09.突撃、ゴブリンが昼ごはん_03

「ココデス、俺達ノ住ンデイル洞穴ハココ」


 ゴブゴブくんの指差す木々の中、少し盛り上がった地面の側面に洞穴はあった。入口は葉っぱで巧妙に隠されているが、アタシの悪魔の目はそれを見逃さない。

 洞穴の周りに何者かの気配感じたので、近くの木に隠れて外周りの気配を詳細に探ってみる。


(1、2、3……10……20はいるな。ん、なんかデカいのがいる?ホブゴブリンってやつかな?警備は厳重って感じ?それとも弓ゴブリンの連絡でも受けて逃げようとしてるのかな?)


 洞穴の周りには20体近いゴブリンの気配がした。どれもそれぞれ斧、こん棒、弓などの武器を持っている。さらに普通サイズのゴブリンに混じってアタシと大して体格の変わらない大型のゴブリン、ホブゴブリンまでいるようだ。彼らは体格に合わせた大きなこん棒を持っている。昨日のアタシなら大苦戦していた事だろう。だが今となっては多少大きかろうがやることは同じ。


(誰も逃さず全員喰う!つもりだけど、1体づつ喰ってくのは面倒くさいなあ。あっ、そうだ)


 アタシにはゴブリンを残さず完食するのに手っ取り早い方法があるのを思い出した。


(もう大分キャンプから離れたし、いいでしょ、媚香使っても)


 既にキャンプからは20km以上は離れている。アタシは媚香を撒いてもボーフォートの兵達に影響は無いだろうと判断した。

 アタシは自分の媚香の匂い袋の紐を1/3程開けるイメージをする。


(ほいっ!1/3開け)


 するとアタシの身体からぶわっとピンク色の霧が広がり、一気に辺り一面を覆い尽くしていく。洞穴、洞穴の周り、木々の隙間をくまなく縫って、アタシの媚香はアタシを中心に円状に広がっていく。


「アッ?アッ、アッ」


 まずはアタシの真隣りに居たゴブゴブくんに被害が及んだ。アタシに魔眼で身体を支配されていながら、媚香で身体を狂わせられていくゴブゴブくん。アタシは彼に勝手に動いてはダメと言う命令をしているので、彼自身は直立不動。だがしかし、媚香の影響で彼の顔は上気し、異常なほどの汗が流れて、息も荒くなっている。


「今どんな気分?」

「ク、クルシ、イデス」


 彼は相変わらず抑揚のない声で返答して来るが、異常な汗と荒い息遣いに加えて、痙攣までし始めた。そして彼の状態は、アタシの自分ルール、苦しませるのはダメ、に引っ掛かってしまっている。


「あっ、ごめん、どうして欲しい?」


 思わず素になって謝るアタシ。


「ラクニシテホシイ」


 アタシはゴブゴブくんの要望に応え、彼を解放することに決めた。少し屈んでそっとゴブゴブくんの首に右手を回し、左手で彼の身体を持ち上げ、


「今までありがとう、ゴブゴブくん。じゃあ、いただきます」


 -ギュウゥゥン!-


「ア゛ッッッッッ♥」


 -ベコッ!-


 両手で彼を喰った。一瞬で骨と皮になったゴブゴブくん。お疲れ様でしたゴブゴブくん。

 アタシはゴブゴブくんの抜け殻を投げ捨て、周りを確認してみると、アタシの周りにゴブリン達が集まり始めていた。どのゴブリンも顔を上気させ、よろよろと千鳥足で歩いており、徘徊するゾンビみたいになっている。


「イイ匂イ……」

「甘イ匂イダァ……」

「女ノ匂イ……?」


 まずは普通サイズのゴブリン達が寄ってきた。アタシは彼らの前に膝立し、両手を広げて彼らを向かい入れる。


「はーい、みんなおいでー、食べてあげるー」


 アタシは学校の先生が生徒に集合を掛けるようなノリでゴブリン達に声を掛ける。そして両手を広げたアタシの身体に触れだすゴブリン達。


 -ギュウゥゥン!-


「ハハッ、青イ女ダ……ア゛ッ♥」


 -ベコッ!-


「ゲヒャヒャ、スゲエ良イ……匂イ゛ッ♥」


 -ベコッ!-


「ヒヒッ、女……オン゛ッ♥」


 -ベコッ!-


 アタシの吸精が次々と発動する。彼らがアタシの素肌、手や腕、肩などに触れた途端、彼らはアタシに命を吸われ、ペットボトルを押しつぶしたかのような大きな音と共に骨と皮になっていく。


 -ギュウゥゥゥゥゥゥン!-

 -ベコッ!ベコッ!ベコッ!ベコッ!ベコッ!ベコッ!ベコッ!-


 アタシはあっという間に普通サイズのゴブリン達を食い尽くした。


(あれっ?手で掴まなくても喰えるんだ?)


 もともとは寄ってきたゴブリン達の首を1匹づつ手で掴んで喰うつもりだったのだが、手以外の部分でも触れただけで喰えてしまって自分でもびっくりしている。喰う速さは手で掴んだ方が圧倒的に早いが、素肌であれば触れられればどこからでも問題なく喰えた。

 そして次に五体ほど残っているホブゴブリンが、のしのしとアタシの身体目掛け寄って来ているのが見える。


「グヘヘ、頑丈ソウデ良イ女ダァ……」

「ヒヒヒッ……楽シメソウダナァ……」

「美味ソウナデケエ乳ダ、ゲヒヒッ……」


 彼らはアタシの身体を舐めるように見た後、アタシに食い尽くされ周りに散乱している普通サイズのゴブリン達の亡骸などは気にも止めず、アタシの身体に次々と手を伸ばす。

 アタシも立ち上がり彼らの手を受け入れる。手で掴まなくてもどこからでも喰えるのであれば、アタシはただ突っ立って彼らに自由に触らせればいい。アタシはただ口をあーんと開けて待っていればいいのだ。そうすれば喰われる方から勝手にアタシの口の中に飛び込んで来る。こんな楽な食事もそうないだろう。

 アタシを囲む5体のホブゴブリン達。彼らの手がアタシが着ている黒装束の隙間からアタシの素肌目掛けて入り込んでくる。合計10本のゴツい手に無遠慮に揉まれるアタシの身体。


「んっ……ふふふ、いいよ、楽しませてよ」


 アタシも気分を出して彼らに身体を預ける。昨日、ボーフォートの兵達に身体を触られた時は嫌悪感と恐怖で泣き出してしまったアタシだが、今ホブゴブリンに身体中弄られてもそれは無く、寧ろ心は落ち着き愉しんでいる。


「あっ、あっはっ♥いい、もっと触ってよ♥」


 ぐにゅりと揉まれ自由に形を変えるアタシの乳房。むぎゅっと握られ弾むアタシの尻肉。ベロンと舐められ涎だらけになる顔や背中。身体に触れられる刺激にアタシの興奮も高まる。


(昨日みたいに怖くないどころか、寧ろ愉しい。悪魔化の副作用かな?それとも相手が人間じゃないから?それともみんなご飯に見えるからかな?)


 アタシは五体のホブゴブリン達に自由に身体を触らせる。顔でも胸でも乳房でも股間でも、どこだって触らせる。彼らは無抵抗どころか誘引して身体を触らせようとするアタシに激しく興奮し、更に強くアタシの身体に触れていく。

 そうしてアタシの身体を弄っているホブゴブリン達だが、吸精は既に行われている。彼らの身体はもうとっくにアタシに命を吸われてミイラのように萎れている。だが彼らはアタシの身体を触るのを止めようとしない。死が目前に迫っていても、アタシの媚香が、吸精が、悪魔の力がそれを認識させない。故に、止められない。

 そして始まる彼らの最期。


 -ギュウゥゥン!-


「タマンネエ……タマンネエゾ……ギビッ♥」


 -ボコンッ!-


「コイツハ俺ノ……オレノモンダ……ガヒュッ♥」


 -ボコンッ!-


「ヘヘヘ……柔ラケェ……乳……ゴベッ♥」


 -ボコンッ!-


 アタシの中に取り込まれて行く彼らの魂と命。プラスチック製のバケツを踏んづけたような大きな音と共に、骨と皮に変わっていくホブゴブリン達。


 -ボコンッ!ボコンッ!-


 アタシは残りのホブゴブリンも全部食べ尽くした。もう周りにゴブリンは1体も残っていない。


「はーい、みんなごちそうさま♥」


 アタシは食後の挨拶をする。


(みんな味は青汁だなぁ。ホブゴブリンは量こそ普通のに比べて多かったけど味は変わらず。さっきの弓ゴブリンみたいな美味しい子はいないみたい)


 外のゴブリンは悉く喰い尽くした。とは言えまだまだ満腹とは言い難い。アタシの食欲を満たすため、それと連れこまれている女性を救うため、ゴブリンの洞穴に乗り込む。


(いや、待って、悪魔化した身体で乗り込んで救出対象に逃げられたらどうするんだアタシ。一旦人間体に戻らないと)


 アタシは救出対象の女性の前に、この悪魔の姿のままで出るのはマズイと考える。突然悪魔の姿を見せたらどうなるかは今朝にボーフォートの兵達でやらかしたばっかりだ。

 

(あー、でも狭いところで後ろから狙われたら危ないしなあ。それにまだ戻り方わからないし、うーんどうしよう)


 アタシは元の人間体になるか悩む。これから向かう先は、洞穴と言う自由に逃げづらい閉所である。このことを踏まえると防御の薄い人間体で行くのはリスクの方が高い。


(毒矢の件もあるし、悪魔化してた方がいっか。捕まってる女の人がアタシを見て走って逃げられるだけの元気があるなら、まあ、そのまま逃げて貰えばいいんだし?)


 結局、救出対象の女性の前まで悪魔化したままで行く事に決めた。人間体で斬りつけられても死にはしないが痛いのは嫌だし、何よりさっきの毒矢の件がある。ミイラ取りがミイラになるのは御免だ。悪魔化出来るのに余裕ぶっこいて人間体で行って、毒でやられてゴブリンに捕まるとか慢心にも程がある。


「そういうわけで、お邪魔しまーす」


 -バサッ-


 アタシは洞穴の前に掛けられていた葉っぱを除けて、洞穴の中に入る。中にもゴブリンの気配がある。


(やっぱくっさいわゴブリン。しかし、んー、中の方が多いな?30体くらいいるぞ?んん?でも媚香出してるのに寄ってこないなぁ?)


 洞穴の中は、案の定ゴブリンの体臭が充満している。中には生き物の気配はするし、数も外より多いのだが、媚香出しっぱなしのアタシにまるで寄ってくる気配がない。


(ゴブリンが居るのに寄ってこない?なんだろ?ケガでもしてて歩けないのかな?それとも寝てるだけ?わかんない)


 媚香を浴びても寄ってこないゴブリンの理由がよくわからないアタシ。軽く首を傾げながら、ゴブリンの気配がする方向へ洞穴の暗闇の中を進む。


(なーんか一か所に固まってるな?密集してる。なんだろこれ)


 洞穴の中は暗いが、アタシの悪魔の目は暗闇の中でもハッキリと周囲が確認できた。洞穴は途中で3方向に分かれていたが、生き物の気配は中央に密集している。そして左右の道の先に生き物の気配は無い。アタシは探索しに来た訳じゃないので中央に直行した。

 すると、大きなカギ穴のある錠前付きの扉が見えてくる。狭い扉だが屈めば入れる程度の高さで、この扉は木製で一部金具が使われている。その扉の奥には、ゴブリンらしき気配が密集していた。そして、昨日ゴブリンの村で嗅いだ悪臭がしてくる。


(この臭い……ここか、連れ去られた女性がいるってのは。ってことは、今中に居るのは女性と?)


 アタシは扉の中の状態を想像し、扉を開けようかちょっと迷った。扉の錠前は外側、つまりアタシの居る方から閉められている。これは中にいる者を逃がさないよう閉じ込めて置くための物だ。つまり、中に居るゴブリンのらしき気配は、中に逃げ込んだのではなく、全て閉じ込められていると言う事になる。


(異様。ゴブリンを閉じ込めている理由が分かんない。実はゴブリンじゃなくてトンでもないモンスターが居たりするんだろうか?)


 慎重を期したいところだが、だからってこのまま帰る訳にもいかない。アタシは扉に付いている錠前をにそっと触れてみる。


(金属製だ。ゴブリンが作った?訳ないか。どこから持ってきたんだろ。まあいいや、鍵は、どこだ?)


 アタシは周りを見渡して鍵を探すが、見当たらない。


(しまった。さっき喰ったゴブリン達が鍵持ってたのかも。えー、どうしよ、これこのまま開けられないかな?)


「ふんっ」


 アタシは力任せに手で錠前をぐいっと引っ張った。すると案外簡単にぐにぃっと曲がっていく錠前。


(おっ、イケるイケる)


 そのまま錠前を引っ張って行ったら、


-バキッ-


(折れました)


 錠前は音を立てて折れてしまった。力任せで無理やりこじ開けた扉。これでいつでも部屋の中へ入れるようになった。

 アタシは折れた錠前をポイ捨てし、


(まあ、迷っててもしょうがないし、入っちゃいますかね)


 扉を開けた。


 -ギィィィィ-


 扉の金具が擦れて大きな音を出す。アタシは屈んで部屋の中に入った。すると見えてくる部屋の全貌。入口は狭かったが、中はそれなりに広かった、アタシが立って歩ける程度の高さはある。そして、


(おーおー、骨が、白骨死体がいーっぱい、うへえ)


 何体もの髪の長い白骨死体が、そこら辺に放置されていた。どれも当然のように服など来ていないし、ところどころ骨が足りない。骨が足りないのは多分、存分に弄ばれた後、食料として肉を食われたのだろう。今日最初に遭遇したゴブリンが言っていた、女は骨以外捨てるところが無いと。アタシはそれらの白骨死体に手を合わせる。


(成仏して……って悪魔が成仏を祈るのってどうなんだろうね。てかあれか、この人達の魂は、全員オードゥスルスに喰われてるのか。悪霊も残れないとは、まあ世知辛い世界だねぇ)


 と、アタシが骨に手を合わせていたところ、部屋の隅っこに密集している生き物が見えた。


(なんだ?小さいのがいっぱい?……あっ)


 密集していたのはゴブリンの幼体だった。普通のゴブリンの半分以下の大きさだ。アタシを見てガタガタと震えている。ここでアタシは媚香が効いていない理由も理解する。


(小さいのには誘因する程度の媚香じゃ効かないのか。ははー、なるほど。じゃあ一旦媚香は閉めるか)


 媚香の暴風クラスまで解放すれば、この幼体共はすぐに息絶えるのだろうけれど、おびき寄せる程度の媚香だと逆に効かないらしい。これはいい勉強になった。とりあえずアタシは媚香の匂い袋の紐をぎゅっと絞るイメージをして、媚香を完全に止めた。


「ギッ……ギギッ……」

「ギィ……」


 ガタガタ震えるゴブリンの幼体達。目の前の部屋の隅に30体程度ほぼ全部集まっている。おしくらまんじゅう状態でもっともっとと壁際に逃げようとしていて、結果的に部屋の隅から動いていない。

 幼体は放っておいても此方に近寄ってくる事はなさそうだった。なので、


「そっちから来ないなら、こっちから行くよぉ?」


 ニンマリと笑いながら幼体達に近付くアタシ。


「小さいのはどんな味がするのかな?」


 一番近くに居た幼体の1体を片手で身体まるごと掴む。


「ギギッ!ギギギギッ!」


 アタシの手に捕まれて、死ぬ寸前の蝉みたいに騒ぐゴブリンの幼体。


(言葉は分からないけど、何を言ってるのかはわかる。変な感じ)


 ゴブリンの幼体は言葉らしい言葉を話しておらず、音としての鳴き声を上げているが、言いたいことは伝わってくる。アタシに対する恐怖一色だ。アタシは昨日、フライアがゴブリンにも伝心の儀はやっていると言っていたのを思い出す。


(伝心の儀をやっておけば、言葉は離せずとも気持ちは伝わるってことか。ふぅん、じゃあこのまま怖がらせるのも悪いし、さっさと喰っちゃおう)


 アタシは手で掴んだ幼体から吸精する。


「いただきまぁす」

「ギッ!?」


 -ペコッ-


 ペットボトルをちょこっと押した、それくらいの音と共に、ゴブリンの幼体が骨と皮に凹んだ。


「ギギッ!?ギギギーッ!?」

「ギーッ!?ギーッ!?」


 その様子を見て、一斉に騒ぎ出す幼体達。

 アタシは喰った幼体の抜け殻をぽいっと捨てて、幼体達にさらに近づく。


「味が少なすぎてわかんないな……いっぺんに食べたらわかるかも?じゃあみんなも、いただきまーす」


 じゅるりと舌なめずりする。部屋の隅に集まる幼体を前にしゃがみ込み、両腕を広げて爪を伸ばす。


-ザクッザクッ-


 勢いよく壁に刺さるアタシの爪。こうして幼体達の逃げ場を無くす。そして壁を爪でガリガリ削りつつゆっくりと押しつぶすように両腕を狭めながら幼体に近づくアタシ。


「ギィッ!?」

「ギ!?」

「ァギ!?」


 -ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ-


 アタシの手に腕に触れたゴブリンの幼体達が、アタシに吸精され、軽快な音と共に骨と皮に化けていく。


「あはっ♥普通のゴブリンよりはほんのり甘さがあるかな?でもやっぱ量が少ないなぁ」


 アタシは笑いながら幼体の味を楽しむ。幼体達は美味しい事には美味しいのだが、量が少なすぎて味わうという事が良くできない。味も薄めの砂糖水と言った感じだ。お腹の足しにはなりそうにない。とは言え残すのも勿体ないので全部食べる。


「ギーッ!?ギーッ!?」


 まだ喰われていない幼体達は泣きながら必死の悲鳴を上げて助けを呼んでいる。


「助けは来ないよぉ?みーんな、アタシが喰っちゃったからねえ」


 幼体達には悪いが、幼体を助けるべき成体のゴブリン達は全部アタシの中にいる。逃げ場は広げた両腕と伸びた爪で塞いでいる。


「諦めておねーさんに喰われようね?」


 残っている幼体に向け、ニッコリ笑いかけるアタシ。アタシは引き続き両腕をゆっくりと閉じていく。


「ギァッ!?」

「ギェ!?」

「ギォ!?」


 -ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ-


「ギヒィ!?」

「ギェ!?」

「ギゥ!?」


 -ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ ペコッ-


 -パタン-


 両手を閉じ終えたアタシ。アタシの両腕の間には、多数のゴブリン幼体の抜け殻が挟まっていた。もうこの部屋にはゴブリンはいない。


「ごちそうさまでした」


 食後の挨拶をするアタシ。腕を広げると、抜け殻がポトポトと地面に落ちて倒れた。


「うーん、イマイチ食べた感がないなぁ。せめて倍は欲しいかも」


 ゴブリン幼体は味は良いけど量が少ない。30体どころか60体喰っても満腹にはならなさそうだった。

 頭の中に意識をやると、小っちゃい魂が30体ほど浮いているのが見える。


(小っちゃいな、ゴブリン幼体の魂。何かに使えるんだろうか?)


 幼体の魂は潰しても腹の足しにはなりそうにない。とりあえず魂は放置することにした。

 伸ばしていた爪を元の長さに戻し、立ち上がる。


(さてと、後はそこのお嬢さん、か)


 アタシは部屋の中央で裸で横向けに、血と汗とほんのり黄色い液体でぐちゃぐちゃになって倒れている髪の短い若い女性に顔を向けた。

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