第2話わたしの彼氏

田んぼにおっこちた幸太に、手を伸ばした。

泥まみれの幸太を学校に連れ帰り、花壇用のホースで洗い、体育服に着替えさせた。

「こずえ~、ノーパンなんだけど大丈夫かな?」

「何が?」

「はみチンしないかな?」

「ジャージ履けばいいんじゃない?」

「……ジャージ忘れた」

「あんた、バスの一番奥に座ってよ!」

「なんで?」

「透けて、あそこが見えてるよ!」

「うゎ~、恥ずかしい」

「こっちも恥ずかしいよ」

2人はバスの一番奥に座った。幸太は、たまごクラブを読み始めた。わたしはもう、コイツに忠告はしない。だって、バカなんだから。

「こずえ~、妊娠中のセックスは激しくしちゃいけないんだって!」

「だから?」

「こずえもいずれは、妊娠するんだから、いつか、このたまごクラブ読めばいいよ」

「バカッ!」


2人のやりとりを聴いている者がいた。同じ学年の田島だ。

田島はこずえをじっと見つめていた。羨望の眼差しで。

「あんた?何、こっち見てニヤニヤしてんのよ?」

わたしは気持ちが悪かった。わたしを田島が見つめているのに気付いていた。コイツは幸太と違い運動神経は良いのだが、何故か帰宅部なのである。

わたしがそう言うと、

「こずえちゃん達って幸せそうでいいなぁ~。って」

「田島君はモテるじゃない。わたしはあんたに興味ないからね」

わたしはこの時、気付いていなかった。

田島はわたしではなく、うちのバカ幸太を見つめていたことを。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る