\にゃーん/
◇2022/1/21(金) 曇りのち雪◇
冬すぎて今日も寒すぎる。
そんななか、冬高に放課後がまたやってきた。
心ゆくまでぬくぬくするぞ〜。
俺はこたつ部の扉を開けた。
「おーっす!」
見ると、こたつでは後輩のぬくもちゃんと猫が向かい合い、将棋盤を挟んでいた。
掘りごたつに入ったぬくもちゃん。
こたつ机の端に乗った細身の黒猫。
熟考の末、猫は肉球の手で飛車をスッと移動させた。
4五飛。
王手である。
ぬくもちゃんが頭を下げた。
「負けました……」
「どういう状況これ」
「
猫が\にゃー/と鳴いて毛づくろいをする。ほっそりしている割にけっこう大きい猫だ。尻尾をくにゃんくにゃんと動かして、可愛らしい。俺もこたつに入って、あごの下を撫でてやる。
お、おおお……もふもふ……! そしてあたたかな体温……! \ふにゃー/と気持ちよさそうな鳴き声も出してくれる。
やはり猫はかわいいな……。
尻尾がよく見ると二又に分かれているけどな……。
……。
尻尾マジか……。
猫又(妖怪の一種)じゃん……。
「ぬ、ぬくもちゃん、こ、この猫」
\もっとなでてよー/
「オワァッ!? 喋った」
「そうなんですよ先輩。スミさんは人語を解するすごい猫であらせられるんです」
\すごいんだよー/
「さすがは猫又、妖力的なパワーで喋りおる。てか何でぬくもちゃんは冷静なの……」
「動く人体模型がいるんだし猫又くらいはうじゃうじゃいるかなと思って……」
ぬくもちゃん、肝がある意味で据わり始めている。
「スミっていう名前なんだな」
\スミだよー/
「可愛らしいですよね。性別はオスみたいです。あはっ、こら、じゃれつかないの。ちょ、眼鏡が、眼鏡がずれる」
\ぬくもわーい/
スミくんがぬくもちゃんの肩の上によじ登っている。大きな胸がちょうどいい足場にされている。
じゃれ合う後輩と猫、微笑ましいな。
でもどうして猫又がこたつ部へ来たんだろう?
\スミがきたのは きたいからだよー/
「妖力で思考を読まれた!?(ファミチキください)」
\ふぁみちきはむりー/
「やっぱり読まれてる!」
「何やってんですか先輩」
\スミはねー ここのおーびーなんだよー/
「オービー……OB? えっ? まさか」
スミくんが音もなくぬくもちゃんから飛び降りて、本棚の下段の端っこに差してあった一冊のノートを器用に取り出そうとしている。俺は手伝い、ノートを取って、こたつに置いた。
「先輩、これは……」
「ああ、1989年度のこたつ部活動記録だな。スミくん、この日誌がどうかした?」
\ひょうしみてー/
俺とぬくもちゃんは言われるがままに表紙を見てみる。今はもう見ないデザインのキャンパスノート。下の方に、こう書かれていた。
第二十二代目部長 スミ
代筆者
\にじゅうにだいめぶちょーだよー/
「「猫なのに!?」」
\スミはー もじがかけないから にっしはまきにかいてもらったー/
昭和最後であり平成元年のこたつ部日誌をめくってみる。古ぼけて黄ばんだノートには、整ったシャーペンの字の文章とともに、何やら肉球の手形が毎回押されていた。そこへスミくんが来て\にゃ/と自分の前足を乗せる。手形と大きさがぴったりだった。
「まじか……こたつ部なんでもありだな」
「やっぱり私、没個性すぎて肩身が狭いです」
「安心して俺もだから。というかスミく……スミ先輩」
\スミくんのほうがいいなー/
「じゃあスミくん。きみは冬北高校の生徒だったってこと……?」
曲がりなりにもこたつ部は冬高の部活だ。部長は当然ながら生徒じゃないとなれない。
スミくんは\にゃははー/と笑って小さな牙を見せた。
\そうだよー せいとだったよ/
「冬高なんでもありだな」
\もちろんこのすがたではかよわなかったけどなー/
「えっ?」
次の瞬間、スミくんの周囲を妖しげなオーラが包んだ。ふわ、とスミくんの体が宙に浮く。突然の妖術にびっくりしたのも束の間、オーラは濃くなってスミくんを覆い隠し……
晴れた時には、人間の姿の少年がそこに佇んでいた。
身長は一四〇センチくらい。昔の冬高の制服だろうか、黒い学ランをきっちり着こなしている。端正な顔立ちは中性的で、黒髪も少し長めなのでパッと見ても男子か女子か見分けがつかない。頭に生えるのは、ぴくっ!ぴくくっ!と動く黒いネコミミ。目の色は金色で、瞳の形が猫だ。
人間態になったスミくんは、招き猫のポーズを決めた。
「かんぺきなへんしんだよー!」
「おおーっ、すげーっ。思いっきりネコミミ見えてるけどこれなら立派に生徒として通えたのもまあ頷けるな。しかも……なんかモテそうだな、男にも女にも……。可愛いショタって感じする。ぬくもちゃんはどう思……ぬくもちゃん?」
ぬくもちゃんがうつむいてブレザーの胸を押さえ、息を荒げている。
「男の娘……ショタ……ネコミミ……舌足らずな喋り……」
「どーした? ぬくもー?」
「スミきゅん――――」
顔を上げたぬくもちゃんは目をカッ開いて、口の端からちょっとよだれを滲ませつつ、声を震わせた。
「――――推せるッ!」
「あつきー、ぬくもはなにをいってんだー?」
「スミくん、ぬくもちゃんに『ぬくもお姉ちゃん大好きだにゃん』って言ってみて」
「え? ぬくもおねーちゃん、だいすきだにゃんよー」
「あッがッ!? ちょ、先輩いきなりスミきゅんを使って私の心臓を破壊しようとするのやめてもらっていいですか!?」
「面白」
「おもしろー」
「このふたりは~~!!」
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