4.復讐の鬼――ウィリス。









「くっ……!」

「ほう、今のを防ぐか。防戦一方だが、なかなかやるな」

「ガンヅさん!!」



 ウィリスの剣を盾で受け止め、ガンヅは眉間に皺を寄せる。

 あまりにも重い一撃。腕に響く感覚は、かつて経験したことのない威力だった。それこそ先日のヒュドラが放った一撃よりも、何倍も……。


「この――!」

「ほう、こちらは身軽なようだな」


 ベネットは隙を突いて、ウィリスに短刀で襲いかかった。

 しかし彼女の素早さをもってしても、青年を捉えることはできない。それどころか背後を取られ、反撃を受けそうになった。

 だが、そこに割って入るのはガンヅ。



「――っ!! 大丈夫か、ベネット!!」



 表情を歪めながら、どうにか持ちこたえた。

 しかし、限界が近い。このままでは、ジリ貧だった。



「お前は、何者だ……!」

「キミたちが知る必要はない。ただ――」



 そして、瞬間の隙が生まれる。



「しまっ――!」

「きゃ!」



 会話の最中。

 ウィリスはベネットに狙いを定めて、一気に距離を詰めて剣を振り上げた。青の瞳には光が宿っていない。

 まったくの無表情で、彼はこう口にした。



「アインを呼び出す、贄となれ」――と。



 直後に剣が振り下ろされる。

 少女の家族が見守る、その目の前で――。



「いやああああああああああああああああああああ!!」




 悲鳴と共に、血飛沫が舞った。







 ――なにか、胸騒ぎがする。


「どうしたんだろう……?」



 宿の一室で、ベッドに仰向けに転がりながら。

 ボクはそう呟いた。



「嫌な、予感がする」



 根拠はない。

 ただ、本当になんとなく、急がなければいけない気がしていた。

 ――その時だ。



「え、なんだ……?」



 誰かが部屋の扉をノックした。

 そして、隙間から紙切れが差し込まれる。

 急いでそれを拾いに向かうも、気配はすでにない。ボクは眉をひそめつつも、ひとまずその紙に視線を落とした。

 すると、そこに書いてあったのは――。



「なっ…………!?」









 ボクは走った。

 紙切れに指定されていた場所は、王都の外――ダンジョンの前。

 そこに一人で来いと、そう書いてあったのだ。そして、そこでボクの大切な仲間を――。



「くそ、何だっていうんだ!?」



 思わず悪態をつきながら、ダンジョンの前までやってくる。

 周囲を見回し、薄暗闇の中から二人を探す。

 すると――。



「ベネット、ガンヅさん!?」

「アインさん!」



 見つかった。

 こちらの声に気付いた少女は、悲鳴に近い声でボクを呼ぶ。

 それに答えるより早く、二人のもとへ駆け寄った。そして気づくのだ。



「これ、は……」

「はは、悪いアイン。俺にはこれが、限界だった……」



 背中に深い傷を負い、おびただしい血に染まったガンヅさんの姿。

 ボクのことが見えているのか、それさえ分からない。焦点の合っていない瞳に、乾いた声。すぐに治療を始めなければ、命取りになるのは明らかだった。


 だから、ボクはすぐに治癒魔法を――。



「やあ、久しぶりだね。――アイン・クレイオス」

「え……?」



 そんなボクに、声をかける人物が一人。

 振り返るとそこにいたのは、学園時代の先輩の姿だった。


「貴方は、たしか――ウィリスさん……?」

「覚えていてくれて嬉しいよ、アインくん」



 月を背負ったウィリスさんは、静かに微笑む。

 そして、ゆっくりと剣を引き抜いてこう告げるのだった。





「今宵は、月が鮮やかだ。キミの――」




 浮かぶ満月とは正反対。

 三日月のように、口角を歪めて……。




「キミの、命を刈り取るには絶好の日だね?」――と。




 





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