第23話

私は、化け物ーーーー。


醜悪な本当の私が、今もワタシを紐で操っているだけ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



冷たい雨が降っていた。傘は持っていたけど、私は濡れることを選択した。


「どうした? 風邪引くぞ」


この中学で、初めて私を拒絶しない人に出会った。前田さん………。彼の傘の中は、とっても温かくて……涙が溢れた。泣くことしか出来なかった。


「私と…いると……あなたも不幸になっちゃうから……だから……」


「不幸ってさ、一人だとなかなか抜け出せないだろ? でも二人なら、何とかなるかもしれない。いつでも手を貸すから。だから、大丈夫だよ。心配するな」


「私は……あなたを助けられない……」


体から漏れだすタールのようにねっとりとした黒い自分が、彼の体を容赦なく包み込む。


やめてっ!!


彼だけは、不幸にしないで。


何でもする。だから………彼だけは……助けて……。


お願い………。


闇の中。それでも彼は、絶対に傘から手を離さなかった。体はガクガク震え、もう話すことさえ出来ない。


「どうし…て……?」


あなたは、こんなにーーー。



震えている彼の手を両手で握り、一緒に傘を支えた。氷のように冷たい手……。


「もう逃げない」


初めて、真っ黒な自分を正面から睨み付けた。


絶対に、この手は離さない。

離したくない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



気絶した彼は、悪夢にうなされていた。


「大丈夫。大丈夫だよ……」


しばらく彼の頭を撫でていると、やっと落ち着いた。


「代わろうか? 疲れたでしょ?」


ちょこんとソファーに座っていたネムちゃんが、心配そうにチラチラこっちを見ている。


「ネムちゃんも、こっちに来て」


反対の手でネムちゃんの小さい頭を撫でた。


「いい子、いい子。優しい……いい子」


「みゅぅ…………鮎ちゃんの手、あったかいから好きぃ……」


「私も好き」



前田さん。


あなたのおかげで。


やっと雨がやんだよ。

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