第5話 そんな話、信じられませんわ ナディーヌ視点

「いなかった? いなかったっ? またお可愛らしいご冗談が生まれましたわねぇ……っ」


 再度わたくしは、噴き出してしまう。

 解消の場に居ない? そんなお話、聞いたことがありませんわっ。


「ぶぷっ。でっ、ではお伺いしますわね、ぷぷっ。どういった理由で、その場にいらっしゃらなかったんですのっ? 納得できるご回答を、お願い致しますわっ」

「畏まりました。その日は学院で所謂OBOGの皆様とのディスカッションがありまして、私は在院生代表の一人として参加していたのですよ」


 ……え? ディスカッション? 学院で?


「そちらはランチを摂りながら正午から午後3時まで行われ、確かフィレーダ様は午後2時にいらっしゃったそうです。来訪の際に私はお屋敷内にいませんので、縋ることも慰謝料を投げつけられることもできないのですよ」

「ぇ。ぇ……。ぇ…………っ?」

「フィレーダ様は少しでも早く縁を切りたいと思われていたそうでして、こちらの都合を無視していらっしゃり、両親は即2億に飛びつきました。そのため婚約時と同じく、私の知らないところで解消されてしまっていたのですよ」


 そ、そんな……。じゃあ……。あのお話はこの方が仰られている通りで、全部が嘘――いいえっ! 違いますわ! 騙されるところでしたわ!!


「その頃はわたくしも学院に籍を置いていたのに、ディスカッションのお話は耳にしたことがありませんわっ。そんな席があった、それこそが捏造ですわっ!」

「そちらは、ミレネア様がお忘れになられているだけかと思います。会場にいらっしゃる…………リーベルト侯爵家のアンナ様も在院生代表として参加されていました。この場には他にも同級生、下級生だった方がいらっしゃりますので、ご確認をされてはいかがでしょうか?」

「え、ええっ、そうしますわ! その場しのぎの幼稚なウソだと、証明してさしあげますわっ!」


 そうしてわたくしは早歩きで会場を横断し、リーベルト様にお声をかけた。


「あら、貴方様は………………ミレネア子爵家の、ナディーヌ様。かつてご学友でした、よね?」

「はいっ。かつて学院内であったとされている、OBOGと在学生によるディスカッション、そちらについて、リーベルト様にお伺いしたいことがございますっ」


 そんな噂を耳にしたのですが、リーベルト様はご存じですか? そんな出来事はございませんよね? 勿論、参加もなさってませんよね?

 わたくしはそれらをまとめて尋ね、そうすると――


「そちらは、実在した出来事ですよ? 公式の行事ですから記録されていて、学院に問い合わせたら資料を閲覧できますよ」


 ――…………。

 わたくしを、否定して……。エリザベットを肯定する言葉が、返ってきた…………。

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