第22話 牢獄
こうして私は囚われの身となった。
きっと、磔(はりつけ)とかにされて、見せしめになるんだろうな。灼炎に火を放った時は、できるだけ無駄な殺しはしなかったとはいえ、かなりな被害を出したことに変わりはないわけだし。
それにしても、私を歩かせないで檻に入れて、馬車で運ばせるなんて見せしめのためなのか分からないけど、むしろ歩かなくて済むから楽だなと、のんきなことを思いつつ。最後に杉崎の作ってくれるケーキを食べたかったな。頼んだら食べさせてくれないかな。まあ、無理か。
本当にこんなことを考えていていいのかな。数日後には死んでいるだろうというのに。
そして、灼炎についたのか、馬車は止まった。
その後檻から出されて、明らかにやばそうな人達が収容されている牢獄に連れて行かれた。私の部屋は一番奥で誰も周りにいない独房だった。
単に部屋の中に人がいないだけでなく、そのフロアどこを見ても他の囚人はいないという感じだった。そして、看守が来て
「お前の処刑は3日後だ。基本的にここのフロアは独立していて遠いから、食事の時以外私はこない。
それと時々、兵士や重鎮、国王なんかも来られる可能性がある。その時は失礼のないようにしろ。失礼があれば罰則があるからな。といっても話をするくらいだろうから、大丈夫だと思うが。
ちなみに、お前は何をやらかしたんだ?特に何も聞かされていないからな。」
「一応言うと、隼翔の国王です。」
「え?あぁ。この間同盟がなんとかって、攻められたところの方ね。まあ、お気の毒にとだけ言っておこう。それじゃあ、また。」
顔は怖いけど、実際はそこまで怖い人じゃなくてよかった。
3時間くらいしただろうか。暇すぎて何しようかと思っていると、誰かが訪ねてきた。灼炎の兵士のようだ。私に何の用だろう。
「あの、自分はただの兵士なんですけど、質問していいですか?」
「いいですよ。」
「女性はどんなプレゼントをもらったら喜びますか?」
「え?プレゼント?」
意外すぎて、一瞬思考が停止したが、
「そうだなぁ。ちなみに、それって彼女さんとかですか?」
「はい。最近告白して付き合い始めたばかりなんですけど、そろそろ誕生日が近くて何をプレゼントすればいいのか分からなくて。」
いやぁ。自分彼女いない歴=年齢だったからどんなのプレゼントすればいいかなんて分からないからな。下手なこと言ってミスったら可哀想だし、ってかこれ私に聞く?
「自分なんかに聞いても参考にならないかもしれませんよ。」
「でも、美人だと噂だったので、もしかしたらよくそういうプレゼントもらうかなと思いまして。もう、あなたが今欲しいものでもいいです。」
女性が欲しいものだもんなぁ。ネックレスとかイヤリングみたいなアクセサリー?それとも香水?今自分が欲しいものでもいいって言ってたよね。
「じゃあ、お菓子とかはどうですか?」
「確かにお菓子ならちょうどいい気がします。ありがとうございます。」
そういって出ていった。たまにはこういうほのぼのとした話もいいかもねと思った。
そして、数分後。また訪ねてくる者がいた。今度は20代後半くらいの女性だった。
「あの、少し話を聞いてもらってもいいですか?」
「はい。」
「私は結婚5年目で子どもはいなくて、夫と二人で暮らしているんですが、最近夫の帰りが遅くて、心配なんです。まさか、私の夫に限って不倫とかしてないかが。」
「うーん。そうですね。何か最近旦那さんに変化とかはありましたか?」
「別に目立った変化はないですね。」
「それじゃあ、あなたの誕生日が近いとかそういうのはありませんか?」
「そういえば、来週私の誕生日です。」
「じゃあ、もしかしたら旦那さんはあなたのプレゼントを買うために遅くまで働いているのかもしれませんね。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
といって、元気そうに帰っていった。さっき誕生日の話があったから、とっさにそれを出して上手くいってよかった。いきなりあんなこと聞かれても探偵でもないから分からないもん。そう思っていると、また来客だ。なんか多くないか?人気になってる?一応、囚人なんだけどなぁ。
今度は小さい女の子だ。
「あのね、お姉さんみたいにきれいになるにはどうしたらいいですか?」
「それはね、努力あるのみだよ。」
「努力?」
「肌の手入れとか、運動とかマッサージとか。」
なんてことをこの牢獄で少女に話しているんだ私は。
「分かった。どりょく?してくる。」
「バイバイ。」
その後もたくさん質問してくる人が来て、私の余命は残り2日となった。意外とこういうのも悪くないと思っていたが、やはりみんなと会えないのはさみしいなと思う1日目だった。
牢獄生活2日目
看守がきて朝ごはんをくれた。
「それにしても、人気じゃないですか。みなさんあなたに質問をしてくるんでしょう。不思議ですね。異国の地で囚人となっても人の良さは伝わっていくものですね。」
「まあ、それほどでもあるかもね。」
またもや私の元に人が訪ねてきた。なんか、見覚えがあると思ったら、昨日の最初にきた彼女への誕プレに迷っていた人だった。
「あの、差し入れでケーキ持ってきました。昨日、質問に答えてもらったお礼です。」
「え?ケーキ!?やったー。ちょうど食べたかったんだよね。ありがとう。」
まさか、私のために持ってきてくれるとは。やっぱり、人は人だ。良い人もいれば、悪い人もいる。
「喜んでもらえてよかったです。」
その人は、私のためにケーキだけ持ってきてくれて、その後すぐに帰った。
やっぱりケーキといったら誕生日のイメージが私にはあるが、一人で食べるケーキはおいしいが、何か足らなくて、前世の頃を思い出すようで、申し訳ないが全部は食べきれなかった。
その後も私に質問する人が来たが、もうどんなことを話したのか覚えていない。
牢獄生活3日目
今日は最終日。明日私は処刑される。今日は一般の人が来るというよりは、国王級の偉い人だけが私に会うのを許されるらしい。
時々看守さんが私に話してくるのだが、どうやら私達の国を攻めた同盟というのは、灼炎を盟主として、寅牙、閃拳、黒洋、瞬刹、渇辣、鳩銘、爽呪の8ヵ国で結ばれたらしい。今後もこの関係が続いていくのかは謎だが、もう私には関係ないことだと割りきっている。
そして、今日のトップバッターは灼炎の王だ。
「久しぶりだな。どうだ?牢獄での生活というのは。」
「まあ、たくさん人が来てくれたからか、そこまで退屈はしませんでした。」
「そうか。つまらないやつだな。まあいい。明日の楽しみは取っておこう。」
「一つ質問をしてもよろしいですか?」
「ああ。」
「隼翔の国の人と前に灼炎に捕虜にされた人達は安全に暮らしているのでしょうか?」
「まあ、灼炎からは攻撃しないと誓ったし、捕虜も開放したから、その後で何か起こっていない限りは大丈夫だろう。」
「ありがとうございます。」
とりあえず、灼炎の王との話が終わったのと、みんなの無事が確認できたから安心した。まあ、王が嘘をついてる可能性も否めないが、私には嘘をついているようには見えなかったので、というかやはり裏で操られていたからこそひどい人間になっただけで、一国の主としての器はかなりでかいように思えた。
その次は、鳩銘という小さい国の王だった。もう60歳を過ぎているであろうおじいさんだった。
「舞衣とやら、わしとしてはすまないと思っている。知らないかもしれないが、この同盟は半ば強制的なものじゃったから、わしの国のような小国は逆らえない。」
「何があったのですか?」
「ある日急に灼炎の使者が来て、同盟を結ばないと鳩銘の国を滅ぼす。と言われて、家臣らと早急に話し合ったがすぐに結論がでた。同盟を結ぶと。
でも、疑問なのがこの同盟は隼翔を滅ぼすためでもなければ、ただあなたを捕らえて処刑するためだけにわざわざ8ヵ国で同盟を結ぶなんておかしいと思わんか?
仮に灼炎の王があなたが以前したことに怒っていてこのような行動を取っているとしたらなおさら信じがたい。あやつなら、後先考えずに力でねじ伏せるようにして、隼翔を制圧しているじゃろうからな。実際は、戦すらせずに数で圧倒しただけじゃ。どうだ。老人の推理は。」
「たしかに言われてみればおかしいですね。私が灼炎に対して尊大な被害を被ったとはいえ、兵力で言ったら隼翔を滅ぼすには十分すぎるだけいたわけだし、それに人質を使ってまで私に降参を求めてきたくせに、30万人も集めて城を囲む必要があったかと考えるとこの同盟の意味はどこにあるんでしょうかね。」
「そうじゃろ。そうじゃろ。ちなみに興奮していろいろしゃべってしまったがこのことは他言無用じゃからな。」
「もちろん。誰にも言いませんよ。」
その後他の8ヵ国同盟の国王が見えた。そして、その最後に来たのは、かつて私をさらおうとして失敗した寅牙の国の王だ。
「それにしても哀れな姿だな浅霧舞衣。知っているかもしれないが、俺はお前の父親が大嫌いだった。だから、俺はお前の父親を殺した。」
ん?今、父を殺したと言ったか?でも、父を殺したのは灼炎でそれを操っていたのは貝取で、こいつはなんにも関係なくないか?
「お前が私の父を殺した?そんな妄言で父に勝ったと思っていてもなんの自慢にもならないぞ。」
「今、貝取のことを思い浮かべただろ。貝取はな、よく頑張ってくれたよ。私の目的のために忠実に働いてくれた最高の部下だった。」
「は?部下?どこにそんな証拠がある?」
「証拠か。証拠なら明日見れるよ。お前が死ぬ時くらいにな。」
「どういうことだよ。説明しろよ。」
「まあ、死にゆく者だし、教えてやろう。まず俺の目的はな、もちろん天下統一だ。そうすればこの日本全土が我が物になる。
そのためにはな、灼炎みたいな国は邪魔なんだよ。だからな、ついでに近くの国も一帯全部自分の物にするために、今回のこの8ヵ国同盟の話を灼炎に持ちかけた。なんかてきとうな理由をつけて言ったら、いとも簡単に了解してくれたよ。まさかこの後俺の作戦によって殺されるとも知らずにな。」
「なんだって。どんな作戦をやるんだ?」
「ちなみに、そうやって俺から色々聞き出して、それを灼炎のやつらにチクっても無駄だからな。そんなことをしたら、お前の大事な仲間が皆殺しになるぞ。」
「お前は灼炎をなめすぎだ。私の仲間をお前らが殺る前にお前らが殺られるぞ。」
「そうかな?別になめてなんかいないけどな。だって、この日のためにわざわざ新戦力を呼んだんだ。灼炎なんか余裕で蹴散らすような。」
「そんなものいるわけないだろ。」
「確かに、この日本にはな。でも、視野を広げてみてみると、こんなにも強い味方が近くにいることに気づいてな。」
「もしかして。」
「そうだ。俺は外国と手を組んだ。」
「そんなことをしてただで済まないことが分かっているのか?」
「ああ、もちろん分かっているさ。」
「お前は何も分かっていない。外国は暇さえあればこの国を侵略するぞ。」
「彼らは神に誓ったら、それには逆らえなくなるという俺にとってはなんともありがたい習性を持っている。だから、そんな心配はないのさ。」
(くそ。こいつに何を言っても通じないし、このままだと結局みんなの命も危ない。かといって今ここに来ている他の国にこのことを言っても結果的に自分の首を締めることになるし、どうしたらいいんだ。)
「まあ、結局お前は明日には死ぬんだから、なんも邪魔せずに空から見守っていればいいさ。それじゃあ、次会う時はお前が死体になった状態でかな。」
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