正体

【アルバス=トリガー】


 なんとか間に合うことができた。

 まさか調査に来ていた騎士団が、リオナ達のことだとは思わなかった。


「お前は…………アトラス王国の魔獣掃除人ビーストスイーパー、アルバス=トリガーだな?」

「俺のことを知っているとは驚いたな」

「俺達の中では有名人もいいとこだ。要注意人物としてだがな」


 フードを被っていて顔は見えないが、俺がここに来た目的の人物であることは予想できた。

 五ツ星の神獣を持つリオナが苦戦するレベル。

 こいつは恐らく──────。


「さすがに魔獣掃除人ビーストスイーパーと今戦う予定は無い。大人しく引かせてもらおう」

「そりゃありがたいな」

「次会う時が楽しみだトリガー」

「───なんて、逃すと思うかよ」


 フードの男目掛けて後方上空から、神獣【天翔鷹ホークレンス】の足に掴まった師匠が剣を構えて猛スピードで突っ込んだ。

 男はギリギリのところで気付いたのか横に跳び、攻撃をかわした。


「ちぃっ!すまんアルバス、外した!」

「さすがにそんな上手くはいかないか」

「不意打ちとは…………やってくれる…………!!」


 師匠が神獣から離れ、俺の近くへ降り立った。

 できれば今の一撃で決めたいところではあった。

 決めきれないのであれば仕方ない、プランBに変更だ。


「アル…………どうしてここにいるの?」

「話せば長くなるんだけど……」



 ────────────


 ──────


 ───



 〜5日前〜


『アトラス王国領土内、アイトヴェン町近くにある森林地帯において、【災厄】が発生します』


 世界に8つある大国の一つ、天神てんじん教団の聖地フェイス皇国。

 そこの魔獣掃除人ビーストスイーパーであるアレクシア=ルーリアには、災厄が起こる場所を予知することができる未来視の力を持っていた。

【災厄】とはすなわち、魔獣の発生のことである。

 そして今回、予知された場所は奇しくもアトラス王国の領土内であった。


『師匠、人のいないはずの森林地帯で魔獣が生まれるっていうのはおかしくないですか?』


 師匠…………ヴァリアス=シューターは俺の質問に頷いた。


『場所もそうだが魔獣が出現する頻度もおかしい。前回予知が行われたのは3ヶ月前だぞ?現れるスパンが異常だ』

『彼女の予知がなかったら世界は終わってますね』

『今回の予知は少し警戒した方がいいかもしれないな』


 これまで、アレクシアの未来視のおかげで魔獣が成長する前に討伐することができているため各国の魔獣討伐人ビーストスイーパーに死者は出ていない。

 しかし、ここ2年の間に魔獣の出現回数は10回を超えている。

 数年に1回のペースだった頃からしたら異常な数値だった。


 そして俺達は5日かけてアトラス王国領土内へと戻ってきた。

 軽く情報収集を済ませたところで見慣れない生物がいるという話を聞き、すぐに森林地帯へと入り込む。

 すると森の奥から騎士団が走ってきた。


『何で副長は一人で離れたんだ!』

『主犯を見つけたと言っていて…………』

『単独で追うなどと…………判断能力に若さが出たか…………!』


 主犯……?

 騎士団がここに来ているということは、町から応援要請が掛かったということ。

 それは憲兵や傭兵では手に余る案件…………つまりは【災厄】に関係している案件。

 その主犯を単独で追いかけている人がいるのか。


 そういや噂ではリオナも副長に昇進したって話だったな…………。


『師匠』

『ああ。騎士団が出てきた方向を広範囲に索敵すればいいんだな…………顕現』


 師匠が自身の神獣を召喚した。

 師匠の神獣は二ツ星の鳥型で、とてもじゃないが戦闘で戦えるようなステータスはしていない。

 だけど空から索敵するには便利すぎるスキルを持っている。


天翔鷹ホークレンス反響エコー


 空高く飛んだ神獣がキィーッと大きく鳴いた。

 そしてすぐさま移動を開始する。


『どうやら人間の反応を見つけたみたいだ』

『万が一見つけた場合は俺が先に姿を表します。師匠は状況を見て動いてください』

『ああ』



 ───


 ──────


 ─────────


 という流れで俺達はここまでやってきた。

 だが今それを長々と説明するわけにもいかない。


「とある情報筋から情報を得て仕事をしにきた」

「仕事…………なるほど」


 仕事ということでだいたいの察しはついたはずだ。


「そっちは…………ヴァリアス=シューターか。最近は冒険者として有名みたいだな」

「私のことも知っているとはな。いよいよ逃すわけにはいかない」

「…………だいぶ予定が狂ってしまった。出来損ないフェアリアのデータと実験体の確保だけのつもりだったんだが…………そもそも魔獣掃除人ビーストスイーパーが俺のような普通の人間を捕まえようというのが間違っているんじゃないのか?」

「普通?」


 俺は頭を捻った。


「普通の人間だって?面白い冗談を言うな」

「…………なに?」


 よくもまぁ堂々と普通の人間だなんて言えたもんだ。

 そもそも魔獣掃除人の存在を知っている時点で普通ではない。

 それに、俺は既にこいつの正体に確信を持っていた。


 ゆっくりと黒ずくめの男を指差す。


「お前………………魔人だろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る