第50話

タワー最上階。部屋全体が廃墟のようで、足下には瓦礫やガラス片が散らばっている。埃っぽくて、宇宙のように寂しくて、このタワー内で一番嫌いな場所だった。


布が破れまくった古い一人用ソファーに腰掛け、僕を見つめるタワーマスター。相変わらず、髪がボサボサで着ている服も伸び伸びでぼろぼろ。不潔過ぎる。



「ユラ…………。アイツは、まだ生きてる?」


2ヶ月ぶりにキングに呼ばれた。このフロアにいると、常に死神に首を絞められているような息苦しさで吐きそうになる。何百、何千、何万………数えきれない人間達が、この場所で地獄に堕ちていった。彼らが吐き出した運の残滓、黒く結晶化した『運骸(うんがい)』が点在している。


まぁ……負けた彼らも、決して弱者ではなかった。


ただ相手が、悪すぎただけーーーー。




「ギリギリですが、前田 正義君は死を回避しています。彼、悪運だけは強そうですね~」


「……そうか」


「一つ、質問しても良いですか?」


「………あぁ」


「彼にカードを送ったのは、あなたでしょ? 彼が、あなたのお気に入りなのは分かりますが、ほとんどがSランク以上の特殊なカードばかり。甘ちょろい正義君にすべてを使いこなせるとは思えないんですよね。宝の持ち腐れってヤツですよ」


「……………俺は、持ち主に返しただけ。本来、持つべき者にな」


「持ち主?………あ…ぁ……なるほど……正義君が………。そういえば、あの勝負の後でヴァルカン二千人を捜索にあてましたが、このタワーから逃げた女の足取りすらつかめなかったなぁ。仕方ないから、表向きは死んだことにしましたが、もしかしてあなたが」


キングが老いた皺だらけの左手をのばすと、黒い風が部屋全体に吹き荒れた。


気を抜くと、この狂風に運を食い潰されてしまう。


「まだ死にたくないので、これで失礼します。今度は、甘いカフェオレくらい出してくださいね」


壊れたドアの隙間から抜け出ようとした。


「……ここまで来れそうか?」


「彼が、本当にあの女の子供ならね」


久しぶりに本気で命のやり取りが出来るかもしれない予感。嬉しくて嬉しくて、思わず、スキップしてしまった。

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