5.怒り。







「あっははははははははははははははははは!! 愉快だよ、愉快であることこの上ない!! 他人を守って背中に傷を負うなど、戦士として恥でしかない!!」

「………………」



 ウィリスが腹を抱えて笑う。

 アインは無言のまま。しかしそんな少年のことなど、気にも留めないように青年は語り続けた。肩で息をしながら、目を見開いて。



「あまりにもバカげている! これが仲間だと? 仲間なんて、安っぽい価値観のせいで死ぬ。それだから貧困層の人間は愚かだと言われるのだ! 冒険者のように卑しい職に就くしかない、惨めな生き物たち!!」



 彼はいま、明らかに自分に酔っていた。

 復讐のすべてを果たせる瞬間に、そして弱者を蹴散らす快楽に溺れている。



「あぁ、そうだ――アインくんも、今では冒険者のようだね。そこでの仲間ごっこは、楽しかったかい? キミは今、それを失おうとしているけどね!!」



 余りにも醜い表情を浮かべて。

 理性と良心を失った獣は、唾を飛ばして吠えていた。

 だが、アインは黙々とガンヅの治療にあたる。治癒魔法をかけて、その深い傷を治していった。ウィリスの言葉など、まるで興味などないように。



「おい、聞いているのか……?」



 だから、青年にとっては不愉快だった。

 先ほどまでの大笑いはどこへやら、スッとトーンを下げてアインを見る。そして、忌々し気に唇を噛みながら、こう叫ぶのだった。



「聞いているのか、アイン・クレイオス!!」――と。



 夜の澄み渡った空気の中に、その声が響き渡る。

 その時になって、ようやくアインが立ち上がった。ガンヅの治療を終えて、静かに、ウィリスへと背を向けて。

 彼は感情を込めずに、ただ確認するようにこう訊いた。



「ウィリスさん、一つだけ確認します」



 ベネットの荷物から、短刀を拾い上げて。



「二人に――ボクの友達に、危害を加えたのは貴方で間違いないですね?」



 振り返ったアイン・クレイオス。

 その瞳には、ただ静かな怒りの感情が宿っていた。

 それを見て興奮してみせたのは、他でもないウィリス。



「あぁ、そうさ!! 私が、この私がゴミを処理したんだよ!!」

「そう、ですか……」



 だが、少年は興味もないといった風に振舞う。

 短刀をくるりと回して、青年を見据えた。

 その、直後だった――。




「――――――っ!?」




 アインの纏う雰囲気が、一変したのは。



「ボクは、貴方が許せません。ウィリスさん」



 少年からは幼い見た目に似つかわしくない、重い威圧感が漂っていた。

 周囲の空気さえ変える。アインを中心に、魔力が渦を巻く。そしてそれは、間違いなく意思をもって彼の中に溶け込んでいった。


 あまりの異常性。

 名状しがたいその雰囲気に、アインを除く全員が息を呑んだ。



 その中で、ふっと息をつく少年。

 彼は一度目を瞑ってから、ゆっくりと開いてこう告げるのだった。




「許せない。だから――」




 短刀を構えて。




「悪いですけど、手加減なんてできませんよ」――と。




 



 

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