第37話 二人の再開 ~モノローグ

 中秋の名月に相応しく、夜空には金色の丸い月が浮かんでいた。

 今夜は宮廷の貴族たちが集まり、華やかな宴が盛大に開かれる四季の行事である。

 貴族たちは競って和歌を詠み、雅楽に興じ、酔いを楽しんだ。

 

 宴も終盤を迎えた頃。何処からともなく笛の音が響き渡った。


 篝火かがりびで照らされた庭園の中央に設けられた舞台。

 その花道を一人の白拍子が軽やかに歩み出た。


「シャリン」「シャリン」


 鈴の音とともに白拍子の長い指は天を仰ぐ。

 指先の流れる様な所作が、灯りに照らされた白拍子の体を夜のとばりに浮かび上がらせた。

 

 白拍子の肢体が月夜に溶け込んでいく。

 

 そのりんとした出で立ちと長い黒髪。

 美しく尖った目と妖艶ようえんな唇は、見る者を一瞬、驚かせた。

 水干すいかん姿に緋の袴。太刀を携えた男装姿の美しい娘。

 今、帝都で評判と噂になっている白拍子の娘である。

 

 力強く踏みしめる足さばき。時に妖艶に揺れる肢体は見る者たちの視線を集める。

 鈴の音にのってつながれる言葉は、言霊の様に時空ときを越え、皆を太古たいこの昔に誘った。


「シャリン」「シャリン」「シャリン」「シャリン・・・・・・」


 時空ときの余韻に静寂が皆を包み込んだ。

 

「・・・・・・」


 庭園は静まり返り、篝火の弾けた音だけが、夜のとばりに吸い込まれた。

 舞い終わった白拍子の娘は、主催者や観客に向かい丁寧に御辞儀をした。


「・・・・・・」

「カタンッ」

 盃が手から落ちた。


 於結おゆいは、隣に座る古那こなが手に持つ盃を取り落とした事に気付き、古那の横顔をチラリと見た。


静香しずか・・・」

静香しずかなのか?」


 その場に立ち上がった古那。


 自分の名を呼ばれ、白拍子の娘も驚いた様子で声の主を探す。


「・・・・・・」

「こっ古那さまっ!」


「・・・・・・」

 

 驚きの声とともに、今までりんとした白拍子の顔がゆるみ、その大きな黒い瞳から大粒の涙があふれ出した。


「古那さまっ!」「古那さまっ!」


 たまらず駆け寄る白拍子姿の静香。

 

 夢中で古那の大きな胸の中に飛び込み、顔をうずめた。


「古那さまっ!」

「会いたかった」「会いたかったよ」


 無言で静香を抱いたまま、静香の頭を優しくでた。


「・・・・・・」

「静香・・・大きくなったなっ」

「・・・・・・」

「グスンッ」

「古那さまのバカッ!」

 

 とうれしさの余り、また大泣きの声をあげた。

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