03 初めての宝。


 仮冒険者カードは、銅の装飾が左右に施されたしっかりしたカードだ。

 私達は子どもらしく、認められたことに、目を輝かせては喜んだ。


「仲間を大事にしろよー。あの学園で組んだパーティーは問題が起きない限り、卒業しても組んだまま冒険者活動するからな」


 最後にそれだけを言うと「またな」とダンさんは去っていった。

 私は俯いてしまう。

 私だけは、進路が違うのだ。でも私がいなくても、ミミカとディヴェは魔法攻撃も得意。卒業後も、問題ないだろう。

 ヴィクトだけが俯いた私を見ていたことに、気付かなかった。




 一週間後、私達はダンさんの付き添いで、10階層まで下りることに成功。付き添いだけれども、手助けは一切なし。

 普通の学生なら、一月近くはかかるらしい。最短記録というわけだ。

 ディヴェには補助魔法を施してもらっていたけれど、あまり回復魔法は使わせずに済んだ。治したのは、軽い切り傷ぐらい。

 せっかく来たので、11階層まで下りて、休憩の練習をした。

 そこは魔物が滅多に出現しない階層で、一息つくために設けられたような階層らしい。

 アーチ型の洞穴がいくつもあるけれど、中には何もない。昔は宝箱があったらしくて、その残骸だけがあった。


「あっちこっちしてないで、座って休めよ。エリューナ」

「あ、はい」


 うろちょろと探検していた私を呼ぶのは、ダンさんだ。

 言われた通り、ちょこんと座った。


「上層はすでに隅々まで調査されているから、宝の類はないぜ。期待するなよ」


 ダンさんに、にやりと意地悪を言われてしまう。


「そんな期待はしてませんよ……」

「あーでも。ちょうど昨日、東の森の奥に新しいダンジョンが出現したんだが、行ってみるか?」

「いいですかっ?」


「オレが引率するなら問題ない」とダンさんが言う。

 ぱぁっと目を輝かせる。バッと円陣のように座って休憩するヴィクト達に目をやった。


「いんじゃねーの?」

「なんか宝を手に入れられたら儲けだな」

「えぇーじゃあ行こう」

「うん、さーんせーい」


 ヴィクト、スト、ミミカ、ディヴェの順で賛成してくれる。

 満場一致! やったね! 新しいダンジョンで宝探し! 楽しそう!


「……そういやー、このパーティーのリーダーって誰だ?」


 ……リーダー? そう言えば、決めてない気が……。

 でもこういうの、ヴィクトがやりたがりそう。

 オレに決めってんだろ!! とかキレそう。


「ん」


 ヴィクトが親指で指差したのは、なんと私だった。


「えっ!? 私なの!? ヴィクトじゃないの!?」

「なんでオレなんだよ……オレは前衛バカだ。リーダーって柄じゃねーよ」


 そこは冷静に判断が出来るのか。

 呆れ顔をされたけれど、やっぱり私以外がいいのでは?


「このポジションを決めてくれたのは、エリューちゃんじゃーん」


 ディヴェが、ケロッと言い退けた。

 え。そうだっけ。


「適切な判断が出来るし、エリューナで問題ないでしょ」

「ていうか、今更すぎるだろう」


 ミミカとストが、軽く言っては笑う。


「確かに、エリューナが一番パーティーを見ているしな……適任だろう」


 ダンさんまで言ってくれるけれども……。

 私を信頼してくれているのは、嬉しい。

 けれど、リーダーなんてポジションは、私に任せたら……卒業したあとはどうするのだろう。


「あ? やりたくねーのかよ!? やれよ!!」

「なんでキレるかな!? わかったよ、わかったから!」


 ヴィクトが苛立って声を上げるものだから、折れた。

 とても強引に決まってしまった……。


「えっと、じゃあ、うん! 改めて、よろしくね!! 皆!」


 今更だけれど、気恥ずかしくなりつつも笑みで言う。

 皆も笑い返してくれた。


「パーティー名は? 決まってるのか?」

「えー、どうしようっか?」


 グイグイと質問してくるダンさん。

 ディヴェは、自分の頬に人差し指を当てた。


「名は体を表すとか言うだろう? 目指すべき姿とか、目標とかを名乗るもんだぜ」

「じゃあ、最強」


 ケロッとヴィクトが、目指す目標を口にする。


「え? ここは最高魔法使いエリュー! でよくない?」

「よくなーい!!」


 さも当たり前にミミカが言うものだから、私は全力で反対した。

 その後も、妙な案が出るから、全然決まらない。

 次第にダンさんは付き合うことが面倒になったようだ。話を切り上げた。


 次の日。ニーヴェア学園から特別許可をもらって、新ダンジョンへと向かった。

 森の中に洞窟が出来上がったような入り口を、冒険者が出入りしている。

 【深淵の巨大ダンジョン】と比べると狭いらしいが、名前もつけられていない新しいダンジョン。

 ワクワクだ。


「いいか? まだトラップなんかが残っている可能性がある。いつも以上に慎重に進め」


 ダンさんも背負っていた大剣を抜くほど、警戒していたので、私達も警戒した。

 ダンジョンには、トラップもあるらしい。歩いていた地面が崩れ落ちたり、上から岩が落ちたりする類のもの。

 厄介なのは、宝の部屋だと思いきや、手強い魔物が複数現れた上に閉じ込められるというトラップ。

 最初に私達が遭遇したのは、ゴブリンの群れだ。

 その数の多さに押されてしまいそうになる。広大範囲の攻撃魔法で焼き尽くしたかったが、範囲の中に他の冒険者がいたため、一網打尽はまずいと判断。ならば、と二重魔法で左右から挟み撃ちして、火炎で大半を焼く。


「お前っ……二重魔法なんて使えるのか!?」

「だから、これくらいで驚いていたら疲れますよ? ダンさん」


 ダンさんが驚愕しつつも、残ったゴブリンを両断した。

 ディヴェが自慢げにそう言うから、ちょっと嬉しい。

 ゴブリンの群れは、討伐成功。コロコロと落ちた魔石を拾いつつ、次へと進んだ。

 先に来ていた冒険者が倒してしまったのか、あまり魔物と遭遇しないまま、3階層まで下りた。


「あれ? 行き止まり?」

「いや、あれ見ろ」


 置くまで進むと、壁が見えてきたので、行き止まりかと思ったが違う。

 ダンさんが顎をくいっと上げて差すのは、丸い水晶が飾られるようにある祭壇。


「あれが……ダンジョンの転移装置?」

「正解だ」


 ダンジョンの転移装置。下の階に移動するためのもの。

 外にも転移装置はある。ダンジョンの転移装置を元に開発されたもので、街から街への移動を楽にしてくれるのだ。授業で習った。


「行くぞ」


 ダンさんが急かすので、私達は祭壇に乗って円を作るように立つ。

 水晶に手を当てて、微量の魔力を注げば発動。

 青白い光が放たれる――――はずだった。

 なのに、放たれたのは、赤い光りだ。


「まずい!! トラップだ!! 構えろ!!」


 光りの中で、ダンさんが声を張り上げて忠告した。

 私達はすぐに武器を構えて、周囲を警戒する。

 薄暗い広間に私達はいて、互いに背中を預けるように立った。


「なんでトラップなんですか!?」

「特定の使用回数でトラップが発動する転移装置があるんだよ! オレ達は”アタリ”を引いたわけだ!」


 確かに”アタリ”だ。


「気をつけろよ! こういう場合は――……」


 ガシャン。ガシャン。

 鎧の甲冑がぶつかりあう音が聞こえてくる。

 周りからだ。それにあまりにも大きすぎる気がした。


「強敵が待機しているもんだ!」


 暗がりから姿を見せたのは、三メートルはある巨大な鎧。

 それも六体が、私達を囲っている。

 今までで、一番巨大な敵だ。


「おっ! いいじゃねーか! ちょうど人数分。一人一体ずつ片付けよーぜ?」


 見えないけれど、絶対ヴィクトは舌なめずりしたに違いない。好戦的に目をぎらつかせながら。


「皆、いける!?」


 ヴィクトの提案に乗れるか。私はリーダーとして確認した。


「これくらい、いけるって!」


 ミミカが即答。


「腕試しってところか? いこうぜ!」


 ストも楽し気に賛成。


「問題ないねー」


 ディヴェも、賛成した。


「ハン! 大した後輩どもだな!」


 ダンさんも、異論はないらしい。


「じゃあ背中を守りつつ、一人一体ずつ応戦といこうか!」


 私もきっと好戦的な笑みを浮かべたに違いない。

 今までで一番巨大な強敵だ。本気で戦える。


「「「おう!!」」」「「うん!!」」


 そして、戦いの火ぶたは切って落とされた。


「”――水重――リークアイドロエ――”!」


 大量の水で巨体を包み込む。そして手をギュッと握り締めた。

 水に包まれた鎧は、重圧に耐えられないかのようにへこみ始める。

 それでももがき、剣を持つ腕をゆっくりと上げるから。


「”――雷鳴爆裂――フルッタエスプロジオ――”!!」


 雷鳴を轟かせて、ズドンッと雷が突き抜ける。

 感電。そして水が散っていき、ぱしゃんっと床に落ちた。

 あとから、鎧はガシャンッと崩れ落ちる。

 ほぼ同時に、ヴィクトが相手していた鎧も倒れた。

 こちらを見て「ちっ」と悔しそうに舌打ち。私より早く倒したかったらしい。

 後ろを振り返って、他の戦いの状況を確認した。

 次に倒したのは、ダンさん。鎧が真っ二つだ。強い。

 ストは大盾で防ぎ、跳ね返したあと、体当たりで崩した。そして腰裏の短剣で胸を突き刺しては、雷を発生させてトドメを刺さす。

 ディヴェは、デバフをかけて魔法の鎖を巻きつけて動きを止めた。動きを封じた鎧に、複数の氷柱の刃を突き刺して仕留める。

 ミミカはいくつもの弓矢で射貫いたところから、火炎を燃え上がらせて火だるまにした。


「もういないな……?」


 ダンさんが、注意深く周囲を見回す。

 私も周りを見ていたら、火だるまの光りを反射する何かを見付けた。


「あっちに何かあるよ、ここから抜け出せる転移装置かも。行ってみよう」


 私は皆を引き連れて、その方へと足を進める。

 けれど、そこにあったのは――――真っ赤な剣だった。

 祀るように台に置かれた剣を、ついつい手に取って見る。


「これって……」

「よかったじゃねーか。そいつは恐らく魔剣だ。ダンジョンが生み出す宝、通称【宝具(ほうぐ)】」


 ほげーっと心の中で感動した。

 初のお宝ゲットである。私はにっこりと顔を綻ばせた。


「はい、ヴィクト」


 すぐにヴィクトに差し出した。


「は?」

「え?」


 意味わからないと言わんばかりに、は? とか言われて私もきょとんとしてしまう。


「なんでオレに渡そうとするんだよ」

「いやだって、剣士が持つべきでしょう?」

「お前だって、剣使えるだろうが。補助魔法を駆使したお前に、勝ったことねーぞ。オレは」


 剣術の対戦では、力負けしてヴィクトに勝ったことはないけれど、確かに補助魔法さえ使えればヴィクトに勝てていた。

 騎士の家系として、そこそこ強いと自覚はしている。天才的な魔法も駆使すれば、なんとかヴィクトに勝てた。

「剣も振れるのかよ、末恐ろしいな」とダンさんがドン引きしているのが、横目で見えたけれども。


「パーティーで今必要なのは、ヴィクトだよ。受け取って」

「……」


 じっと魔剣を見下ろしたあと、手を伸ばして掴んでくれた。


「わかった。……大事に使う」


 ぶっきらぼうだったけれど、素直に受け取ってくれた上に、大事に使うとまで言ってくれる。


「っ! デレ!? デレ期なの!?」

「っ、うっせぇ~っ!!」


 貴重なヴィクトのデレを見た。感動。

 ツン、デレ、ときて、ギレか。


「絶対に真っ赤になってるでしょうー。プークスクス!」

「てめぇでこの魔剣の切れ味を試してやろうか!?」


 ここぞとばかりにからかうミミカに、きっとヴィクトは青筋を立てているに違いない。


「オレは何を見せられているんだか……。ほら、さっきの魔物から魔石を回収して、転移装置を探すぞ。そんで帰る」


 ダンさんの指示にしたがって、魔石を拾い、無事転移装置で3階層に戻れた私達は帰宅。

 ヴィクトが手に入れた魔剣は、魔力を注ぐと炎を纏い、そして炎の斬撃を放てるという代物だった。

 それだけではなく、魔力量を増やして叩きつければ、火炎の爆発も引き起こす。強力な魔剣だ。

 その魔剣のおかげで、ダンさんの引率がなくなっても、【深淵の巨大ダンジョン】のさらに下へと向かうことが出来た。

 魔剣を振るヴィクトが道を切り開いてくれたからだ。

 しかし、23階層で、魔剣は砕けてしまった。

 私達が初めて手に入れた宝だけに、少々ショックを受けたのだけれど、今までの魔物討伐の報酬で立派な剣は買えるだろう。


「大事に使うって言ったのに……すまねぇ、エリュー」

「ヴィクト……。……ツンしゅん?」


 戦いのあとに謝ってきたヴィクトが一番ショックを受けたみたいで、超がつくほど珍しくしおらしく謝ってきた。

 ぶっきらぼうながらも謝罪する姿が、ツンとしつつも、しゅんとしている。

 私はついつい、言ってしまったのだった。


「うるせぇ~っ!!」


 ツン、しゅん、ときて、ギレ。


 そのあと、私は魔剣の欠片を拾っておいた。

 私達が初めて手に入れた宝だから、記念にとっておきたくて。

 切れないように削ってもらって、ネックレスにでもしようかな。


 ヴィクトも同じく拾っていたことを、私は知らなかった。



 

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