06.悪魔の孫_06

 困惑した表情でアタシの両腕を掴みガタガタ揺らすフライア。というかフライアはアタシの中のヴァルキリーの魂まで見えているのか?


「アタシもよくわからないんだけど、戦っている最中にヴァルキリーの中にゴブリンの魂を間違って入れちゃったみたいで」


 アタシは頭をポリポリ書きつつフライアに答える。ヴァルキリーの首を掴んだ時、アタシの手から何かがヴァルキリーの中に移動した感覚があった。恐らくあれがアタシの中にいたゴブリンの魂だろう。なんでそんなものがするっとヴァルキリーの中に入っちゃったかはわからない。


「それを!また喰ったの!?」


 アタシの両腕を掴みガタガタ揺らすフライア。そんなに動揺しなくてもいいのでは。


「うん、ちゃんと命?も吸ったよ。喰った魂はヴァルキリーの魂になってたけど、元の記憶もあるみたいだし、また吸ってくださいって言ってたし、嬉しそうにしてたよ?」


 アタシの返答を聞き、フライアがアタシから手を離して真顔で頭を抱えている。


「魂の無い物に他の生き物の魂を与える?どうやって入れてる?命の無い物のエネルギーを吸う?何を溶かして喰っている?構造を変質させてるの?喰った魂はそれの魂の形に変わる?元の記憶がある?再利用しているの?意味わかんない、発想がイカレてる……」


(存在そのものがイカレてる人に言われたくない)


 頭を抱えていたフライアだが、すぐに立ち直り、


「でも面白い、私も今度ヴァルキリーが来たらやってみるわ」


(切り替えが早い)


 と、アタシを見てニヤリと笑うフライアだった


(フライアはヴァルキリーには魂が無いと言っているけど、もしかして人型じゃなくても魂与えればなんでも喰えるのかな?例えば船、アタシのプレジャーボートとかに魂を与えてみたら?)


 魂さえあればなんでも喰えるなら、アタシの食糧事情的に非常に助かる。肝心の魂は、さっき喰った俺っ子ヴァルキリーみたいに再利用できるようだし。そして今のアタシの身体の中には既に喰ったゴブリンの魂が数十体存在している。わざわざ生きている人や家畜やモンスターを新たに喰う必要もない。

 で、プレジャーボートに魂を与える想像をして、


(……んんっ?船がヴァルキリーみたいに喘いだら、怖いな?)


 脳内にビクンビクンと跳ねて喘ぐプレジャーボートのとてもシュールな映像が浮かんできたので、船を喰う案に関してはこれ以上考えるのはやめておく。ただ魂の無い物を喰う案は一考の余地が有るので、今度の課題として覚えておこう。

 ふと、後ろの4人が静かなので振り向いて見る。キートリーとパヤージュが赤面して座り込んでもじもじしている。


(アレ?アタシ、媚香は使ってないんだけど)


 マースは消えたヴァルキリーの居たところをぼーっと見つめている。

 サティさん?サティさんは、


「千歳様!千歳様ぁ!私も!サティも食べてくださいぃぃぃ!」


 そう言ってアタシの胸元目掛け飛び込んで来た。


「サティさんは元気だねー」


 アタシは呆れ顔でそんなサティさんの飛び込みを横に躱し、首筋に指を当てて、一瞬だけ、ほんのちょっぴり命を吸い取る。


(ん、やっぱりサティさんの方が甘味もとろみも強くて美味しい)


「んはぁぁんっ♥」


 -ドサッ-


 サティさんはそのまま思いっきり海老反りで仰け反った後、顔から地面に倒れ出す。そのまま地面に倒れてはケガをしそうなので、


「よっ、と」


 アタシは左の翼で倒れ込むサティさんを受け止め、ゆっくり地面に下ろす。どうも気絶したようだ。


(うん、今度からこうしよう)


 今後サティさんが縋り付いてきた時の対処方法が決まった。一瞬ほんのちょっとだけ命を吸って気絶させる。サティさんは吸われて嬉しい、アタシは静かになって嬉しいし命が甘くて美味しい、win-winの関係だね。

 アタシは足元に倒れてるサティさんの事は忘れ、強引にフライアに話を戻す。


「あ、そうそう、あの黒いヴァルキリー、結局何なの?この世界の免疫機能って、この世界ってなんなの?」


 倒れていたサティさんを見ていたフライアが顔を上げる。


「ああ、その話、途中だったわね。貴女の奇行で忘れてたわ」


(奇行の塊みたいな人に言われたくない)


「キートリー達も、こっちきて座りなさい。いい機会だから貴女達にも全部話すわ」


 そう言ってキートリー達を手招きして呼び寄せるフライア。


「ぅん……へはっ!?あら?呼びましたフライア?い、今行きますわ」

「……はっ!?フライア様?はい、行きます」


 何故かぼーっとしていたキートリーとパヤージュ。フライアに呼ばれて我に返ったのか、立ち上がってアタシの両隣りに座る。


「千歳姉様……」


 マースがふらふらと寄ってきてアタシの背中の左の翼に寄っかかった。アタシは無意識に広げっぱなしになっていた両翼をゆっくりと畳み、マースを自分の背中に誘導して座らせた。背中にマースの小さめの握った手の感触がある。彼の体温でアタシの背中はとても暖かい。

 何故かキートリーとパヤージュのアタシを見る視線が熱っぽい気がする。


(ちょっと調子に乗ってハメを外しすぎたのかも。ヴァルキリーを〆る現場をあんなに見せつけたのが良くなかったかな?鶏を〆る現場を見せつけられて喜ぶ人はそういないもんね?今後は自重しよう)


 気絶しているボースとサティさんを除いて全員フライアの前に集まった。そうしてまた空中の魔法陣に座ってるフライアがこの世界、オードゥスルスに付いて話し出す。


「ここの世界、オードゥスルスはね、生きているの。そして、生き物の魂を取り込む。超巨大なソウルイーターなのよ」

「オードゥスルスが、ソウルイーター?」

「この世界そのものが、ですか」

「世界が、生きている?」

「ソウルイーター、魂を喰らうモノ、ですのね?」


 ソウルイーター、アニメ・ゲームでたまに聞く、魂を喰らうモンスターだったり、同じく魂を喰らう武器だったりするやつだ。そしてこの世界そのモノがソウルイーターとはどういうことだろう。


「ええ、それでオードゥスルスは、大きく2つの部分に分けられるわ。魂を喰らう捕食者の部分と」


 そういって上を指差すフライア。


「生き物を呼び寄せて捕食者が喰いやすい魂に変質させる牧場の部分」


 続いてフライアは地面を指差す。


「私たちが今いるのは後者、牧場の部分よ」


 地面を指差しているフライアが、トントンと地面側を連続で指差す。


「生き物を呼び寄せてってのは、アタシみたいに異世界から呼び込むってことだよね?」


 アタシは自分を指差して言った。

 思えば、今朝無人島で見たあの虹の空、あれはソウルイーターであるオードゥスルスに捕まったって事になる。アタシはメグと島と一緒にオードゥスルスの牧場に囚われて家畜にされてしまったのだ。


「牧場でアタシ達の魂を、捕食者が喰いやすい魂に変質?ってどういうこと?」


 アタシは地面を指差しながらフライアに聞く。


「異世界から呼び出した魂はそのままは喰らえないみたいよ。ほら、この世界って魂が煙玉みたいに空に昇って行くじゃない?元の世界ではそんなことはなかったでしょう?あれはこの世界が喰いやすいように魂を変質させた結果よ」


 フライアが、掌の上の魔法陣上に白い煙玉の映像を作って見せてくれる。


(便利だなその立体映像魔法。アタシも覚えたい。アタシが魔法を覚えられるかどうはは別として)


 それはそれとして、今この瞬間も、アタシ達の魂はオードゥスルスが喰いやすいように形を変えられているという事になる。不気味さとおぞましさで背中がぞくっとした。


「異世界から呼び出した魂をすぐ喰えない事情があるのは分かりましたわ。ではこの世界にある魂を、ワタクシ達をすぐに喰らわないのは何故なんですの?特にワタクシ達、土着の民の魂を」


 キートリーが自分に手を当てつつ当然の疑問を言ってくる。異世界から呼んで喰えるようになったらさっさと喰ってしまえば良いのに。ただ、オードゥスルスがさっさと魂喰ってくるようなヤバいヤツだったらアタシはここまで来れてないのだが。後は土着の民、この世界で産まれた人達をとっとと喰わない理由も分からない。


「基本的に、一部例外な相手を除いて捕食者側は口を開けて待っているだけよ。牧場側から勝手に送られてくるのを待っているの。後は牧場、当然飼ってる家畜は喰うだけじゃなく、ある程度自力で繁殖させなきゃ、ってトコね」


 フライアが紫のルージュの唇を大きく開けて待っている仕草をする。その口の中に魔法陣上で映している煙玉を放り込むフライア。


「捕食者側は怠惰の極み。牧場側は……はぁー、ワタクシ達は家畜、ですのね?ふざけた話ですの」


 溜息を付いて眉間に皺を寄せるキートリー。お前は家畜ですと言われて良い気分になる人はそういない。アタシも似たような気分だ。


「で、その一部例外が、さっきの黒いヴァルキリーが来る人達、フライアや千歳お姉様みたいな、あれら風に言うと不死者、ですのね?」


 一部例外に当たるアタシとフライアを指差すキートリー。フライアはわかるけど、なんでアタシまで不死者なのか。ちょっと肌が青いだけなのに。


「そ、私達悪魔も魂を喰らうソウルイーターみたいなモノだからねぇ。同業者はたっぷり魂を抱え込んでさらに離さないから、捕食者の口に入らないわけ。それじゃ困るから黒いヴァルキリーを送って、魂を食わせろ~ため込むな~って来るのよ」


 両手の手のひら上の魔法陣に、ミニチュアの悪魔の人形と、黒いヴァルキリー人形が現れ、その二つをコンコンとぶつけて戦っている風を表すフライア。


「横取りは良くないないぁ~って、アタシもオードゥスルスから横取りしてるようなもんか」


 両手を広げて肩を竦めるアタシ。少なくともアタシは、シュダ森のゴブリンを既に数十体は喰っている。3桁はまだ言ってない、ハズ。内半分くらいは過失だ。情状酌量の余地が欲しい。


「まあ、あっちから見たらそうかもしれないけれど、千歳を呼び込んだのはこの世界だから自業自得よねぇ」


 空を指差しつつ、アタシを見て眉をくいくい上げるフライア。


「因みにあの黒いの、あれに一度不死者認定されたら定期的にやって来るから。上手い事対処できるようになっておきなさいねぇ?」


 アタシを見ていたフライアが、そんなセリフと共にニヤニヤ笑う。


「うええ、めんどくさっ!あの弓矢苦手、どうしよっかなぁ……」


 フライアは秒で始末できるからいいんだろうけど、アタシは正直かなり苦戦した。今回は無理やり捕まえて勝ったが、あの光る弓矢でアウトレンジ射撃されたらたまったものじゃない。あの光る矢、悪魔化したアタシの腕にあっさりと刺さるし、射られた腕はジュゥゥッと言う音と共に焼かれて焼けどして超痛いし、特にあの連射速度がヤバイ。弓の癖に、タッタッタッタッタッタッと、リズムよく連射してくる。狙いも正確で、アタシがヴァルキリーの頭に石をぶつけて狙いが逸れた最後の1発以外は、全てアタシに直撃するコースだった。挙句に矢はどこからともなく無限に供給される。石の指弾が届く範囲内に居てくれる時はなんとかなるが、それより離れられたら対処のしようが無くなる。あれに対抗できる手段を考えておかねば。


「フライア、黒いヴァルキリーがなんなのかは分かりましたけれど、ワタクシに向かってきた白いヴァルキリー、メルジナの試練は、黒いのとはどう違うんですの?」


 そう言えばアタシが黒いヴァルキリーに襲われる前、キートリーに一撃で粉砕された白いヴァルキリーが居たのを思い出した。


「あれはね、メルジナの試練なんかじゃないわ」

「やはり違う、のですね……」


 フライアの言葉に、落胆するマース。白いヴァルキリーを神様の使いだと思っていたマースだが、さっき出てきた見知らぬ黒いヴァルキリーが、ソウルイーターであるこの世界のただの免疫機能の知ってしまった。そこから考えれば、白いヴァルキリーもこの世界のただの免疫機能に過ぎないという事に気づかないマースではないだろう。


「ええ、違うわ。あれも黒いヴァルキリーと同じ、この世界の免疫機能の一つよ。ただちょっと役割が違うの。白いのは牧場の人間を英雄として認めてくる。で、あれに英雄として認められる人物は、大勢の魂を持ったモノを殺しているわけだけど……」


 そう言ってフライアはキートリーを見る。フライアに見られたキートリーが口を開く。


「ええ、否定はしませんわ。領地と領民を守るためとは言え、ジェボードの兵を何千人も殺したのは事実ですもの」


 そう言ってキートリーは髪をかき上げる。


「ですが後悔はしておりませんの。戦場にいる以上、戦士が互いに殺し殺されは当たり前。相手だってそれ相応の覚悟はしているでしょう?ワタクシだってそうですわ。勿論、進んで死にたいかと聞かれればそれにはいいえと答えますけれど」


 腕組しつつフライアを見上げて毅然とした態度で答えるキートリー。


(キートリーは異世界の人間だけど、まだ若い二十歳の女の子なキートリーが、ここまで死ぬ事、殺す事に対して覚悟を決められるものなの……?それともアタシがヌルいだけ?アタシの元居た世界がヌルすぎただけ?これ、異世界間ギャップ、ってやつなのかなぁ?)


 キートリーを見てアタシはそんなことを考える。中途半端に、不殺だ、殺したくないだなんて言ってる余裕は、アタシにはないのかもしれない。キートリーみたいに徹底的に容赦なく敵を殺すか、逆にヌールエルさんみたいに何も奪わないで飢えて死ぬか。両極端だけど、その二つだけ。


(この世界はきっとそんなに優しくない。死にたくないけど、殺したくない、は通らない。アタシは人と戦わなくてはいけなくなった時、どうするだろう?どうしたらいい?)


 アタシは悩む。だが悩んでも、実際にその場になってみないと答えは出せそうにない。勿論そんな場面に会わないよう努力する。だけど、


(その時が来た時、アタシは迷わず答えを出せるだろうか?)


 アタシは爪が伸びてうまく握りきれない右手を握りながらじっと見た。アタシの利き腕。これをどう振るうかはアタシの意思次第だ。

 フライアがちらりと手を握るアタシに視線を向けた後、キートリーに視線を戻して話を続けた。


「別にそれが悪いと言っている訳じゃないのよ。貴女にだって事情はあるのだしね。それで、白いヴァルキリーだけど、戦で死んだ魂は捕食者であるオードゥスルスに渡されるわよね?戦によって多くの魂がオードゥスルスの口に運ばれるわけだけど」


 フライアの掌の上の魔法陣に、戦場で兵士たちが倒れ、魂がゆらゆらと空に昇って行く映像が映し出される。その映像上の昇ってきた魂をフライアは大きく開けた自分の口に運んで食べる仕草をする。


「白いのはよく魂を送ってくれる人物を英雄として認めて、よくやった、もっと牧場の家畜を殺して俺に魂を喰わせろ、もっと殺せって言ってる訳。それが白いヴァルキリーが言う祝福」


 フライアの魔法陣上に、白いヴァルキリーとそれに会って両手を上げて喜ぶ兜の大きい戦士、これは英雄のつもりだろうか?が映し出される。

 フライアの告げる事実に、キートリーが不機嫌になって行く。


「なんですのそれ、ワタクシはあくまで戦士として戦場に立っている訳で、オードゥスルスに食事をさせるために戦っているわけではありませんのよ?」


 眉間に皺を寄せ腕を組んだまま、静かに怒っているキートリー。そりゃそうだ、キートリーだってソウルイーターにメシを喰わせるために敵を倒している訳じゃないだろう。でも白いヴァルキリーはそれを催促してきた訳だ。キートリーの戦士としての誇りに横から泥をぶっかけているようなものだ。そりゃ怒る。


「それともう一つ、この世界で生き物を殺したモノの魂は、殺した生き物の数だけ膨らむの。私や千歳みたいに、魂を丸ごと吸い取る訳じゃないからそんな大量の魂を持つわけじゃないけど。だけど一般人に比べれば英雄の魂は圧倒的に大きい魂になるのよ。英雄も擬似的なソウルイーターとして見なされる訳。白いのが飛びかかってくるのは、その大きく育った魂を喰わせろ、って意味もあるの」


 フライアは魔法陣上に、大きな兜を被った英雄風のキャラクターと、その英雄の上に丸い魂を表示する。英雄風のキャラクターが、向かってくる敵を倒していくたびに、頭の上の魂が少しづつ大きくなっていく。そして白いヴァルキリー風のキャラクターが現れ、英雄風キャラクターを倒した。すると英雄の魂がゆらゆらと空に昇って行く。フライアはその英雄の魂を自分の口に運び、口を大きく開けて食べる仕草をする。


「もっと殺して餌を寄越せ、それが出来ないならお前を喰わせろ、って事ですのね。ホンット、ふざけてま・す・のっ!」


 -ミシッミシミシッ-


 キートリーが眉間に皺を寄せたまま握った拳を地面に押し付けている。キートリーの押し付ける拳で地面が音を立ててヒビ割れて行く。


(これは相当怒ってるなキートリー)


「因みに、英雄がそのまま魂を肥大化させていくと、いずれ英雄の元にも黒いヴァルキリーが来るわ。擬似では無い、晴れて本物のソウルイーター認定よ。喰わせろぉ~、がお~」


 ふざけた風に言ってキートリーに向けて口をあけるフライア。そのフライアの両手の上の魔法陣に、英雄風の人形と、黒いヴァルキリー人形が映され、それをコンコンぶつけて戦わせている。


「因みに、何人程度殺したらあの黒いヴァルキリーが来ますの?」


 両腕を組んでフライアに聞くキートリー。キートリーの実力ならあの黒いヴァルキリーも問題なく倒せるだろう。


「そうねぇ、少なくとも1万人以上は殺さないと来ないとは思うわよ?私がオードゥスルスに来てから、英雄に黒いヴァルキリーが向かったのを見たのは片手で数える程度。勿論、私が見てないところで戦っていた事もあるかもだから正確な事は言えないけど」


 キートリーの質問に、フライアは魔法陣上に、倒れた幾人もの兵士と、その上に10000↑と言った感じの数字の映像を出す。


「あら、1万以上ですのね。今は休戦中ですし、当分は来そうにありませんわねぇ」


 何故か残念そうに言うキートリー。


「なんで残念そうなのキートリー?あんなの来たってめんどくさいだけだよ?」


 アタシはそんなキートリーが不思議で彼女に聞いてみる。


「千歳お姉様が黒いヴァルキリーと戦っている時、とても楽しそうにしていらしたので、ワタクシも、と思いましたの」

「そ、そう……」


(キートリー、頭サ〇ヤ人なのかな?)


 聞いたことを後悔した。でもキートリーはアタシがヴァルキリーと戦っている最中に興奮して試合を申し込んできたし、実際に紛れもなく頭サ〇ヤ人なのかもしれない。

 かく言うアタシも、ヴァルキリーを地面に叩きつけて高笑いしていたのは事実。憧れのヴァルキリーが無残にもやられていく姿に、アタシは異常に興奮し笑っていた。もしかしてアタシはサディストなのだろうか?それとも苦しむヴァルキリーに自己を投影したマゾヒスト?わかんないや。

 そんな時、アタシの肩越しに少年の可愛い声が聞こえてくる


「お師匠様、お師匠様ももしかして流着の民なのですか?」


 アタシの背中に寄りかかっていたマースが正気に戻り、立ち上がってアタシの左肩から顔を出しながらフライアに質問をした。アタシの左肩にはマースの小っちゃい両手が添えられていた。

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