第4話 自分勝手に『これは良い考えだ!』と思っていた事が『休むに似た、下手の考え』だったと判ると、暫く立ち直れなくなる……。

 ……ふと気が付くと、僕は病院のベッドに寝かされ、点滴を受けていた。


 白樺先輩が手を握って心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。


「白樺さん……」……と声を出そうとしたが、口の中に何かが詰まっていて「ん……んぐ……」としか声が出せない。


「やすりさん! この『トゥルク』外してあげちゃダメですか?」……と白樺先輩が脇の椅子に腰かけた狭間さんに言ったが、狭間さんは首を横に振って……


輪音りんねくんが現状を理解出来るまで『ナメくん』に命令を出させる訳にはいかない」……と冷静に言った。


「輪音のバカ! やすりさんに逆らうなんて!」……そう言って、白樺先輩が握っていた手をバチンッと叩いた。


『いてててっ』くらい言いたかったが、声が出せなかった。


******


 あの時……狭間さんが僕の口に、何かを口移しで流し込んだのは覚えている。 これが『トゥルク』? 喋れなくするアイテムみたいだ。


 その後、狭間さんはポケットから何かを取り出した。


 ……!


 塩だ! 塩は、ナメクジである『ナメくん』の唯一の弱点だ!


 しかし実は、僕はこの弱点を克服する策をほどこしていた!


 ……なぜナメクジに塩をかけると小さくなってしまうのか? ……それは、浸透圧の関係で、ナメクジの半透膜から水分が排出されてしまうからだ。


 だから、僕はナメくんの水分が排出されたら、僕の体内の水分を補填するように指示しておいたって訳だ!



 ……ところが……。


******


「ナメくんを助ける為に自分の水分を与えて、挙句の果てに脱水症状で倒れるなんて、考えが甘すぎる!」


「……」……声が出たとしても、返す言葉が見付からない……。


「……にゅう……」……と、小さな声がした。 僕の横で、ナメくんが申し訳なさそうに小さくなっている。


 ナメくんは無事だったんだ! 良かったあ~!



 狭間さんが続けた……「輪音くん、さっき私に『こんなに冷酷な人だと思わなかった』って言ってたけど、そんなあなたに、この言葉をお返しします!

『こんなに愚かな人だと思わなかった』」


 グサッ! う~! 痛いところを突かれた~! ……狭間さんって、結構、根に持つタイプなんだな。


「私みたいな戦闘能力の欠片かけらも無い人間に負けて倒れちゃうような人が、あの『暗躍者クリープス』にかなう筈がないでしょ!」


 僕にはもう、狭間さんに対抗する気力は残っていなかった。 


 それを察したのか狭間さんが「……白樺さん……トゥルケン……ローして下さい」と言った。


 白樺先輩が、ゆっくりと、僕に顔を近付け、優しく唇を重ねた……。


 それと同時に!


 『ぷはぁ!』 お~! 口が自由に動く!


 ……白樺先輩が「……私の大事なファーストキスをこんな形で使っちゃうなんて」……と言って口を尖らせたが……何か嬉しそうなのは何故? ←鈍感




 その後血液検査をして、問題無い事が判り、その日のうちに父母に迎えに来て貰い、退院した。


 帰宅して、ベッドで目を閉じて考えた……



 ……残念だけど、悔しいけど……狭間さんの言う通りだ……。


 ……このままじゃ、自分自身すら護れない……


 お気楽に調子に乗っていた自分が恥ずかしく、頭から布団を被って、この日はそのまま眠ってしまった。

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