第15話 人でいられるボーダーライン

「戸田恵梨香を殺ろうと思います。」

『いよいよ、ここまで来たの!裏社会の隠語よ"殺る"だなんて。というかヤっちゃダメよ。』

「いいや、もう私は拳万の瓦解だ!」

『何よその言葉。約束破ったって事?我慢の限界でしょ。』

「やって良い事とダメな事のボーダーラインを教えてほしいよ。」

『そうね、破裂寸前の風船みたいな殺意を持ってるもの。人の道を踏み外し、罪を犯すのは一瞬。その罪を背負うのは一生よ。馬鹿だけど、奈緒には人でいて欲しいものね。』

「まず、松坂桃李君の寝込みを襲うことはセーフ?」

『アウトよ馬鹿。』

「じゃあ松坂桃李君の煮込みを襲うことは?」

『何故煮込まれてるのよ。』

「私が美味しく食べるため!」

『魔女か何かなの!?』

「うーん。難しいな。ボーダーラインって。」

『いや、考えなくても分かるでしょ。奈緒は母体に脳みそ忘れてきたのかしら。』

「アカデミー賞授賞式で俳優さんの妻の悪口を言う司会者はセーフ?」

『人の悪口?まあギリセーフじゃない?』

「じゃあ、妻を馬鹿にされ切れて、その司会者に平手打ちをするのはセーフ?」

『うーん。アウトじゃない?……。ってかウィル・スミスさんの事よね!?』

「なるほど、ちゃん美優はクリス・ロックの肩を持つと。」

『待て待てー!言い方良くない!何とんでもないものを例えに出してくれてんのよ!』

「じゃあ別のね。例えば電車内で優先席に私は座ってます。高齢者が乗ってきて私に席を譲って欲しそうな視線を送ってるけど、譲らたいことはセーフ?」

『セーフよ。良い?リーガルハイの堺雅人さんはこう言いました。同じお金払って電車に乗ってるのに何故席を譲らないといけないのだと。』

「じゃあ、席に座ってる高齢者がいて、席を譲ってくれなくてムカついたから背負い投げして席からどかした。これはセーフ?」

『アウトよ。普通、老人を背負い投げする発想が出来る?』

「これアウトなのかー。難しいな。」

『どこが難しいの?どこに難しい所があるのよ!』

「じゃあ例えば路地裏でカツアゲしてるヤンキーといじめられっ子がいました。そのカツアゲしてるヤンキーをボコボコにして、私が代わりにいじめられっ子をカツアゲしました。これはセーフ?」

『アウトよ。いじめられっ子からしたら、たまったものじゃないわね。魔王が滅んだと思ったら直ぐに第二の魔王が生まれたもの。』

「じゃあ、そのヤンキーがいじめられっ子からカツアゲしたら、そのカツアゲしたヤンキーを私がカツアゲするのはセーフ?」

『アウトよ。何よそのカツアゲの食物連鎖は。』

「この世界にセーフなこと少なすぎない?法律っていう鎖が巨大すぎる!」

『奈緒がサイコパス過ぎるのよ。』

「じゃあ、酔っぱらいに絡まれて口論になった挙句、殴られたから2回殴り返した。これはセーフ?」

『アウトよ。何やられたらやり返してるのよ。しかも倍返しじゃない。殴っちゃダメなのよ。』

「じゃあ、酔っぱらいが絡んできたから2回殴った。これはセーフ?」

『アウトよ!ただの暴行じゃない。』

「酔っぱらいは人じゃなくなるから、つまり人の法律が発生しないから何しても良いかと。」

『発想が狂ってんのよ。』

「じゃあ、ムカつく奴が居たから指先一つでダウンさせた。これはセーフ?」

『アウトよ!さっきから好戦的すぎない?』

「愛しの人を兄によって仮死状態にさせられたから兄を殺した。これはセーフ?」

『だからどうして兄弟喧嘩で死人が出ちゃうの!………。いや、これ北斗の拳んんんんん!!!!????』

「愛しの人の短い命を延命させ、自分を殺そうとした弟を認め幸せに生きるよう背中を押して死んでいく兄。これはセーフ?」

『もう、セーフとかアウトとかどうでも良いわよ!ラオウの名シーンじゃない!アウトとかセーフとか分からないけど、ラオウは格好良い漢よ!』

「そっか、私もユリアみたいになれば松坂桃李君は振り向いてくれるのか。」

『いや、桃李君には戸田恵梨香という素敵なユリアがいるわよ。』

「よし、やっぱり戸田恵梨香、シメよう。」

『今回の話、丸々意味無かったわ!』

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