第31話 閉ざされた生徒会室の扉の前で

11月21日 月曜日 16時30分

私立祐久高等学校 生徒会室


#Voice :飯野いいの 緋羽ひわ


「開かない。鍵が掛かっている?」


 あたしは、LINEで星崎先輩に呼び出されて、放課後の生徒会室を訪れていたのだけど…… 指定された時間に来たのに、引き戸には鍵が掛かっていた。すりガラスの向こう側には誰かいて、話し声が聞こえた。

 先日と一緒の状況だけど、声を潜めているらしくて、扉越しでは会話を聞き取れない。星崎先輩と、鹿乗くん…… あと、この声、聞いたことある気がするんだけど、誰だった?


 と、そのとき……


 ゆら ゆら ゆら 


 眩暈かと思った。

 船酔いするような揺れが、襲ってきた。


「な、なっ、地震!?」

 施錠された扉の向こう、生徒会室の中から鹿乗くんの叫びが聞こえた。


 ゆら ゆら ゆら ゆら ゆら ゆら


「じ、地震っ!? 大きいっ!」

 あたし、地震とか雷とか苦手。頭を抱えてしゃがみこんだ。思わず、「葦之っ!」と、名前を呼びそうになって気づいた。葦之はもういない。殺されて、お葬式も済んで、灰になって、遠い所にあるお墓に埋められちゃった。


 だけど、しばらくして、生徒会室の扉が開いた。


「あれ? 飯野さん?」

 頭を抱えて丸まっていると、声が降ってきた。

 気がつくと、地震は止まっていた。

 見上げたら、萩谷さんが不思議そうな顔をして、あたしを見ていた。


「あ、萩谷さん。いま、すごい、地震が…… ゆらゆら揺れて怖かったよね」

「えっと、大丈夫だと思います」

「え? でも、ぜったい、いまの、震度5強はあったよ。ゆらゆら揺れてたから、ぜったい遠くの海で巨大地震とか……っ!」

「心配ないです。スマホとか何も鳴っていないですよ」

 いわれて気づいた。

 スマホ引っ張り出してみたけど、何の通知も来ていない。


「どういうこと?」

 ツイッター見たけど誰も地震なんてツイートしてない。

 それどころか、窓の向こうも何の異常もない。夕暮れ時、何事もなく、街路灯が灯り、道路はいつもどおりに車が流れている。

 それに、校舎の中だって……

 体育館や音楽室には、部活動の生徒たちもまだ残っているはず。なのに、誰も何も、騒ぎ声なんて聞こえてこない。

 窓から校庭を見回しても、テニス部の子たちはまだコートで練習を続けていた。あ、うちの高校、私立なんで運動部の予算あるから、コートにナイター照明あるの。 

 本当に大きな地震が襲ってきたのなら、当然、停電するし、みんな怖がっているはず。平然と試合を続けているって……?


「だから、だいじょうぶなんです。気にしないでください」

 萩谷さんは、そう言い残すと、階段を降りて行った。

 いつもこんな感じだった。萩谷さんとは、同じクラスなのに微妙に…… 何というか波長が合わないというか、ズレている。不思議な子だと思うよ。


「あ、緋羽ちゃん。お待たせして、本当に、ごめんなさい」

 そっけない様子で立ち去った萩谷さんと入れ替わりに、星崎先輩の謝る声がふんわりと振ってきた。両手であたしを拝む仕草をしていた。

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