第27話

ネムと鮎貝に両脇を支えられながら、放心状態の僕はナミダが指定する場所まで引きずられた。


指定場所の三十階に入った瞬間、眩しくて目を開けられなくなった。目の前に広がる砂漠。一面、砂の海。遥か彼方まで黄金の山々が連なっている。異空間に迷いこんだようだった。

今まで現実離れしたものをたくさん見てきた為、驚きはしたがすぐにこの状況にも慣れ、適応力の高さを見せつける僕達であったーーーー。


「………ありがとう。ここからは、一人で歩くよ。助かった………」


「本当に大丈夫? 具合い悪くても、負けたら許さないから! そもそも、まだ私とエロいことしてないのに死ねないよね」


「私達は、運命共同体です」


二人とも優しくて、涙が出そうだった。


しばらく歩くと、舗装された平坦な場所が不自然に出現した。その中心に立つ、痩せた男。僕の姿を確認し、嬉しそうに笑っていた。覚悟を決めた僕は振り返り、ネムと鮎貝が安心出来るように笑顔でガッツポーズ。


「……………いや、そんな顔面蒼白で引き攣った顔されても……」


「ネムちゃんとここから応援しますっ! ふぁ、ファイトっ!!」


鮎貝の初ガッツポーズ。全身がピーンと伸びている。なぜか、つま先立ち。

その姿が面白くて、でも笑ったら本人に失礼だからと思い、唇を噛んで笑いに耐えた。


男は、小走りで僕に近づく。両耳の派手なピアスが光り輝き、その目は赤く燃えていた。


「お前か? 噂のルーキーは」


「う……ん。まぁ……そうなのかな」


「早くヤろうぜ! 楽しみで楽しみで仕方ねぇ」


ナミダを護衛する奴隷達が、十人近く主の背中を見つめていた。忍者のように気配を消した警備責任者のハルミが、僕達の前に現れる。どうやら、この勝負を見届ける審判役らしい。


「今回、使用するカードは、お互い一枚とします。時間は、無制限。カードが破壊された時点で、決着となります。プレイヤーヘの直接攻撃は認めません。さぁ、勝負を開始してください」


ブゥウゥーーーーーー!!


ブゥウゥウゥーーーーーーー!!


鼓膜が破れるほどの大音量のサイレンが空気を震わせる。


ナミダは、上着を脱ぐと上半身裸になった。龍の刺青が、優雅に男の腹部を横切る。


「俺は、もちろんコイツだっ!」


派手な演出。視界ゼロの煙幕の後で現れたのは、シルクハットを被った老紳士。パペットマスター。


「お前のカードを見せろっ! さぁ、さぁ、さぁ」


自分が持っているカードを再確認。


「………………」


バンバが言っていたように、あの『何も描かれていないカード』だけがなかった。30分前まで確かにあったのに。やはり、あのカードは何か特別な力がある。


「目の前に集中! 集中っ!!」


「練習を思い出して! ヤバそうだったら、タオルを投げますから」


首にタオルを巻いたセコンド二人(ネム鮎)。


僕は、ゆっくりとカードを選び、召喚した。残ったカスカスの運で召喚出来、且つ、勝てる可能性があるのはこの一枚だけだった。


蟲使いバムバム。


『ぶりゅりゅ!』


目玉が1個。なのに手足は、それぞれ10本もある。正直、ゾンビより何倍も気持ちが悪い化け物だ。


召喚と同時、いきなり、パペットマスターの老紳士が攻撃してきた。両手を広げ、何やら呟くと砂の中から大量の蠍が出現した。バムバムは、その10本の足で蠍から逃げ回る。


素早さだけは、Aクラス。

これでいい。逃げ続けろ!


このフィールドが砂漠であったこと。

まだ自分が運に見放されていないことが分かった。


『アレ』を仕掛けるには、これ以上にない好条件だったからーーー。

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