第4話 好きな人が、いる……? ドニ視点(2)

「『あんな男なんかより』。好きな人を貶されて、不快にならない人はいませんのよ?」


 シルヴィがそう口にして、俺はようやく気付いた。

 しまった……っ。つい、彼女が怒ることを言ってしまった……。


「ちっ、違うんだっ! 俺はただっ、事実を言っているだけっ、事実を言いたかっただけなんだよ! その言い方が悪かってっ、そこは撤回をしよう! 取り返すから、怒らずに話を聞いてくれっ!」

「……それも、無理ですわ。だって貴方は、わたしを更に不愉快にさせるんですもの」


 なっ!? 機嫌がもっと悪くなってしまった……!?


「ドニ、これから大切な用事があるの。もういいでしょう? 失礼するわ――」

「いやっ、だからっ! 小馬鹿にしてるのではなくてっ、さっきから言っているように事実なんだよ! 確かに爵位は下だがっ、実力はこちらが上でっ、かなりのものを持っていると自負しているっっ! そして君に対する愛も、誰よりも持っているんだよ!!」


 部屋を去ろうとするシルヴィの進路に回り込み、道を塞いで声を張り上げる。

 こんな真似はしたくなかったが、仕方がない。分かってもらえるまで訴える!


「大体だ! 今の時点でラファエル様は俺より遥かに下なんだよ!! どうしてか分からないだろうっ!?」

「……ええ、分かりませんわね。貴方はどんな理由で、そう思ってますの?」

「シルヴィが想いを告げに行こうとしている! それが理由だ!!」


 俺は殊更に声を張り上げ、そのトーンを維持して続ける。


「『賞を取れたら大事なお話がある』。そう告げたと、さっき言っただろうっ?」

「……ええ。そうですわね」

「ということはっ、ラファエル様はシルヴィの好意に気付いているはずだ!! にもかかわらず、『待つ』。それはあり得ない! なぜなら俺ほどにシルヴィへの好意があるのであれば、気付いた時に想いを告げるのだから!!」


 俺だったら、感情を抑えきれなくなって抱き締めるだろう!

 これが、理由! こうしていない時点で、俺より愛はないんだ!!


「俺以上に愛を持っていない者が、俺以上に愛せるはずがない!! 俺以上に愛せない男が、俺以上に幸せにできるワケがない!! だから俺の言い分は全てが事実で、あんな男よりも遥かに多い幸福を与えられると――チッ! こんな時になんなんだっ?」


 熱弁していると、ノックの音が聞こえてきた。そこで「取り込み中だから待って欲しい!」と叫ぶと、は……?


「取り込み中だからこそだ。失礼させてもらうよ」


 そんな声が返ってきて、勝手に扉が開いて――金色の髪を背中まで伸ばした、中性的な男が入ってきた。

 こ、コイツは――この方は……。連弾の、パートナー……。ずっとその名を連呼していた、ラファエル様だ…………。


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