最高王宮魔導師編

07 卒業と新たな道。



 あらかじめ、手に入れた情報によれば【難攻不落の不死の王】と呼ばれているのだ。

 フロアボス。巨人のアンデットは、魔法の全属性を防ぐ防壁魔法を使うし、物理攻撃をしようにも人型アンデットの軍勢が阻んで受ける。

 スケルトンのアンデットは、巨人のアンデットの手によって、次々と生み出されてしまう。長期戦になれば、アンデットの大群に押し潰されるのだ。

 かなり広く、そして奥が深いフロア。

 パーティー二つ分の手練れの人材で挑んでも、失敗して撤退したこともあるらしい。

 ここは、私達の最速最強の実力を発揮する時だろう。

 作戦は、もう決まっている。

 先ず、ディヴェの補助魔法で魔法攻撃力向上。

 ミミカが強力な火炎の魔法を、アンデットの軍勢で燃やす。

 残りがいるなら、私の光属性の魔法で後始末をする。

 そして、突っ込むストの背を踏み台にして、ヴィクトが巨人のアンデットを叩き切るのだ。

 ストが突っ込んだが、想定していたのは、アンデットのいない道だった。

 しかし、想定外にアンデットの召喚しての補充が早すぎる。あっという間に50体ほどの軍勢が溢れる。ストが大盾で突撃したが、本命の巨人のアンデットに届かない。

 アンデットの軍勢に囲まれてしまう前に、大盾と魔剣で払いのける。

 そして、フォーメーションを戻す。


「もう一回やってみるか!?」

「第二プランと行こう!!」

「やるか!! エリュー!」

「やるよ!! ヴィクト!」


 迷うことなく、第二プランを選択。

 私は長杖をアイテムパックにしまい、そして剣を抜き取った。

 魔力はかなり消耗している。持久戦は不利。ならば、さっさと巨人のアンデットを仕留める。

 ミミカがもう一度、全力で火炎を放ってアンデットの数を減らす。

 ディヴェの補助魔法で、加速と身体能力を底上げ。

 ストの防壁魔法を、空中に作ってもらう。

 それを踏み台にして、私もヴィクトも、アンデットの上を通って左右の壁に向って走る。

 しかし、そう遠くまでは防壁を張れないから、次は風の魔法を発動。


「「”――風よ――ヴェンド――”!!」」


 風を噴射するようにして猛スピードで壁を駆けていく。

 私は右から、ヴィクトは左から、飛び込み、ほぼ同時に刃を食い込ませて切り込んだ。

 着地するまで、全力で切った。

 油断はしない。残ったアンデット達を、全員で一掃した。

 ヴィクトと背中を預け合いながら、切って切って切り捨てる。スケルトンのアンデットが、一体もいなくなった。

 足元には、大量の魔石が落ちている。

 そんな中で、ヴィクトと目を合わせた。ヴィクトも私を見ると、ふっと笑って拳を差し出してくる。

 私も笑顔で拳を突き出しては、コツリと合わせた。

 そして、ともに戦い抜いたミミカとディヴェと抱き合う。

 ヴィクトはストと肩を組んで、笑い合った。


「「「「「63階層【不死の王】を撃破!!!」」」」」


 五人揃って、声を張り上げて、拳を高々に突き上げる。

 最高の仲間と最速最強の記録を出した。

 ちょっとだけと覗いてみた64階層に、魔物はいない。

 狭い空間があって、真ん中には黒い剣が突き刺さっていた。


「「「「「宝ーっ!!!」」」」」


 私達は十分に警戒をしつつも、目を輝かせて【宝具】に駆け寄る。

 リーダーの私が、謹んで引き抜く役目をさせてもらう。

 スッと思った以上に軽く抜けた。黒い剣身の剣は、軽すぎる。けれども、不思議な形をしていた。

 剣身の中央には、純白の杖のようなものが、嵌め込まれている。


「これって……杖と剣を合わせた武器? えっ! すごい! 魔剣よりも強力な魔法を放てるし、うん! 切れ味も抜群!」


 さっき拾った魔石も、サクッと切れた。

 杖を装備することで、発射速度が増すし、強力にもなる。杖としての役割も果たせるし、剣としての役割も果たせる武器だろう。


「すげーじゃん。ちょうどいいな、お前の就職祝い」

「えっ? 就職祝い?」


 ヴィクトが、あっさりと言い退けた。


「最高王宮魔導師になる祝いの品」

「そうだよ、実はずっと迷ってたのよね」

「これでいーい? エリューちゃん」


 ストとミミカとディヴェも、とても軽く言う。


「ええっ! 私だけ就職祝いなんて!」

「はぁ? 魔法の使い手の最高の地位の職につくんだぞ? 祝わない方がおかしいだろうが」

「う、嬉しいけれども……! 皆の分は!?」


 祝ってくれるのは嬉しいけれど、やっぱり私だけもらうのは申し訳ない。


「あたし達は約束でいいよ」

「約束?」

「また冒険するって約束」


 じーんっと胸が熱くなった。

 それだけでいいのか。再び冒険をする約束。


「うんっ! その約束、この剣に誓うよ!」


 私は剣を掲げた。

 そして、誓った。

 いつか、約束を果たす、と。

 この仲間と再び――――必ず集い、そして冒険をする。


 ダンジョンの外に一瞬で出られる、持ち運び用の転移装置を使って脱出。帰還の使い捨てアイテム。

 ボロボロの姿のまま、私達は冒険者ギルドで64階層まで踏破したことを報告した。

 仮冒険者の私達に許可を与え続けてくれていたギルドマスターは、男泣きをする。

 初老の大男であるギルドマスターが、盛大に祝おうと言い出すけれど、私達はもう体力の限界。

 そのまま、帰宅をしてベッドで死んだように眠りについた。

 一日中眠っていたのは、私だけではない。

 皆も回復のためにも、十分に休息をとったそうだ。

 数日間もダンジョン潜っていたので、久しぶりの登校をした。

 ニーヴェア学園でも、もう【深淵の巨大ダンジョン】64階層の踏破したことは知れ渡っている。

 私とヴィクト以外は囲まれていて、質問攻めにされていた。

 私は貴族令嬢だから、囲んでくる庶民の生徒はいない。尊敬の眼差しを受けるけれど、遠巻きにされている。

 ちなみに、ヴィクトは慕われるどころか恐れられている。流石、狂犬だ。

 そう言えば、担任教師であるアスカちゃんにも、泣かれた。登校しないし、自宅にも帰っていないから、心配した、と。

 それから大いに、新記録更新を喜ばれた。

 私達は、トップ成績をキープしたまま。

 卒業式の当日。

 淡い桃色の桜の花が、咲き誇る。桜の隙間にある群青色の空を見上げた。

 桜薔薇を渡される前に、私達は早々と学園を出る。

 絶対に抱えきれないほどの花束になるだろうから、逃亡だ。

 眩しいほどの道を進む最高の仲間の背を見ていたら、涙が込み上がった。

 今日ぐらい泣いてもいいよね。


「またいつか、冒険したい!! 大好きだよ!! 皆! またね!」


 涙でよく見えないけれど、笑ってくれた皆は再会を約束してくれた。

 ぐしゃぐしゃと、またヴィクトに頭を乱暴に頭を撫でられる。

 リリカとディヴェに挟まれて、抱き締められた。

 ストには、背中をポンポンッと叩かれては、宥めてくれる。


 こうして、私は【最強の白光の道】パーティーを抜けて、最高の仲間と別れた。



 ◆◇◆



 卒業後の一年は、怒涛だった。

 最高王宮魔導師として、貴族令嬢として、社交界デビュー。

 国王陛下が出るパーティーには、絶対参加。

 王宮魔導師のローブの下にドレスを着ての参加をすると、群がるように囲まれた。

 師匠であるグラフィア様と同じ年で、最高王宮魔導師になった私を評価してくれている。

 だが、攻略した63階層の【不死の王】について、問われること数十回。

 貴族子息の縁談を仄めかされること数十回。

 とても疲れるパーティーだった。

 学生時代は特にモテていなかったけれど、どうやら私は見目麗しい令嬢に見えるみたいだ。

 微笑みをしっかり貼り付けていれば、ボッロボロになりながらもダンジョンに潜っていたとは思えない美しさ。という褒め言葉なのか、どうかわからないことを言われもした。

 でも縁談が直接来ないのは、どうやら国王陛下が私を気に入っているかららしい。

 最高王宮魔導師として最初にお会いした時に、グラフィア様の葬式で見たと仰ってもらった。

 グラフィア様のために泣いていた女の子だと、覚えていてくれたそうだ。

 国王陛下の名前は、アッシュウェル・ヴェル・イングラン。

 少し長めの白金髪。優しい水色の瞳。少ししわがある顔だけれど、とても聡明な顔立ちだ。

 昔、グラフィア様をよく頼っていたらしい。

 そういうことで魔法が必要な時は、必ず私を指名する。

 そうでなくても、私をそばに置きたがるので、同僚には睨まれてしまった。

 王宮魔導師の中で親しい者は、一人たりともいない。

 常に友が仲間がいてくれた学生時代と違い、私は孤独だった。

 ぽっかりと穴が開いたよう。

 一人ぼっちで、寂しい気持ちが募る。

 皆との冒険の思い出を振り返って、私は恋しがった。

 それでも、私は耐え切ったのだ。

 一年ほど耐えた私に、アッシュウェル陛下がこんな提案をした。


「我が息子と婚約しないか?」

「……今なんと仰りましたか?」

「だから、我が息子、とはいえ、次男ロクウェルだ。婚約してくれないだろうか?」


 私はすっかり板についた笑みで固まる。

 第一王子は、すでに結婚をしていた。

 第二王子は、私の二つ年下の王子だ。まだ王都学園に通っている学生。

 

「そろそろ、エリューナ嬢の縁談をのらりくらりかわすのは無理になってきただろう? とりあえず婚約関係になってみてほしい。もちろん、形だけで構わない。ロクウェルに尋ねてみれば、快く承諾してくれた。あとは君の返答次第だ。私としては、君が身内になるのは喜ばしい。悪い話ではないだろう? どうかな?」


 ルンルンした雰囲気で、アッシュウェル陛下は笑いかける。

 どうかなって……。

 私に拒否権あるの? 本当に? あるの!?

 かなり乗り気なアッシュウェル陛下に、ごめんなさいが出来るわけないよね!?

 ロクウェル殿下も、何故承諾したんだっ!

 心の中で、冷や汗をダラダラと垂らしながらも、私はなんとか言質を取ることにした。


「とても良い話だと思います。ですが、やはり双方の結婚する意思を尊重してほしいです」

「もちろんだ。息子と君の意思を尊重する」


 よし!! 言質とったーっ!!

 これで婚約解消は出来る!!

 あとは、ロクウェル殿下の意思だな!!

 彼から婚約解消を申し出てくれれば、万事解決!!

 そう思っていたのだけれど。


「最高王宮魔導師エリューナ・ルーフス! 我が婚約者よ!」


 改めて対面したロクウェル・ヴェル・イングラン殿下は、大歓迎という様子だった。

 白金髪と水色の瞳の第二王子は、にんまりと笑う。

 ちょっと不快に感じた。

 こうして、私は第二王子の婚約者になってしまったのである。

 なっちゃったのだった。

 不思議なことに、一瞬だけ。

 ヴィクトの顔が浮かんだ。

 本当に、不思議だった。



 

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