第20話 籠川さんは、後悔していた

11月17日 木曜日 16時50分

私立祐久高等学校 生徒会室


#Voice :星崎ほしざき あずさ 


「星崎先輩、お話しって、何ですか?」


 籠川さんをLINEで、放課後の生徒会室へ呼び出した。

 メガネの奥に光る眼差しが、緊張した様子で私を見詰めていた。そう、この反応は、


「うん。聡明な籠川さんなら…… この生徒会室から、貸し出し用のデジタルビデオカメラがなくなっていることに、もう気づいているよね?」

 私は、言い含めるようにゆっくり話した。籠川さんを追い詰めるつもりはないから、なるべく柔らかく話しているつもりだったの。


「はい」

 

 短い返事が返った。

 この反応は、籠川さんの性格から考えるに、間違いないと思った。

 だけど……

 証拠から確信はしていても、重大な事柄だから、私は慎重になっていた。

  

「無断使用された形跡があったから、鹿乗くんにお願いして記録媒体のデータを復元してもらったの」

 ちらりと後ろに控えている鹿乗くんを振り返ってから、籠川さんを見据えた。

 内心は、祈るような気持だった。


「なぜ、あんな場面を撮影できたの?」

 私は疑問をストレートに投げた。

 それが分からなかったから、籠川さんを呼び出したの。


 この祐久高校が建てられている土地が、いわく付きなのは知っている。

 旧校舎に何か心霊的な問題があることも理解している。

 あのビデオ画像が、この生徒会室の窓から最大望遠で撮影されたことも、見たらわかった。

 ビデオの撮影者が、いま目の前で怯えている籠川さんだっていうことも、もうはっきりしている。動画に残っていた声を聞いたら、すぐにわかったから。


 だけど、なぜ、あんな出来事が起こる場面を、都合よく撮影できたのか?

 籠川さんは、木瀬さんの身に大変な事態が起きる時間と場所を、予め知っていたはずなの。

 知っていたから、この生徒会室に深夜に忍び込んで、木瀬さんが困り果てている有様を、きっと、面白半分に撮影していたはず。


「11月13日、日曜日の21時20分頃に旧校舎―― 木瀬さんが災難に遭うことを、籠川さんは予め知っていたのね。だから、生徒会室に忍び込んで、その窓からビデオ撮影した。そうでしょ?」

 私が推理したことを告げた。

 ぎゅっと、籠川さんがスカートの裾を握りしめた。

 

「信じてくれますか?」

 籠川さんの声が震えた。


「星崎先輩は、私の言葉を信じてくれますか?」

 鳴き声が微かに混じった悲鳴のような声が、言いすがる。


「うん。あなたが話すことを戸惑っている事柄は、もう、わかっているから、大丈夫だよ。わたし、これでも、鈴守神社の神職の娘ですから」

 にっこり笑って見せた。

 今日は、鈴守神社のお守り鈴をスクールバックに入れてきた。

 私は、まだ、籠川さんを救えると思っていた。


「これ、です」

 籠川さんがスマホを取り出して、メーラーの画面を見せた。

「SMSでメッセージが届いて、それで、気がつきました」


『願いを叶えたいならば、アプリを起動したタブレット端末を探しなさい。

 場所は、旧校舎理科準備室 床下収納庫。

 いまならまだ間に合う』


 メーラーの画面では、11月13日、日曜日の19時30分に、このメッセージを受信していた。

「同じメールが、木瀬さんにも届いていると思ったの?」

「はい。それで、木瀬さんが願い事を叶えるために、旧校舎へ行くと予想して…… この生徒会室で待ち伏せしました。でも、まさか、木瀬さんがあんなことになるなんて、少しも思わなかったんです! 信じてください」


 籠川さんが声を震わせた。

 おそらく彼女は、木瀬さんの事件をこの生徒会室で目撃してから、今日までずっと怯え続けていたはずなの。

 何とか救いたいと思った。


 だけど……


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