第43話 愚かな青木くんに警告を

11月25日 金曜日 15時15分

私立祐久高等学校 2年2組教室


#Voice :青木あおき 郁吏いくり


 針金を使った呪いは、またしても解除された。

 針金がダメならチェーンだ。

 俺は、制服の上着の内ポケットに金属製のチェーンを隠し持っていた。これは、隠し持てるサイズのギリギリだった。


 そして、星崎あずさを探した。

 新校舎2階に、星崎あずさの所属する2年2組がある。

 学年が違う。教室が離れている。怪しまれずに、接近できる機会は少ない。


 全校集会のようなチャンスは都合よくは回ってこない。凶器を隠し持ちながらも、星崎あずさへの攻撃を果たせないまま、授業が終わり、校内清掃の時間になってしまった。


 だが、俺は諦めてはいない。

 俺たちのクラスが、校庭の清掃当番になったチャンスを活かし、星崎あずさへの接近を試みた。


 影だ。

 あの女の影さえ踏むことができれば、俺は勝つ。


 偽装のため、庭掃き箒を手に2年2組の教室へ近づいた。

 ターゲット、星崎あずさはすぐに見つかった。


 教室の窓ふきをしていた。

 星崎あずさの影を探す。ダメだった。

 残念ながら、いま、窓際に立っている星崎あずさの影は、2年2組の教室内に落ちている。日差しの向きが悪い。


「ここからでは、無理か」

 俺はひとり、つぶやいた。

 繰り返すが、学年が違うために、教室も離れているのだ。

 暗殺者が俺だと悟られずに、ごく自然に接近して影を踏める機会は、意外に少ない。思案に暮れながら、2年2組の窓を見あげていると……


 星崎あずさと目が合った。

 そして、星崎あずさは、ガラスクリーナを左手に持ち替えた。


 何やら、泡でアルファベットらしい? 文字を書き始めた。

 窓ガラス越しに笑った。


 I FOUND YOU !みーつけた!


 はじめは、意味が解らなかった。

 しかし、泡で書いたのが文字だと理解した瞬間、心臓が凍った。



 ◇   ◇



11月25日 金曜日 15時20分

私立祐久高等学校 体育館裏


#Voice :青木あおき 郁吏いくり


 補足された!?

 俺としたことが、走って逃げてしまった。


 たった2回、呪いを掛けただけで、見つけられただと!?


 信じられなかった。

 しかし、2回とも呪いはすぐに解かれた。

 1回目のときでさえ、星崎あずさは影踏みの呪いに即座に反応し、俺の方を見ていた。もしかすると…… いや、違う。情報が漏れたのは、野入槻尾が原因だ。


 突然に、閃いた。

 飯野緋羽が自殺未遂で病院へ搬送された際、野入槻尾と星崎あずさ、鹿乗玲司は話し合っている。担任の姫川先生は、ほぼ同時刻に籠川里乃が倒れた件に対応していた。

 病院へ搬送された飯野緋羽には、生徒会が付き添ったのだ。


 そこで、呪いのアプリ「キュービットさん」が走るタブレットパソコンについて、情報交換されたのだと、俺は初めて気づいた。

 俺としたことが、こんな簡単なことも失念していた。


「なんてことだ……」

 俺は頭を抱えて、嗚咽を漏らした。

 また、俺は勝てないのか。



 ◇  ◇



11月25日 金曜日 15時25分

私立祐久高等学校 2年2組教室


#Voice :星崎ほしざき あずさ 

  

 慌てて青木くんが逃げ出した。

 ほっと、ため息が出たよ。


「どうやら警告として受け取ってくれたようね」

 雑巾で拭いて、窓ガラスに書いた文字を消した。


 呪いなら完全に秘密に安全な場所から、他人を傷つけることができると信じているのなら、これに懲りて、しばらくは大人しくしているはず。

 青木くんがどれくらいの期間で立て直してくるか? それは未知数だけど、ね。



 ◇   ◇



11月25日 金曜日 15時30分

私立祐久高等学校 体育館裏


#Voice :青木あおき 郁吏いくり


 校内清掃の時間もまもなく終わる。

 無様に逃げ出して、体育館裏で無力にうずくまって泣いていた。


「ちくしょう、今日もなくもできないまま、終わるのか?」


 だが、その瞬間、突然に、脳天に落雷したように、俺は気づいたんだ。


「あのSMSだ。海外からのBOTだと思い込んでいたが、本当にBOTなのか?」


 俺は、庭掃き箒を握りしめていた。

 あの影踏みの呪いの方法を伝えて来たSMSに返信することを思いついたのだ。


「あとで試してみる価値はあるな」

 ひとりつぶやいた。俺は、まだ負けてはいない。

 

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