぁ、聞いてるよ」
『もう。ちゃんと返事してください。それじゃ、わかりましたね。忘れないで今夜の作戦会議に参加してくださいね。もし来なかったら、ラクダインの規則に従って罰ゲームを受けてもらいますから』
上司の小言をテキトーに聞き流してから、俺はいつものように端的に返答した。
「了解。時間通りアジトに向かうよ」
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