06.悪魔の孫_05

「千歳?終わった?」


 既に人間体に戻り、空中に座って暇そうな顔で頬杖を付いているフライア。モズの早贄になったヴァルキリーがそのまま空中に吊るされており、2ℓペットボトルくらいの太さの光の刃が胴体を思いっきり貫いていた。血は出てないが、確実にあっちのヴァルキリーは死んでいる。アタシは神の使いを容赦なく始末したフライアにドン引きだ。


「まあ、貴女初めてだしねえ、時間掛かるのもしょうがないわよね。ふああ……」


 呑気に欠伸しているフライア。どんだけ早く終わらせたんだこの人。


「あ、いや、多分もう抵抗する力は残ってないとは思うんですけど……そっちは、いつぐらいに終わったのかなーって」

「貴女が手刀でそっちのヴァルキリー吹っ飛ばした辺りには終わってたかしら。ほら、こんな感じで」


 そう言いつつ一瞬で悪魔化して指を振るフライア。すると背後の平原にふわっっと、横長の長方形、学校の体育館くらいの大きさの空間に、みっしりと無数の魔法陣と光の刃が出てきた。フライアの隣りにいるマースが、その空間が出ると同時にビクッと震えた。


「あは、あははは……うっそでしょ?そんなの逃げ場ないじゃん……」


 アタシはその空間を見上げながら、フライアとの力の差を見せつけられ、冷や汗を垂らして乾いた笑いをするしかなかった。

 フライアの出した空間、あそこにいたら飛んでいようと跳ねていようと同じ、串刺しだ、針地獄だ。恐らくこのお爺ちゃん、5秒以内にヴァルキリーを始末している。


「ほんっと、デタラメですわね……」


 アタシ相手に興奮して喜んでいたキートリーも、腕組しつつフライアの出した空間を見上げながら、冷や汗をかいてドン引きしている。


「で、どうするのそれ」


 フライアはつまんなそうに言って悪魔化と全部の光の刃の魔法陣を解除し、早贄になっていたヴァルキリーも解放する。ふわりと地面に落ちていくヴァルキリー。だが地面に落ちる前にヴァルキリーは光となって消えた。

 アタシは正直迷っている。今アタシの足元で虫の息なヴァルキリーにトドメを刺すかどうかだ。彼女はアタシの足元から動いておらず、首は無防備で簡単に掴めるし、多分今のアタシの腕力なら、片手で首の骨を折れる。だがこの憧れのヴァルキリー様を殺してしまうのはどうなんだろう?なんというか勿体ない、こんなに綺麗なのに。というかヴァルキリーは神の使い、下っ端だけど神様、やっちゃうのは不味い、神様敵に回すのは不味い。と言ってもフライアが既に一人始末してしまったので今更見逃してくれる訳もないのだけれど。キートリーの方の白いヴァルキリーは試練だからセーフ、だよね?


「トドメ、刺さないの?」


 フライアは早く始末しろと言わんばかりにヤル気満々で聞いてくる。

 イマイチ状況が腑に落ちないアタシはフライアに質問する。


「ちょっと待って!この黒い人達、なんなの?アタシを不死者とか言ったり、フライアをメルジナとか言ったり、わけわかんないよ、説明して」


 今まで通り、マースが説明してくれると期待してマースの方を見る。が、マースは首を横にぶんぶん振っている。


「えっ?」


 マースが知らないとはどういうことだろう。じゃあ、とキートリーを見る。


「黒いヴァルキリーの話は聞いたことありませんの」

「えぇっ?」


 そう言ってキートリーも首を横に振る。キートリーも知らないとなると、パヤージュとサティさんに続けて視線を送るが、二人とも首を横に振っている。ボースは、気絶したままだ。

 という事は、知っていそうな人は一人しかいない。


「フライア、この黒いヴァルキリー?何?神の使いじゃないの?」


 アタシは虫の息のヴァルキリーを指差しつつフライアに聞いて見る。


「それはね、この世界の免疫機能よ」

「免疫機能?」

「そ、私や千歳みたいな魂を貯め込むイレギュラーを排除するためのこの世界の免疫機能。神の使いなんて高尚なモノじゃないわ」


 アタシの疑問に、アタシの足元のヴァルキリーを指差しながら答えるフライア。


「世界の免疫機能って何?それじゃこの世界が生きているみたいじゃない」

「全部説明してあげるから、とりあえずそのヴァルキリーにトドメ刺しなさい」


 フライアは足元のヴァルキリーに向けて人差し指で×印を作ってみせる。だが魔法が発動したりはしなかった。あくまでアタシにトドメを刺させるつもりらしい。


「えぇ……でも……」


 アタシは戦争を経験していない徴兵経験も無いごく普通の一般市民だった訳で、そうそう人を、あいや、この人は神の使い?ん?違うな、免疫機能さん?を殺すと言うのはどうしても抵抗がある。なので、


「あ、そうだ」


 妙案を思いついた。


(ゴブリンみたいに喰っちゃおう)


 自分でもどこかズレているような気もする。だが目の前のヴァルキリーのお姉さんは綺麗で美味しそうで、ちょっと涎が垂れるくらい好きな見た目だった。

 と言うか、アタシはヴァルキリーをゲームで見てからずっと憧れていた。昔、メグの趣味で一緒にヴァルキリーのコスプレをして、そのコスプレ画像をSNSにアップロードしたことがある。そうしたらコメントで、"女神とメスゴリラ"だの、"爆乳ヴァルキリーとマッチョゴリキリー"だの、"母性の塊と筋肉の塊"だの、"乳の重さで飛べない方と筋肉の重さで飛べない方"だのと、好き放題書かれた記憶がある。勿論そんなコメントした連中のアカウントは全員スパブロしておいた。ただ中には、"その筋肉で抱いて"だの、"鯖折りされたい"だの、"顔は好み"だの、"これくらいの筋肉が無いと不死者とは戦えないから右の方が正しい"だの擁護なのかなんなのかわからないコメントもいくつか付いていた。アタシはそっちのコメントには高評価ボタンを押しておきました。

 とまあとにかくヴァルキリーは大好きなので、ただ殺す以外の方法を選ぶ。


(手を合わせて頂きますすればセーフでしょ。神の使いじゃないんでしょ、このお姉さん?ならセーフだって。絶対美味しいって、悦ばせればセーフでしょ)


 何か理由が無いと言うか、線引きが無いと狂っちゃいそうなので、アタシは自分ルールを設けた。ただ殺すのはダメだけど喰うのはセーフ。いただきますをすればセーフ。美味しく気持ちよく喰べてあげるんならセーフ。相手を悦ばせればセーフ。ごちそうさまを言えばセーフ。


(誓ってアタシは殺しはしていません、これは食事です。スーパーマーケットで売っている牛や豚や魚の肉を食べているのと同じ、ちょっと自分で〆るだけだから、これはセーフ。アタシは不殺系、ゴブリンはモンスターだから家畜扱い、家畜だからセーフだっつってんの)

(子どもの頃の農場体験で、鶏をナタでさばいて喰ったあの時と同じ。羽をむしる作業が無くて言い分、こっちの方がずっと楽だよね)


 かなり強引だが理由は付けた。アタシはヴァルキリーの前で目を瞑り両手を合わせ、


「千歳、貴女何をする気?」


 フライアが不可解そうな顔をしている。


「いただきます!」


 くわっと目を開けて、食事の挨拶をした。その勢いでヴァルキリーのお臍辺りに右手手刀を突っ込んだ。爪から、手首まで。


 -ズドッ-

 -ぐぢゅっ-


「あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ???」


 ヴァルキリーが腹を貫かれて悲鳴を上げる。ヴァルキリーの腹から赤い血がだらだらと流れていく。

 アタシは地面に座り、悲鳴を上げるヴァルキリーを左腕で抱き寄せ膝の上に乗せた。そして彼女の耳元で優しく囁く。


「大丈夫、大丈夫、すぐに痛くなくなるから、大丈夫だよ」


 そしてサティさんにやった時みたいに、突っ込んだ右手でヴァルキリーの命を腹から吸い上げる。


「あ゛っあ゛っーーっっ!?あ゛っ♥あ゛っ♥あ゛っ♥」


 間もなくヴァルキリーの悲鳴に艶が混じり出す。感情の無い、抑揚のない声しか出さなかった彼女の、初めての感情の籠った声だ。そしてアタシの手から彼女の美味しい命が流れ込んでくる。甘い、すっきりとした甘さ。するすると入ってくる。


「ち、千歳?貴女、ヴァルキリーを……喰えるの……?」


 何故かフライアが何故か戸惑いの声を上げている。


「え?どうしたの?フライアだって喰おうと思えば喰えるんじゃ?」


 フライアだってアタシと同じ悪魔だ、さっきは始末するのが優先だったってだけで、喰えるだろう?アタシはそう思っていたが、どうもフライアの様子を見ると違うようだ。


「ヴァルキリーはこの世界の免疫機能と言ったわよね?一見生き物に見えるけど、それに命は無いし、魂も無いの。ただの人形なのよ。それをあなたは、喰ってる……」


 怪訝な顔をして言ってくるフライア。何故か今度はフライアがドン引きしている。このヴァルキリーがただの人形と言われても、実際今アタシは喰ってるし、血は流してるし、喰われてる彼女はとても可愛い声で悦びの声を上げている訳で。

 そう言う訳で、フライアの言っていることは一旦置いておく。


「ひあ゛っ♥あ゛っ♥あ゛っ♥あ゛っ♥」

「大丈夫?もう辛くないでしょ?痛くないでしょ?気持ちいいでしょう?とっても甘くて美味しいよ、貴女の命」


 膝の上で臍に手を突っ込まれながらリズムよく弾む彼女に、アタシは語りかけた。彼女の命を吸ってるうちに、アタシの左腕に刺さっていた矢がにゅっと勝手に腕から抜けて、傷口が塞がった。最早左腕は万全だ。

 そしてアタシの興味はアタシの目の前でゆらゆら揺れる彼女の長い髪とチラチラ見えるうなじに移る。長い水色の髪に隠れつつもスベスベでツヤツヤで綺麗なの首筋。アタシは彼女の髪を手で避けてから綺麗な首を長い舌でベロンベロンと数回舐めた後、首筋に歯を突き立てた。


「ひあ゛あ゛あ゛っっっ♥」


 彼女の首から血がブシュッと噴き出し、アタシが飲みきれなかった分の血が彼女の身体を伝って地面に垂れていく。


「い゛い゛で゛すっ♥あ゛っ♥あ゛っ♥きも゛ぢい゛い゛っっ♥」


 ヴァルキリーは無事悦んで喰われてくれているようで、アタシも嬉しくなって彼女の首を噛み口から血を垂らしながら笑顔が漏れた。そのままアタシは彼女のお臍に突っ込んだ手を優しく、だけど大胆にぐりんっと捻る。


「ん゛ん゛ぁあ゛ぁっっ♥」


 ヴァルキリーが艶声と共にビクンッと跳ねて悦ぶ。ヴァルキリーのお腹の中をかき回してみて、彼女のお腹の中には内臓とかは全く無いことは分かった。確かに生き物っぽくないのだけれど、彼女の身体中から溶け出した命がお腹の中にいっぱい詰まっていて、それがとても美味しくて、ついついもっと奥へと手を突っ込んでしまう。その度に彼女は可愛く反応してくれるので、ついつい嬉しくてもっと奥に、もっと、もっと、と突っ込んでいたら、肘まで彼女の中に入れていた。

 多分彼女はもう助からないし、一度〆始めた以上、アタシも止めない。苦しませて死なすつもりはない。安楽死、いや、アタシが彼女に与えるのは快楽死だ。悦んで死ねるなら安楽死よりもずっといいだろう。天国を感じながら天国へ行く事になるだけだ。せめて痛みを知らず安らかに。だから、アタシ的にはセーフ。


-ブチィッ-

-ブシャァ-


「ひぎぃぃっっ♥」


 彼女の首の肉を食いちぎり、もっちゃもっちゃと咀嚼する。彼女の首から噴き出した赤い血が、アタシの顔を汚していく。彼女の首の肉をゴクンと飲み込んが、正直肉の味は薄味、豆腐、いや油揚げみたい。そのまま食えなくもないが、何かもう一味、醤油とかお味噌が欲しい。なので肉をそのまま喰うよりも、溶かして吸った方が、甘くて美味しい。


「もっと溶けろ、蕩けろ、ドロドロに溶けろ、トロトロに蕩けろ、ぐちゃぐちゃに溶けろ、アタシに喰わせろ、アタシに喰われろ」


 気分の高まってきたアタシ。美味しい物を食べている時は自然と笑顔が漏れるもので、アタシは弾けるスマイルでそんなことを喋っていた。顔に掛かった彼女の血が目に入りそうだったので、舌を長く伸ばして目の周りの血も舐めとる。


「ごしゅじんざま゛っ♥ひぃっ♥もっどっ♥もっどだべでぇっ♥」

「御主人様??嘘でしょ……?どうしてヴァルキリーが血を流しているの……?どうしてヴァルキリーが試練と不死者排除以外の事喋ってんの……?」


 フライアが両手で口を押え驚いている。ヴァルキリーが血を流さない?アタシと戦っている最中にはもう頭から血を流していたし、首を絞められてチアノーゼになってたりしたような?

 とりあえず今はヴァルキリーが綺麗で可愛くて美味しいので、食欲優先でそっちに集中する事にする。

 アタシは吸血鬼では無い。だが彼女の首から出る血が甘くて美味しくて、また彼女の首筋に口を付けて、じゅるじゅると吸ってしまう。おかげでアタシの口元は血で真っ赤。


「んあぁぁっっ♥ひぃぃっっ♥だべっでっぐだざいっ♥俺を全部だべでぇっ♥」


 腹だけでなく、首からの吸血すら彼女にとっては悦びに変わるらしい。


(憧れのヴァルキリーにこんなに悦んでもらえてアタシは光栄だよ)

(でも俺って言った?今、俺って言った?まあいいや)


 ヴァルキリーの俺って発言が気になったが、今は食欲優先だ。パック入りのトマトジュースをストローで吸うかのようにずぞぞぞっっと彼女の血を吸っていくアタシ。

 いよいよ吸えるモノ、命も血も少なくなってきた、もうそろそろ喰い終わりそうだ。


「ふふふ、そのまま最後まで、ずっと、ほら、もうすぐ、もうすぐだよ?ほら、ねぇ?」


 アタシは血の出の悪くなった首筋から口を離し、ヴァルキリーの耳元で間もなくやってくる彼女の最期を宣告する。


「最期はいっぱい気持ちいいので終わろ?ねっ?行くよ?行くよ?ほらぁぁぁっっ!!!」


 アタシは彼女の最期の為に全力で命を吸い上げた。


「あ゛ば~~~っっっ♥♥♥あ゛っっっっっ♥♥♥……」


 口から血を足らしつつ、身体をビクンっと跳ねさせたヴァルキリー。彼女は最期に大きな嬌声を上げた後、アタシに寄りかかって動かなくなった。


「ごちそうさまでした!」


 彼女の腹から手を引き抜き、血で汚れた口を拭いて食後の挨拶をするアタシ。アタシは満腹だ、ゴブリン1匹よりヴァルキリー1人の方がカロリーはずっと多いみたい。味はなんだろう、サティさんがハチミツならこのヴァルキリーはメープルシロップみたいな感じだった。とろみと甘味の濃さはサティさんの方がずっと上だが、ヴァルキリーも甘さが控えめながらもすっきりした味わいで美味しかったです。願わくば油揚げよりパンケーキが欲しい。


「へぇー、ゴブリンみたいにしわっしわにはならないんだね」


 最早動かないヴァルキリーを抱きかかえたまま見つつ、アタシがそんな感想を言った直後、彼女の身体は光となって霧散し、アタシの腕の中から消えた。

 その後、アタシの頭の中、ゴブリン達の魂の中に、ヴァルキリーの顔をした魂がひとつ混じって浮かんでいるのを感じた。


(ん?このヴァルキリーの魂、なんか前にも居たような……)


 どこか見覚えのある魂の形、気になったので呼んでみる。


(貴女ちょっとこっち来なさい)

(お、俺ですかっ?)


 やっぱり俺って言った。黒いヴァルキリーの一人称までは知らないけれど、少なくとも俺っ子ではないだろう。


(そうそう、あんた、あんただよ)

(は、はいっ)


 素直にアタシの意識に寄って来るヴァルキリーの魂。その魂をじっくり観察してみると、さっきゴブリンの魂を割った時の集団に混じっていたやつと形がよく似ている。俺と言った事、見たことのある形の魂、思い浮かぶことは一つ。


(あんた、もしかして?元ゴブリン?)

(そ、そうですご主人様ぁ♥)


 アタシの予想は当たった。ヴァルキリーの魂だと思っていたものは、どうも元ゴブリンの魂らしい。しかもアタシの中に貯めておいた、アタシが砂浜で最初に喰ったゴブリン達の一人のようで。


(あんたゴブリンなのに、ヴァルキリーの魂になっちゃったの?)

(はいっご主人様ぁ♥)


 そう言って両手を胸の前で組み、アタシの意識の方を潤んだ目で見てくる。魂に映る姿がゴブリンではなくさっき喰った水色の髪の黒い翼のヴァルキリーなため、やたら表情豊かに素直になったヴァルキリーがアタシに満面の笑みを向けてくる事態になっている。


(アタシがご主人様?)

(そうですっご主人様は俺のご主人様ですぅっ♥)


 アタシはすっかりゴブリンのご主人様にされている。ちょっと前までアタシの身体を乗っ取って来たのがウソのようだ。まあコイツはアタシの身体を乗っ取ったゴブリンとは別個体だけれど。アタシを乗っ取ったゴブリンの魂はアタシが潰した訳だから。


(あー、あんたそれで今どんな気分なの?)

(俺っ!生まれ変わったみたいでっ!最高な気分ですぅぅ♥)


 元ゴブリンの俺っ子ヴァルキリーは、何故か凄く喜んでいる。うんまあ、ゴブリンからヴァルキリーに変わればそんな気分にもなる、なるのか?


(楽しそうだねぇ、うん、良かった、戻ってていいよ)

(はいぃぃ♥また吸ってくださいぃぃ♥)


 そう言って俺っ子ヴァルキリーの魂は、アタシの意識に向かって笑顔でブンブン手を振りながら奥へに引っ込んでいった。

 まあ中身元ゴブリンでも、魂の見た目がヴァルキリーなので見栄えは良い。後で呼び出してちょっと観察させてもらおうかな?


(オマエダケズルイゾッ!)

(ソウダッ!ズルイゾッ!)

(うるせー!俺はご主人に選ばれたんだ!)

(オイ!オマエラ!コイツノカラダ掴メ!)

(ダメダッ!魂ダカラ手ガ出セネエ!)

(ジャア囲メ!)

(囲メ囲メェッ!)

(うえへへー!ご主人ぁぁ♥)


-ポコッポコッ-


「うわあっ!お前ら集まってくんな!暑苦しいだろっ!)


 なんかアタシの意識の奥から争う声とポコポコ何かがぶつかるが聞こえた。騒がしいので黙らせる。


(元は同じゴブリン同士なんだから仲良くしてよー。あとちょっと五月蠅いから黙っててー)

(ハッ!?ハイッ!ご主人様ッ!)

(うぇへへー♥仲良くしまーす♥ご主人様ぁー♥)


 ビビりつつ返事するゴブリンの魂達と、満面の笑みで返事する俺っ子ヴァルキリーの魂。ゴブリン達はアタシの注意を聞いたのか、それっきり静かになった。


 なんか色々あったけど、とりえあずこれで向かってきたヴァルキリーもいなくなったし、アタシの身体も自由になった。無事終了だ。


「なんだか知らんけど、とにかくヨシ!」


 アタシは立ち上がって血の付いた口やら顔やら拭いつつ、ヴァルキリーが消えた辺りの地面は血だらけだけど、とりあえずその辺を人差し指で差しつつ指差し呼称した。万事ヨシ!


「よく無いわよ!千歳!貴女ヴァルキリーに何をしたの!?なんでヴァルキリーの魂を持ってるの!?」


 当然フライアからツッコミが入った。

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