22 純白の防具。


 頭を切り落としたはずの大蛇の身体がうねった。剣を突き刺して、振り下ろされないように身体を支えたが、大蛇はこちらを向く。そしてかぶりつこうとしたから、剣を振り上げて口元を切り上げた。怯んだ隙に、小さめの魔法陣を浮かべて、剣を突いていく。

 ズドンッ!

 銃弾のような衝撃波が、頭を貫いた。


「エリュー!!」


 呼ばれてすぐに振り向けば、ヴィクトが切り落としたはずの左の頭が生えていた。

 右の頭も貫かれた額が治っているし、それだけじゃない。ヴィクトの方の大蛇までも生えている。その大蛇が、ストが張った防壁にかじりついていた。

 とっさの判断で、ヴィクトは大蛇の方を片付けるために両断した。

 私は三重の魔法陣を、黒杖剣で突き、三倍の強力な弾丸のような衝撃波が貫く。

 三つの頭ごと貫くつもりが、真ん中が頭を上げて避けたのだ。そして、また瞳が白く光った。


「真ん中が回復役!!」


 私は真ん中から仕留めようと飛びかかったのだが、暗闇から何か太い鞭のようなものが、バシンッと直撃。

 大蛇の尻尾か!


「エリューナ!!」

「だめ!!」


 ストが、私のために防壁を解こうとしたのはわかった。私の身体は、魔法の壁にぶつかってしまうが、これぐらい大したことではない。

 右の大蛇を食い止めようと、黒炎剣でヴィクトは火炎の炎を口の中に放つ。


「スト! ブレスくる!!」

「っ!!」


 私はストから離れて、柱の陰に隠れた。

 もう一度、ストに火と水の壁を作らせて、火炎と吹雪のブレスを防がせる。

 火炎から身を隠す私は、また復活した左の大蛇に喰われかけた。口内の上を剣で刺し、下の口を踏み潰して、阻止。両腕に力を入れて、頭を真っ二つに切り裂く。

 ミミカが三連射の弓矢をまた放ち、真ん中を仕留めようとしたのだが――――。


 パシンッ!!


 白いドームが現れて、真ん中の顔を守った。火の弓矢が防がれたのだ。

 魔法の防壁まで使うか! 思ったより、厄介な相手だ!


「第二プラン、行くか!?」

「いや第一のままで行くよ!! 例の切り札使う!!」

「おう!!」「おうよ!!」「了解!!」「あいあいさ!!」


 それだけで、私がしたいことを理解してくれた。

 ディヴェの補助魔法を受け、先ずは再生した大蛇を倒す。

 ヴィクトがもう一度右の大蛇の首を刎ねて、左の大蛇の頭を私が突き刺した。

 そして、再びヴィクトは大蛇の身体を駆けて、火炎をまとった剣を振り下ろし、氷の犬の頭を切断。

 ミミカが三連射の水の弓矢を放ち、火の犬の頭をズボッと貫く。

 また真ん中の犬の瞳が、また白く光った。また再生される。


 だけど、これで最後だ!!


 ブレスが終わった瞬間に、もう犬の下に滑り込んでいる。

 後ろに引いた右手を、突き上げて腹に掌を叩きつけた。


 魔力封じの術!!


 軽い電撃を流すイメージだ。

 これでもう再生も、防御も出来ない。これで、しばらくの間は魔法が使えないのだ。


「”――爆裂業火――エスプロジオ・インフェルブルチャ――”!」


 黒杖剣の剣先から爆裂の火の魔法を放って、真ん中の頭を仕留めた。

 それを合図に、畳みかける。ポロッと魔石の欠片が落ちる中、攻撃の雨が降り注いだ。

 右には複数の炎の刃が放たれ、右には数多の水の弓矢が落下した。

 犬が倒れるのを見もせず、私はストが攻撃を堪えている大蛇の始末に移る。

 左側の大蛇の身体に乗り、切りつけながら走り、こちらを振り向いた大蛇の顔をまた真っ二つに切った。


「”――風よ――ヴェンド――”!」


 風の魔法をバネにして、向かいの大蛇へと向かう。


「”――水刃――リクアラミア――”!」


 水の刃を放ち、横から両断した。

 スタッと、ディヴェとストの間に降り立つ。

 周囲を確認。煌びやかな魔石の塊が、たくさんあるだけ。敵は目視が出来ない。


「”――光りよ――リラーレ――”」


 私は剣を振り、光りの玉を奥の方へ吹っ飛ばした。

 通り過ぎれば、きらっと魔石が光りを放ち、そして最奥を照らす。

 犬の魔石に乗っているヴィクトが確認してくれた。


「敵なし。階段があるぜ」


 安全は、確認した。

 少しだけ、気を抜く。無視していた痛みに襲われて、ストの防壁にぶつかった右肩を押さえた。

 ディヴェが、すぐに治癒してくれる。

 すぅっと、あっという間に、痛みは引いていった。


「魔力封じの術は、強いわね。絶対に敵には回したくない」


 ミミカが感心する。

「ウチもー」と、ディヴェは笑った。


「すまん、エリューナ。オレの防壁で痛めたんだよな」

「ううん、防壁を解いてたら、ストもミミカもディヴェも危なかった。これくらい大丈夫よ」


 眉を下げて謝るストに、私は笑い退ける。大丈夫。


「しっかし、再生するとはなぁ……誰もその情報を寄越さなかったのかよ」


 ヴィクトが、文句を溢す。


「そこまで追い込めなかったってことでしょう? だらしないわね」


 ミミカは、肩を竦めて見せた。


「魔力の回復のために、ここで休みましょう」


 結構の量の魔力を消費した。特に補助に徹して、何度も付与してくれディヴェだ。

 ディヴェの補助魔法は、必要不可欠だから、彼女の魔力回復を待つ。

 柱を背にして、それぞれ時間が過ぎるまで座っていた。


「さてと。未踏の階層に行こうか!」


 十分休んだと判断して、私達は立ち上がる。


「また迷路はごめんだぜ?」

「【宝具】の部屋に一票」


 ヴィクトは迷路を嫌がり、ストは【宝具】がある階層だと期待した。

 何があるかは見てからのお楽しみだ。

 防壁を張った大盾を構えたストを先頭に、私は長杖に持ち替えて階段を下りた。

 援護射撃が出来るように、腕を伸ばして構える。

 隣のヴィクトも、剣を構えていた。


「通路だ」


 階段が終われば、真っ直ぐ続く通路が伸びている。

 奥からは、白い光りが差し込んでいた。


「「「「「【最高の白光の道】」」」」」


 ついつい、自分達のパーティー名を口にする。

 ぴったりと同時に口にしたのだから、おかしくて笑ってしまう。

 軽い咳払いをしておく。しっかりと、気を引き締めようか。

 一本の通路だ。攻撃を放たれれば、防戦一方となる。

 しかし、かといって駆け抜けて、トラップを発動させてはいけない。

 ディヴェが強化を高めたストの防壁を、信じて進んでいく。

 私もヴィクトも反撃が出来るように、左右から武器を突き出す。

 長い通路を慎重に歩いたが、トラップはなし。攻撃も飛んでこなかった。

 円形の広間に出る。その中央には――――。


「おいおい、これって……【宝具】か!?」


 ストが目を輝かせて、私達を振り返った。

 無理もない。中央に飾られていたのは、輝く純白の鎧。そして、同じく純白の大盾だ。


「飛びつくなよ、スト」

「お、おうっ!」


 ヴィクトの制止に従うが、ストは興奮状態だった。

 周囲にトラップがないかを、念入りに探る。


「仕掛けがあるね、ここ」

「ここにもあるわよ」


 ちょうど向き合うように、右と左にあるらしい。私とミミカが、くぼみを見付けた。


「【宝具】を動かしたら、何か飛び出すトラップかしら」

「なんかぶち込んで壊しておくか?」


 くるっと、ヴィクトは黒炎剣を回して見せる。


「んー……ウチは、この先が気になるけれどー」

「確かに……この先にはフロアボスがいる感じがするわね。でもここを済ませてからにしましょう」


 ディヴェは、先に続く通路をじっと見つめているけれど、先ずはここだ。

 そわそわしているストのためにも、早く【宝具】を手に入れよう。


「全員で防御壁を張ろう。二重に」

「完全防御かよ」


 足元に魔法陣を展開して、全員で二重のドーム型の防御壁を張った。

 これで何が飛んできても、大丈夫だろう。

 この完全防御の壁の難点は、こちら側からも攻撃が放てないってことだ。


「よし、スト。いいよ」

「おうよ!」


 ストは嬉々として、純白の大盾に触れた。

 それが合図のように、ガタコンッと見付けたくぼみが飛び出してきたのだが、別にトラップではない。

 鎧とセットらしき、グローブが備えてあるだけだ。


「トラップなし。【宝具】部屋だな」


 ヴィクトが、ストに続けるように顎で指示をする。

 慣れた手つきで、ストは鎧を外した。注意していたが、他には何も起きない。


「なぁ! 装備してい!? いいか!?」

「んー、じゃあ手早くお願い」

「ありがとう!! 皆!」


 ドームの防壁を維持している間に、鎧を替えてもらうことにした。

 きっちりとストが着こなした鎧は、品のある純白の輝きを放っている。

 防御壁を解除して、私達はヴィクトに視線をやった。

 ヴィクトはニヤリと笑い、剣を構える。

 ストも大盾を構えた。


「行くぜ!」

「来いよ!」


 ヴィクトが振り下ろす魔剣を、ストは魔力を流したであろう大盾がピカッと光る。

 チリチリッと火花が散るが、大盾と魔剣の間には壁があるように、触れない。

 最後には、ヴィクトが押し返された。


「ちっ!」

「そこまで」


 ヴィクトは再び剣を振ろうとしたが、大盾の力はわかったのだ。防御力の高さは、確認出来た。


「次の階層もフロアボスか?」


 にこにこ。実戦で試したいとストの笑顔が言っている。


「ちょっと覗くだけよ?」


 私は進むことを選択した。

 マズそうなら引き返して、作戦を練る。この先は、未知だ。

 何が出るかは、わからない。だから警戒は怠らなかった。


「おいおい、まじかよ」


 ストが顔を上げて、言葉を溢す。

 次の瞬間、降りていた階段が、突き出て斜面に変わった。

 私達は、滑り落ちてしまう。そして、35階層のフロアに放り込まれた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る