決闘
「決闘のルールについては先刻に伝えた通りである。戦闘不能であると私が判断した場合、もしくはどちらかが降参を宣言した場合とする」
3番隊騎士隊長マークス=エコーさんが審判を務め、アルとエルロンドに告げていた。
顕現させている神獣は四ツ星の
観客席でも多くの人達が神獣を顕現させている。
エルロンドの神獣は知られているため、主にアルの神獣の実力を確認するためだと思う。
「分かっていると思うが、これは騎士の流儀に
「もちろんですとも。俺は騎士ですから。しかし、冒険者である奴は知りませんがね」
なにあの嫌味ったらしい言い方。
騎士団に入ったことでエルロンドの態度は以前よりも大きくなっていて時々目に余るのよね。
だけど実力は本物だ。
本当にアルはナナちゃんの状態でエルロンドに勝てるのかな……?
「無駄話はやめにしようぜ。戦えば、全てが分かる」
「減らず口を……!」
「それでは、これより決闘を始める!お互いに準備を!」
二人が手元にカードを召喚させる。
「始め!!」
開始の号令と同時に二人が叫んだ。
「「顕現!!」」
お互いのカードから光が飛び出し、ナナちゃんと
「あれが長男坊の神獣か……」
ヴァリアスさんもカードを透かしてエルロンドの神獣のステータスを確認していた。
「リオナ嬢も見てみるといい」
以前に見たことがあったが、ヴァリアスさんに借りてステータスを確認した。
──────────────────
【
○攻撃力:2550
○防御力:1800
○素早さ:2050
○特殊能力:1200
──────────────────
レベルが25とはいえ、素早さに関しては私の神獣、レオよりも上だ。
よく遠征にも出ていると話していたからたぶん戦いにも慣れているはず。
対してナナちゃんは…………。
──────────────────
【ナナドラ】 Lv8
○攻撃力:80
○防御力:80
○素早さ:80
○特殊能力:80
──────────────────
うう…………分かってはいたけど、普通の大人の人でも倒せそうなステータス。
とてもじゃないけど戦いになるとは思えない。
ナナちゃんのステータスを見た騎士の人達も、そのあまりの異様さにざわめきたっていた。
「なんだあのステータス…………」
「見ろよ、レアリティが0ツ星じゃないか?」
「こんなの勝負にならないだろ……」
「ギルバートの勝ちだな……」
〝戦う前から既に勝敗は決している〟
誰しもがそう思っている空気だ。
「クァ……」
そんな中、ナナちゃんは我関せずと言ったように眠そうにあくびをしていた。
なんてマイペース。
「やれ!ワーウルフ!!」
エルロンドの掛け声と共に二足歩行の
速い。
すぐさまナナちゃんの目の前へと到達し、拳を突き出した。
「
ナナちゃんがカードへと収監され、狼の拳は虚空をからぶる。
再び周りがざわめいた。
「あいつ勝負を諦めやがった!」
「ふざけるな臆病者!」
「戦えぇ!」
みんな好き勝手なことを……!
「どういうつもりだぁトリガー……!」
「どういうつもりもなにも、神獣同士で戦わせる、なんて決まりはないはずだ」
アルが剣を引き抜いた。
「俺が相手してやる」
エルロンドを挑発するように指をクイッと曲げた。
「…………勢い余って死んでも後悔するなよ。やれ!!」
狼がすぐさま距離を詰め、アルのボディ目掛けて殴りかかった。
「危ない!」
「大丈夫だ」
思わず目を覆ってしまったけど、聴こえてきたのは弾いたような金属音と大きな驚嘆の声だった。
覆った手をゆっくりどかすと、狼の攻撃をステップを刻みながら的確に防いでいるアルの姿があった。
「す……すごい……!」
狼の攻撃は決して遅く無い。
それどころかその威力は2000を超えており、まともに受ければ剣が折れてしまってもおかしくはない。
なのにアルは捌くことができている。
それはつまり、狼の攻撃を正面から受けているのではなく、完璧なタイミングで受け逸らしているんだ。
「アルバスの剣術は、魔獣の攻撃を剣で捌くことができる領域にまで達している。四ツ星の、あの程度のステータスの神獣であれば、例え倒すことができなくとも攻撃を防ぐことはできるだろう」
「そんなことが…………!」
神獣の戦いに重きを置く騎士団にとって、剣術は二の次になる。
それでも私はアルに追いつくために私も剣術を学んできたし、騎士団の中でも剣術はそれなりに上の方に位置していると思う。
だけどアルは…………そんな私よりも遥か上にいる。
「追いついたと思ったんだけどなぁ……」
「アルバスが身に付けたのはあくまで自衛の手段だ。自分さえ殺されなければ、敵は神獣が倒してくれるからな。問題は、ここからどうやって長男坊を倒すかだ」
狼の攻撃をかわしたと同時にアルがカードをエルロンドに向かって投げつけた。
ナナちゃんが収監されているカードをだ。
「馬鹿が!神獣が使えないからって飛び道具代わりか!?」
エルロンドが首を横に倒してかわした。
「顕現!」
「なっ!?」
エルロンドの背後でナナちゃんが顕現された。
そしてエルロンドの顔面に向かって小さな炎を吐いた。
「ああっ!!つっあああああ!!」
「おおっ!」と会場がどよめく。
決して致命傷になるような威力じゃない。
それでも先にダメージを負ったのはエルロンドの方だった。
「この野郎おおお!!」
エルロンドが剣を抜いてナナちゃんに振りかぶる。
「
再びアルの手元にカードが召喚され、その中にナナちゃんが収監された。
通常じゃあり得ないことだ。
神獣を顕現させると心の力を大きく消費してしまうため、一度神獣を収監させると短時間での連続顕現は難しい。
たとえ出来たとしても特殊能力の使用ができず、長時間顕現させておくことは出来ないはずだし、使用者も大きく疲弊するはずだと習った。
なのにアルは連続してナナちゃんを顕現させた。
あの炎がスキルなのかはちょっと分からないけど…………アルは変わらずピンピンしている。
「どういう理屈なんだろう……」
「神獣の連続顕現は難しいことは知っているだろう?」
「はい。学園で習いました」
「顕現するのに、またスキルを発動するのに神獣の持ち主の心の力が必要になり、その心の力の総量は個人差がある」
「はい、分かります」
だから心の力が足りていないとき、神獣の特殊能力のステータス値が低くなるんだ。
「顕現に必要な心の力…………それは恐らくレアリティが高ければ高いほど必要になる。これはまだ推測とされているが、心の力の総量が多い人物ほどレアリティの高い神獣と契約しているのではないかと噂されている」
「確かに…………少なかったりするとせっかくの神獣を顕現できない、って話になりますもんね」
「逆にレアリティが低ければ消費する心の力が少ない。じゃあ0ツ星の神獣を顕現させるのに必要な心の力はどれくらいなんだろうな」
そうか…………!
ナナちゃんは0ツ星の神獣!
だから一度の顕現で消費する心の力が少ないからこそ、あんな風に連続で顕現してもアルは疲れていないんだ!
「考えたなアルバス。そんな戦い方はお前にしかできない」
「でも、そうすると一ツ星の神獣持ちの人達も連続顕現出来そうですよね?あまり話を聞かないのはなんでだろう?」
「さっきも話した通りだリオナ嬢。一ツ星の神獣に選ばれるということは、そもそも心の力が少ない可能性がある。つまり、一ツ星でも一回顕現してしまうと心の力が空になるからじゃないか?」
「……ああ!なるほど!」
「アルバスは十ツ星の神獣も顕現させることができるほどだ。恐らく、心の力の総量は世界の誰よりもあるんじゃないか?」
この戦い方はアルにしか出来ない。
本来であれば神獣の力で押し通せるけれど、機転と知恵を使ってエルロンドを圧倒している。
先日に任務で接触した魔人と戦った時、私は圧倒的な力の差になす術もなく敗北した。
あの時に、私も自分の力を把握していれば上手く立ち回れたかもしれない。
「クソがぁ……!ワーウルフ!いつまでかかってやがる!さっさと仕留めないか!
狼の拳が一瞬発光したかに見えると虚空を強く撃ち、その衝撃波がアル目掛けて襲い掛かった。
スキルの発動だ。
「ふっ!」
一瞬にも満たない速さの衝撃波だったが、それをアルは横に飛んでかわしてみせた。
「なんでその攻撃が避けれるんだ!」
「それよりも速い攻撃をもっと間近で見ているからだよ」
再びアルがカードをエルロンドに投げつける。
それと同時にエルロンドに向かって走り出した。
狼も合わせてアルを横から追撃しようとする。
三角形の形だ。
アルとエルロンドの距離が少し離れている。このままでは狼の方が先にアルに追いつく!
「同じ手が食らうかよ!」
エルロンドが剣でカード弾こうとするも、カードはエルロンドの目の前で消え、アルの手元へと戻っていた。
そしてそのまま狼の方へとカードを投げつける。
「顕現!!」
狼の真横でナナちゃんが顕現された。
その咄嗟の出来事に狼の足が止まり、ナナちゃん目掛けて攻撃を仕掛けた。
「
再びナナちゃんがカードへと収監される。
狼が足を止めたわずかな時間。
その時間はアルがエルロンドに勝負を仕掛けるのに充分な時間だった。
「決したな」
ヴァリアスさんが満足そうに呟いた。
エルロンドが剣を振りかぶる。
「ナメんなぁ!!」
エルロンドが剣を振り下ろすよりも速く、アルの攻撃がエルロンドのお腹を捉えていた。
剣の面の部分で殴ったのか、エルロンドが派手に吹っ飛んでいった。
そのまま地面にパタリと倒れ込み、立ち上がる気配はなかった。
「そこまで!!」
すぐさまマークス隊長がストップをかけた。
アルの完勝だ。
「やったー!」
「まずカードを投げることで長男坊の動きを制限させ、すぐさま今度は神獣の動きを止めることで対人の環境を作り出す。文句無しだな」
これが3年間、
凄すぎる!
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