編者あとがき~ヴェルテータ・プーブリスクスによる最後のご挨拶

 百三十九年の四月ごろだろうか?


 我々の随行する第一旅団の面々が、明るい雑木林の中で小休止を取った時の事。木立の中の古い木が立ち枯れ倒れて、小さな草地ができていた。


 そこには木洩れ日の中に一面の春紫苑が咲き乱れ、真っ白な花の絨毯を形作っていた。第一旅団衛生小隊の少女たちは、そこで思い思いの姿勢で堅い糧食をかじりながら、


「もし死ぬならこんなところがいいね」


 と、楽し気に笑いあっていた。


 髪は丸刈りにされ、身に着けたボロボロの男物の軍服は血や汚泥でガチガチに固まっており、手足は小枝のようにやせ細っていても、彼女たちは朗らかで美しかった。


 思わず「あなたたちの幸せとは何ですか?」と訊いてしまうと、一瞬の沈黙の後、「妖精姫」が木洩れ日に溶けて消えそうな笑顔で断言した。


「たくさんの死んでいるひとたちの中に、まだ息のあるひとを見つけること」


 「ね~っ」と声を揃えて言って、くすくすと笑いあっていた少女たちの、あの清らかな笑顔を私は死ぬまで忘れることができないだろう。


 あの少女たちほど、清純で美しく、穢れなく尊い笑顔を、私はいまだかつて見たことはない。願わくば、あの乙女たちの血と屍と涙の上に築かれたこの平和が、とこしえに続かんことを。


セプテントリオ王国歴百四十三年十月三日

セプテントリオ中央日報 社会部記者

ヴェルテータ・プーブリスクス 拝

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血まみれの追放聖女は断頭台の夢を見るか? 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa

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