第2話 見栄を張っている? いいえ、事実です エリザベット視点(2)

「ふふふ、ふふふふっ。何を仰るのかと思えば……っ。一切好意を抱いていなかった? もっとマシな言い訳をしてくださいましっ」


 私が回答をするや、ミレネア様が大きく噴き出しました。


「あまりにも滑稽で、笑い死んでしまいそうですわ……っ。よりにもよって、こんな幼稚な言い分が出るだなんて……っ。ぷぷ……っ。エリザベット様は、コメディアンの才もおありだったんですのね……っ」

「ミレネア様、こちらもまた本心ですよ。なぜならフィレーダ様の婚約は、両親が勝手に決めたもの。政略結婚の一歩目だったのですから」


 噴き出したあと、お腹を抱えていらっしゃるミレネア様。そんな方にまずはこうお伝えし、詳細をお明かしすることにしました。


「こちらは、オフレコでお願い致します。……セヴラン様のフィレーダ家は、非常に裕福なお家。そちらはご存じですよね?」

「ええ。勿論ですわ」


 侯爵家の中では3番目に高い地位と長い歴史を持ち、財力はトップを誇る。それが、フィレーダ侯爵家ですよね。


「対してニーエイル伯爵家は、両親の代となってから急速に懐事情が厳しくなっていました。その理由は、父と母に激しい浪費癖があるからです」

「……懐事情が、厳しい……!? そんなものは初耳ですわ……っ!」

「それこそ見栄を張る人達でして、取り繕っているだけ。見える部分だけを豪華にしていて、見えない部分はボロボロなのですよ。……ですので裕福なフィレーダ家、その嫡男様からの要望に、嬉々として即答したのですよ」


 強力なパイプができる。上手く立ち回れば金を貸してもらえる。傾いている家をどうにかできる、財政が云々とうるさい親族を黙らせられる! などの理由で、私の意思を無視して飛びつきました。


『フィレーダ侯爵家のセヴラン様から婚約のお話がきていてな。お受けすると返事をしておいたぞ』

『セヴラン様は、あの有力なお家の次期当主様。良い関係を築いて頂戴ね』


 私がそのお話を知ったのは、すでに婚約者となっていたあと。これには流石に唖然となってしまい、暫く言葉を失いました。


「貴族の子はこういった話題に、拒否権はありません。多くの恩恵に受ける代わりに、家の発展のために尽くさなければなりません。それになにより私は祖父母#は__・__#尊敬しておりまして、そんな方々が守り続けてきた『家』が、領民の皆様の暮らしが、この人達のせいで滅茶苦茶になってしまう未来は避けたかった。そういった理由で婚約者となっていただけでして、特別な感情は抱いていなかったのですよ」


 真実だと目でご理解いただけるように、真面目なお顔で。咄嗟の言い訳ではないとご理解していただけるように、スラスラと。細説をさせていただきました。

 これで、信じていただけると――


「あまりにも自然で、うっかり騙されてしまうところでしたわ。……実はわたくし、エリザベット様が好意を抱いていたと、知っているのですわぁ」


 ――残念ながら、信じてはいただけなかったようです。

 私に、好意があったと知っている? この方は、何を仰っているのでしょうか……?


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