第9話お母さんが許してくれない


「ああ、ただいま。こんな時間だが、少し父さんと話さないか? 眠たくは……なさそうだな」


「え………うん。いいよ? 何?」


お父さんから話しかけてくるなんて珍しい。


でも、特に断る理由もないし、眠気も全然ない。


それどころか、お母さん達が家に来てから、さらに鼓動が早まっているような気さえする。


問題ない。


お父さんにソファに誘導され、私達は肩を並べて座り、間を置かず、お父さんは前かがみで手を組んだ状態で、後ろで急に静かになったお母さんに、


「……恵美。私の代わりに見に行ってくれ」


「分かってるわ。……霊ちゃん。ちゃんと辰巳さんの言う事聞いときや」


さっきまでのおちゃらけた雰囲気はなく、やけに真面目な口ぶりでお母さんは客人の部屋に廊下に出て行った。


☆★☆


お父さんと二人っきりになるのは何時ぶりだっただろう。


いつも、私とお父さんの間にはお母さんが居て、会話をするにしてもお母さんを介してだったから、こういう時どうしたらいいのか、全く分からない。


気まずい。


お父さんも話があるはずなのに、全く話を切り出す様子もなく、それどころか私の方さえ見てなくて、ずっと手をいじってるだけ。


顔に表情が全く出てこないから、何を考えているか読み取れない。


そんな事を思っていたら。


やっと、お父さんがボソッと口を開いて


「………………耳、真っ赤だぞ」


「へ?」


言われて、慌てて耳を触ると熱い。


「緊張……するか? 父さん。お母さんに任せっきりで、霊の相手あんまりしなかったならな」


「そそそ! そっんな事ないけど!」


「ハハハ。とてもそうは見えないけどなぁ…」


私の方に身体を向けて、乾いた笑いをするお父さんだけど、目は笑っていない。


目下にはくっきりとクマがあった。角刈りの髪も白髪がチラホラ見え隠れしていた。


「お父さん、仕事大変なの?」


意識しないで、勝手に口から出た問いかけに、お父さんは私の視線の先が何であるかを瞬時に理解したようで、首を縦に振り、


「……最近はな」


「休んだらいいのに」


「休みたいんだけどなぁ……お母さんが許してくれそうにないんだよぉ……。霊から言ってくれないか?」


「プッ」


「なんだ? 父さんなんか変なこと言ったか?」


「だって、お父さんがそんな情けなさそうに言うって思わなくて……」


「それにしたって酷くないか。父さん、切実に語ったつもりなのになぁ……」


少し困ったように、そしてちょっとだけ嬉しそうに頬を緩ませたお父さんに釣られるように、私もニッと笑った。

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