第21話 真相
隼翔に着くと、まだ他の4人は帰っておらず、自分達が一番乗りだった。
そして、ほとんどの者はまだ起きていない時間帯だったので、警備の者にだけ会って、挨拶を交わした。そして、万が一灼炎が攻めてきた時のために、精鋭だけは起こして準備をさせた。
準備をしているうちに、笠恒が私達に次いで2番目に帰ってきて、お互いに生きていることを喜びあった。
そして、あとの3人が帰ってくるのを待っていると朝日が昇って、それに照らされながら杉崎と山本が帰ってきた。
あと残るは慶護だけか。
しかし、いくら待っても慶護が帰ってくることはなかった。
それもそのはず、あの本気の灼炎に対して、こうやって5人も生還できただけでも凄いことなのだ。
私は寝ずにずっと待っていたが、みんなに王城まで連れていかれて、外に出ることさえ禁じられた。慶護を失ったことで心にはポッカリと大きな穴ができた。
しかし、感傷に浸っている場合ではない。灼炎対策をしないといけないのである。とりあえず貝取は前の安斉敦之助と同じように処罰した。その後みんなで集まった。
まずは、みんなに今回の作戦のことを全部話して、その後、高村成明の紹介をした。その時、やはり反対する者は多くいて、中でも杉崎と景泰は断固拒否という感じだった。そこで、高村成明に波流から灼炎に仕えることにした真相を話してもらうことにした。
「ある日、俺と部下500人は比較的灼炎に近い、波流の国の2番目に大きい城にいた。すると、部下から灼炎がこちらに攻めてきたという情報をもらったので急いで準備をしていた。
敵は5000人に対して自分達は500人とかなり劣勢であったが、それで敗れる俺ではなかった。最初はこちらがかなり優勢のように見えた。
しかし、急に城の中から火災が起こり、城の門を開けた者がいた。実は部下の中に敵のスパイがいたのだ。そして、その後は多くの敵に囲まれた。
その時に灼炎の王がこんな話をしてきた。『もしお前が波流を裏切り、灼炎に仕えて軍師をするというのであれば、ここにいる者の命は助けてあげよう。』
もし、俺が断ればきっと皆殺しになる。それに俺にはチャンスだと思った。みんなは許してくれないかもしれないが、これを機に灼炎でスパイ活動をし、明正さんに情報を横流しすれば波流の国の役に立てると。
そうして、軍師として灼炎の役に立ちながら、波流に情報を流してスパイ活動を続けていたある日。
貝取に呼び出された。なんだろうと思って行ってみると、そこには私の妻が変わり果てた姿となっていた。見るのも無惨だった。きっと、たくさん痛めつけられたのだろう。妻はお腹にいる赤ちゃんを守るようにして息絶えていた。
俺が怒って貝取を殺そうとすると、貝取の部下がたくさんでてきて、俺は縄で縛られた。
そして、貝取に『これから、波流の国を攻める。なんで、こうなっているか分かるよな。お前が裏切ることなんかしなければお前の妻はこうはならずに済んだのにな。それと、これからはお前の両親が人質だ。覚えておけ。』そう言われた。
きっと貝取は俺の軍師としての才能は認めていた。だからこそ俺の守るものを壊すことで、俺を灼炎に忠実な犬にしようとした。そして、あとはさっき舞衣様が話された通りだ。」
「舞衣様。こんな裏切り者の言うことなんか信じますか?」
「私は信じる。私にはこいつが嘘をついているようには見えないし、それに、昔父が重臣に作っていたという、ヘンテコりんなお守りをこいつは捨てることなく、きれいな状態でずっと持っていた。」
「いつの間に取ったんですか?はやく返してください。」
「あぁ、ごめん。返すよ。」
「高村。まだ、それを持っていたのか。明正さんガチ勢の私でもそれは、ぼろぼろになって、どこかでなくしてしまったというのに。まあ、舞衣様が高村を信じるというのなら、私もそうしようと思います。」
俺も、僕も、私も、おいどんも、という声が聞こえてきて、とりあえずひと安心した。
「あと、なんとなく呼びづらいから、あだ名つけてもいい?」
「変なあだ名でなければ。」
「んー。何がいいかな。じゃあ、シゲって呼ぼうかな。変じゃない?」
「シゲですか?」
「うん。」
「いいですよ。」
そんなかんじで、正式にシゲが新たな仲間になったわけだったが。
いつまで経っても慶護が帰ってくることはなかった。
一週間が経った。
その頃の村ではたびたび人が失踪するという事件が起きていた。
今までと違い、明確な敵がいないので、根元を断つことはできない。そもそも、誰かの仕業なのかも分からない。ただ、この間灼炎に攻めて、それで最近になって頻発するようになったというのは、何か関連があるかのように思われる。
そこで、いつもより警備を増やし、各村ごとに5人くらいの兵士をつけて、特に小さい子や女性などのさらわれやすい人が一人で出かける時は護衛するようにした。
そのおかげか、警備を増やしてからの一週間は毎日、失踪の件数が0になった。これでひと安心。むしろ、農民と兵士が関わる数少ない機会なので、貴重な時間となった。この前の慄辛の戦い(渇辣との戦い)で失った村の活気も取り戻ってきたようだった。
そんな中、私は失踪の対策をしながら、慶護の捜索にも力を入れた。
だが、慶護が見つかることはなかった。さらに、事態を悪化させるできごとが起きた。今度は捜索隊の失踪である。今まで村で失踪したのは、子供や女性などであった。
しかし、今回失踪したのは、成人男性のしかも普段は兵士をしているくらいの強者である。そんな捜索隊の者が失踪したとなると、もう捜索を続けることも困難となった。
まるで私は誰かの手のひらの上で弄ばれているかのように思えてしかたなかった。
そして、今度はこちらが仕掛ける番ということで、捜索隊をまた派遣し、その周りには伏兵を大量に忍ばせて犯人を捕まえるという作戦である。策に行き詰まった私を見かねて、シゲがこの作戦を立ててくれた。
作戦通り偽の捜索隊1人を派遣し、伏兵がたくさんいるエリアをぶらつかせた。30分ほどすると、誰かがやってきて、敵か?と思ったが
「あの、道に迷ってしまって、王城へはどちらに向かえばいいですか?」
まさかのただの旅人のようだったので、捜索隊の者が親切に答えようとすると、背後に現れた人が思いっきり捜索隊の頭を木片で殴ってきた。
「たくさん失踪してるやつがでているのに、未だに1人で外を出歩くなんて、アホだな。」
「そうだな。今回も楽な仕事だったな。」
敵はとりかこまれていることに気づいていないのか平然と話していたので、伏兵達は一斉に姿を現して、降参するように言った。もちろん、これには観念したようだった。
そして、王城に連行して話させると、どうやら灼炎の刺客らしかった。つまり、灼炎は今、隼翔の捕虜を集めている。考えられることは一つ。人質だった。
「シゲ。これにはどんな対応をすればいいんだ?」
「そうですね。」
話している途中で、
「舞衣様。北東から烽が立っています。」
「舞衣様。南からも烽です。」
「北西からも烽です。」
「南西からも烽です。」
「え?どういうことだ?こうも一斉に。もしかして、灼炎に国を囲まれたのか?」
「でも、いくら灼炎とはいえ、この国全体を囲むほどの兵力はありませんし、こないだ灼炎の王城を燃やして灼炎は大打撃を受けたばかりです。
それに方向的に、灼炎でない違う国からも上がっているということは、もしその兵が灼炎であるなら、その方向にある国を灼炎がすべて滅ぼしたことになりますが、そんな情報入っていません。あ!もしかして。」
烽に気づいた時以上にシゲが怖い顔をしている。
「もしかして、なんだ?」
「もしかしたら、灼炎は隼翔の国周辺の国と同盟を結んで、隼翔を潰そうとしているのかもしれません。」
「え!?それってやばいじゃん。」
そう言って、外を見回してみると、烽台を設置した8方向全てに烽が上がっていた。
「敵の兵の数は合計30万に上ります。」
「シゲ。どうすればいいんだ。私達は5000人しかいないんだぞ。」
「おそらく、敵は兵の数からして力攻めをすることでしょう。力攻めには、城を守る兵の数の2~3倍の兵力が必要と言われるくらい、大変な作戦なのです。ですが、今回は敵は私達の60倍いますから、私達が籠城して勝てるかわかりません。
ただ、この城は籠城するために作られたかのような設計になっていて、普通の力攻め以上に敵は兵力が必要になってくると思います。
さらに、先程の烽で農民がそろそろ王城に集まってくることでしょう。農民も国の一大事となれば協力して城を守ってくれることでしょう。なにより、みんなあなたを信頼しているからこそですが。」
「じゃあ、籠城することにしよう。みんなにも伝えてくれ。」
準備が整った時には敵はもう近くまで来ていた。
敵は城の前までくると攻撃するかと思いきや、一本だけ矢を放って叫んだ。
「その矢についている紙を読め。そして、どうするか決めろ。時間は10分やる。」
紙を開いて見てみるとこんなことが書かれていた。
「もし、隼翔の国王が降参して一人で城から出てきて、抵抗せずに我々に連れて行かれるというならば、我々が持っている隼翔の捕虜を返してやろう。捕虜の中にはお前らが頑張って探していた慶護とかいうやつもいる。
それに加えて、今城にいるお前の家臣や国民の命も保証しよう。
もし、降参せずに戦うことを選択するのならば、こちらの勝ちは明々白々だから、今城にいる者全員の命はないと思え。さらに、捕虜にしてる奴がどんな仕打ちにあうのかは全てお前の行動次第だ。
お前のせいでたくさんの命を失うか、お前がみんなの命を救うのか、くれぐれもよく考えてくれ。」
「まずは敵と話した方がいいですよ舞衣様。」
「そうだな。こういうのはシゲに任せるよ。」
私はみんなに動揺しているのを悟らせまいと思っていたが、みんなには明らかに伝わってしまったようだ。なにしろ、あんだけ探した慶護がまさか灼炎に捕えられていたとは。
「灼炎の者に質問する。捕虜達はどこにいる?」
「ここにいるぞ。」
捕らえられたみんなが手を縛られた状態でそこにいたが、よくみても慶護はそこにはいなかった。
「慶護という者が見当たらないが。」
「そいつはお前達にとっても大事だろうから、こんな危ないところには連れてきてないよ。」
「じゃあ、今どこに彼はいるんだ?」
「灼炎の国で保護している。もしかして、俺達が嘘ついているとでも思ってるのか。それならなんで、そいつが今まで見つかってないんだ?捕まってでもいないと今頃お前達の前に出てきているだろう。それが何よりの証拠だ。」
「じゃあ、質問を変えるが、捕虜を返してくれる保証はどこにある?それに、城を攻めないという保証が。」
「できれば、俺たちも死人を出さずに勢力を拡大したい。もし、捕虜を返さなかったり、城を攻めたりしたら、その分死ぬだろ。だから、保証してやるよ。」
ここで、景泰がシゲに対して言った。
「なんで、お前はさっきからずっと、まるで舞衣様が相手に連れて行かれる前提で敵と話してるんだよ。」
当然の主張だった。
「みなさんもさっきの舞衣様の表情を見たでしょう。舞衣様は慶護という者のことをとても大事にしている。だからこそ、敵の紙を見てあんな表情をしたのです。
それに、聞いた話では、蒼天の国が来た時に、攻めに来たのかと勘違いして自分を犠牲にしてまでみんなのことを守ろうとしたそうじゃないですか。
もしこのままでは舞衣様は降参を選んでしまいかねない。だからこそ、おかしい点や不明な点を聞いて、説得の材料にしようとしているのです。」
「そうでしたか。失礼しました。」
「とにかく、みんなで舞衣様を説得しましょう。」
私はみんなが敵と話している間、どうするのか一人で悩み、一人で抱え込み、一人で決断した。
きっと、この時の私は正気の沙汰じゃなかった。父に言われたことを無視してでも自分の道を選んだ。
「みんな、さっきの話だが、よく考えたんだが、私は降参することにする。みんなの...」
「そんなの絶対だめです。敵が言っていることは絶対嘘です。慶護という人質がいながら、わざわざ他に人質をとることも謎ですし、何よりもここに人質である慶護を連れてこないというのはおかしいと思いませんか?」
「でも、本当に慶護が灼炎に捕まっていたら、今も苦しんでるかもしれないし、私がここで出ていけば、他の人質は開放されるし、この城の者だって助かる。」
もう私にはみんなが私を引き止める顔も声も届かなかった。ただ見えるのはきれいな青空だけだ。私の心には雲一つなく、降参すること一択だった。
私が前に進もうとするのをみんなが阻むので、私は刀を抜いて、何人かに峰打ちをした。
「私は本気だ。次はもしかしたら、みんなに刃が当たってしまうかもしれない。頼むから、邪魔しないでくれ。」
みんなは、私のプレッシャーに圧倒されたのか、私を引き止めずにどいた。しかし、一人だけ私の前に立ちはだかった。それは、景泰だ。父の時代から活躍している景泰はもう40代くらいになるが、未だに私は景泰と勝負しても勝ったことがないくらい強く、真剣でやるのは初めてだ。
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「そろそろ、10分経ったけど、出てこないってことは交渉決裂で、戦うってことかな?」
その時ちょうど、城の門が開いた。
「私が浅霧舞衣だ。降参するから隼翔には攻めないでくれ。それに捕虜も返還してくれ。」
「よし、いいだろう。手を縛って檻に入れて連れて行け。」
*****
さっきの景泰との勝負はもちろん、私が出てきたということは私が勝った。
どうやって勝ったかというと、私は父との修行を思い出し、みんなを守るためにも、私は景泰と戦うことを決意した。
最初、景泰が一刀流で、刀を私に向かって構えていた。景泰としては、私を殺したり、重症にでもしたら、本末転倒なので、なかなか攻められないでいた。
その時、私は果敢に攻めていったが、驚くべきことに、景泰の刀と私の刀が当たるタイミングで、私は景泰の刀を切り落としていた。
景泰はもう一本の刀を出して、また私に向かって構えた。しかし、またもや私は景泰の刀を切り落としたのである。
もしかしたら、この私の刀「天の羽衣」は鉄を切ることができるのかもしれない。けど、前の慄辛の戦いではそんなことはなかったから、もしかしたら修行のおかげなのか、それとも天の羽衣と修行の2つとものおかげなのか分からないが、今はとにかく早く私が降参するために、私は城の外に出ないといけないのである。
もう武器がない景泰にとっては止める手段もないので、ただ突っ立っていることしかできなかった。
私はさすがに景泰の刀を使えなくしたのを悪く思って、「天の羽衣」を「景泰にあげるよ。」と言って、その場に置いて、私は走って城の外へと行った。
*****
そして、灼炎達は宣言通り捕虜を返して、各自自分の国へ帰っていった。
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