第2話 幼馴染との再会①

「ねぇ、あなた、トーシロじゃない?」



 突然、女子から声をかけられて、俺はあからさまにきょどってしまった。大学の構内。サボり気味であまり来ないからとはいえ、知り合いはいる。だから、声をかけられたこと自体に驚いたりはしない。


 だが、こんなから声をかけられたら話は別だ。


 

「そう、だけど」


「あ! やっぱりそうだ! 久しぶり!」



 美女は、大人っぽい見た目とは裏腹うらはらに、子供のようにはしゃいでいた。茶髪は大学に入ってから染めたのだろうか。長い髪はウェーブがかかっているが、きれいにまとめられており、小慣れている。化粧もおとなしめ。というより、自分にあった適度な色合いを知っているといったかんじ。目の大きさは、もともとだろう。子供っぽく広がった笑みと対照的な唇の煽情的せんじょうてきな赤色に俺はどきりとせずにいられなかった。



「あの、誰?」


「え? わかんない? 私だよ、私!」



 何だろう。オレオレ詐欺の一種だろうか。昨今さっこん、多様化しているというしな。もしくは勧誘。だって、こんな美人な友達なんていない。仮にいたとしたら、おそらく忘れないだろう。



「宗教とかに興味ないんで」


「怪しい勧誘じゃないから!」


「マルチ商法とかやめた方がいいっすよ」


「違法な稼ぎ方を紹介するわけでもないから! ほら、江渡川えどがわ中学で一緒だったでしょ!」


「あー」


「あ、思い出した?」


「いや、個人情報がダダれだから警察に連絡しようかと。まったくどこで手に入れたんだか」


「やめなさいよ! スマホ叩き折るわよ!」


「うわっ、暴力まで。俺が言うことじゃないけど、これ以上、罪を重ねない方がよくない?」


「いや、何も罪をおかしていないから。むしろ、犯しているのはそっちだから。同中おなちゅうの女の子の名前忘れちゃったざいだから!」



 何だ、その頭の悪そうな罪名は? というか、もしもそんな罪があったら世の大半の者が罰せられるだろう。大学生になって、同じ中学の奴の顔と名前なんて覚えているわけもない。いや、俺に友達が少なかったとか、そういうわけでなく、一般的にさ。


 しかし、何だろう。彼女について、まったくのノーアイディアなのだけれども、どことなく既視感きしかんのようなものはある。この無駄にノリのいい感じ。記憶の詰まった段ボール箱の奥の方にあるような、ないような。



「あ、もしかして隣のクラスだったえっちゃん?」


「誰よ、それ。違う。同じクラスだった」


「まさか、剛志たけし?」


「何で? 何で同じクラスにしぼると急に男の子しかいなくなるの? 性転換してないから、昔も今も女の子だから」


「女の子?」


「そこは流していいから。大学生を女の子と呼ぶことにひっかかりを覚えなくていいから」


「は! じゃ、中二の秋ごろに教室に迷い込んできた柴犬?」


「そんなファンタジーなやつじゃないから」


「いや、でも面影おもかげが」


「ないから。というか、クラスメイトよりも一回だけ迷い込んできた犬の方を覚えているとか、どうなの? いや、確かに私も覚えているけど」


「捕まえようとして大騒ぎになったからな」


「そうそう。私も追いかけたもん。犬好きなのに吠えられるタイプだから。って、そんな話してないし!」


「んー、じゃ、隣の町の」


「同中だって言ってんでしょ!」



 ほんとノリはいいな。こんなノリのいい美女がいれば、忘れないはずだが。やはり何かしらの詐欺だろうか。


 ん? 犬を追いかけた? あのとき、確かにそういう奴らがいた。俺は授業を進めてほしかったのだが、そうもいかず、クラスのが大騒ぎして、犬に飛びかかって。


 え? もしかして?



不良ふりょうなのに良子りょうこ?」


「そう! だけど覚え方!」



 もう、とあざとく怒ったふうに腰に手を当てて、元中学のクラスメイト、新明良子しんめいりょうこは俺の前に現れたのだった。

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